▼リベラルな教授の「偏向」監視、議論に UCLA同窓生▼
朝日新聞 3 Feb. 2006

米西海岸のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で、共和党
系の同窓生グループがリベラルな言動の目立つ「過激な教授」の実態を
暴き出そうと、在学生に教授の講義メモや録音テープを1件100ドル
で買い取ると呼びかけ、論議を呼んでいる。名指しされた教授らは「ま
るで(冷戦期に共産党員とレッテルをはって言論を封じた)マッカーシ
ズムの赤狩りの再現だ」などと反発している。

在学中に共和党系学生組織の指導者だった男性が、03年に卒業した後
結成した「ブルーイン校友会」がネットなどで呼びかけている。

「授業で極端な見方を押しつけている」とみなしたリベラル派や左翼系
と思われる教授ら「最悪の30人」をリストアップ。その「偏向ぶり」
を裏付けるため、これまでに集めた約2万ドルの寄付金を元手に具体的
な情報を集めるという。

米国では、リベラルな教授の政治的発言を問題視し、自由に書き込める
ウェブサイトができるなど、保守派が学内にまで監視網を広げている。
「最悪」と名指しされたピーター・マクラレン教授(教育学)は、朝日
新聞の取材に「我々の言動や著作に対する攻撃だと思う。学生をスパイ
や情報屋に仕立て、教師と学生がお互いを尊重する雰囲気を損なうもの
だ」と憤る。

大学当局は、学生が金銭のため授業に関する情報を提供した場合は、著
作権法に触れる恐れがあると警告している。

▼UCLAで魔女狩り▼ by LA Times 22 January 2006
By Saree Makdisi

UCLA 学生諸君:ブッシュ大統領、イラク戦争、共和党、その他授業の
内容とは関係ないイデオロギー論点について語るのを抑えられない教授
はいますか?終了した授業でも来期の授業でも構いません。その教授を
暴くのに手を貸してくれるなら、報酬を払いますよ。

先週、このグロテスクな申し出が大学の学部のメンバーをねらう新しい
ウェブサイトに出現した。2003年度UCLA 卒業生アンドリュー・ジ
ョーンズが設立した団体、ブルーイン校友会が考案したサイトは、授業
のメモや刷り物、不正なレクチャーの録音に報奨金を提供する(このど
れもに100ドル)。

しかしながら、「標的にされる教授たち」のプロファイルに目を通すと
ほとんどの場合、彼らの言動のせいではなく、教室外、大学外での立場
のせいで選抜されているのが明らかになる。

たとえば、私の得意分野であるワーズワースやブレイクといった英国の
詩人についての授業で私が言ったことのせいどころか、中東政策につい
て新聞に書いたことのせいで、私は自分自身の誤った名誉毀損のプロフ
ァイルを受けた。

いずれのつきあい、いずれの年齢においても、人に向けて話すこと取り
組むことが、いつの世でも知識人の務めであった。差し迫った社会問題
や万国共通の道義の類について自由に話すせいで、私の同僚や私は標的
にされている。

公共のフォーラムで自由に意見を述べる教授はいずれも、同時に生徒に
対するイデオロギーの虐待をほしいままにし、生徒を転向させ、思想を
吹き込むと、ウェブサイトは決めてかかる。そして実のところはどんな
教授もというのでなしに、「保守的」な教員はサイト上で標的にされな
いので、推定上「リベラル」な教授だけなのである。

当然、人前で自由に意見を述べる教授は公然と批判を受けるだろうと思
っている。批判は批判。間違った引用の寄せ集めや虚偽の陳述、全くの
虚偽、人の家族に関係ないことを持ち込むこと、ハイスクール時代にま
で広げて悪用するのは、全然別のことである。誰かの授業のやり方を値
踏みするのはダメなのである。

もちろん、結局これは私や私の同僚、あるいは私たちの授業とは関係が
ない。教授の生徒の扱い方を評価するメソッドはすでに大学の動かし方
に組み込まれている。UCLA のすべてのコースで学生には匿名で自分の
教授を評価する機会を与えられており、そういう評価が雇用や昇進、終
身在職権の決定に役立っている。人を罵倒する教授は出世はしない。

実際には誰にも説明する責任のない政治的に動かされた小さな狂信者集
団がうまく要求を満たせることなどまずないはずであり、教師と学生と
の間のきわめて神聖な絆を壊すために金銭的結びつきを役立てようと試
みる大義、つまりウェブサイトの真意とは教室の力学について正真正銘
の評価を示すことではない。むしろ真意は、狂信者の右翼正統派的慣行
に逆らう意見を黙らせることであり、単にこの集団のような絶えず警戒
を怠らないグループのみならず、ついには国家の手によって教室を外部
の政治的監視にさらすことなのだ。

ウェブサイトを立ち上げたジョーンズは、UCLA 構内の共和党組織の元
リーダーだ。彼は明快に保守的な活動家デイヴィッド・ホロウイッツに
よって始められた「学園の学生自由運動」と提携する(ホロウイッツは
先週ジョーンズを非難したが、教授について間違った報告を提出するよ
う学生たちに圧力をかけたせいで彼を解雇したことがあると言った)。

学園自由運動を特徴づける2つの目玉は、これに組みする重要な学生の
絶対的な欠如と、ジョージ・オーウェルの「1984」風世界の言葉を
使うことだ。「学園の自由」のようなスローガンは、実は彼らが相容れ
ない、逆のことを意味する。

ウェブサイトの顧問会議のメンバーのひとりがビル・モロー上院議員。
彼は、学生によるのでなしに、酷評を食らうと考える仕事には立ち上が
らないのを当然のことと決め込む父権的感傷主義の友人たちによる「学
生の基本的人権に関する宣言」を作るための議案を提出している。

昨年通過し損ねたが今年再び審議されるモローの議案は大混乱をもたら
すはずだ。教室を監視する空前の混乱状態を強要することになり、教授
に不名誉な題材を教えるのを強要することになる。たとえば、「(語学
・文学・歴史・哲学など)人文科学と(経済・社会・政治学など)社会
科学におけるカリキュラムと推薦図書は、この分野で人が知る不確実で
変わりやすい人物はすべて尊敬すべきだと断言して、学生に異なる見解
と異議を唱える情報源(出典)を提供する。

意図はおそらく、「リベラル」な教員に「保守的」な題材を教えるのを
強要することだろう。まるでビル・オライリーの番組と同じ低俗化した
ロジックによる大学教育機能であるかのように。だが、議案はホロコー
ストを否定する見解(異議を唱える情報源)を教えるのに、教授にホロ
コーストを教えることも余儀なくさせることになる。

そんな微妙なものは保守的な改革運動家を起こしておけない。彼らのキ
ャンペーンを苦しめるダメージに関係なく、度しがたい右翼のメンバー
らは、それが貧しい人と病人または年配者の面倒を見ているとき反動主
義者が普通はぼやく「大きな政府」の干渉と露骨な脅迫により、大学の
システムに彼らの世界観を押しつけようと努めている。

何を教えられるかが、学者の基準によるのでなしに政治的圧力によって
決定されることになるのを、議案がうまく通ることでほぼ約束する。保
守派に間違われるのは遺憾に思うが、真に教養のない野蛮人が入口にい
るのだ。

▲Saree Makdisi はUCLA の英語と比較文学の教授である。