▼米連邦地裁 公立校での知的計画(ID)説教育は違憲▼ AP 通信
20 Dec.2005

ペンシルベニア州ハリスバーグ発:米連邦裁判所は 20 日、ペンシルベ
ニア州ドーバー学区における生物の授業で「インテリジェント・デザイ
ン」(知的計画ID)説について言及してはならないと述べた。進化論を
めぐるものとしては、高校の生物教師ジョン・トーマス・スコープスが
テネシー州法で禁じられたダーウィンの進化論を教えたことで訴えられ
た1925 年のスコープス裁判以来の、最大級の法廷論争において判決が
下されたことになる。

ドーバー学区教育委員会が地球上の生命はある特定できない知的要因に
よって生み出されたとする概念を同学区の生物学のカリキュラムに採り
入れるよう命じたことについて、連邦地裁の裁判官ジョン・E・ジョー
ンズ三世は、合衆国憲法に違反すると判断した。

数人の委員が信仰心を公言する一方で、自分の動機を隠すために繰り返
しウソをついたとジョーンズ裁判官は述べている。

ドーバーの教育委員会は2004 年10月に今回の方針を採択したが、こう
した動きに出たのは全米で同学区が初めてのことと考えられている。

「ID 方針を支持した委員によるドーバー学区の住民の扱いは不適切だっ
た」とジョーンズ裁判官は記している。

教育委員会の弁護士らは、チャールズ・ダーウィンの自然淘汰説以外の
選択肢を生徒に与えることで委員たちが科学教育の向上を目指していた
のだと説明していた。IDを支持する人々は、自然淘汰説では生命の複雑
な形態の存在を完全に説明することはできないと主張している。

ID方針に反対した原告らは、IDは創造説を現世的に作り直したものだと
して反論している。創造説については、すでに複数の裁判所が公立学校
で教えることを禁じる判決を下している。

ドーバー学区の方針では、生徒が9年生の生物の授業で進化論について
学ぶ前にIDについての説明を聞くことを義務付けていた。この説明では
ダーウィンの理論は「事実ではなく」、不可解な「食い違い」があると
している。そして詳細はIDの教科書「パンダと人について(Of Pandas
and People)」を読むことを勧めている。

ジョーンズ裁判官は、IDという概念の学習や議論をすべきではないとは
思わないが、「進化論に代わるものとしてIDを公立学校の科学の授業で
教えることは違憲というのが本日の結論である」と述べた。

この論争によってドーバーのコミュニティも分断されていた。11月8日
に行なわれた教育委員会の選挙では、ID方針を支持した当時の委員8人
が、論争に刺激された投票者たちによって職を追われた。

今回のドーバーの件のように、米国の学校における進化論の教えに対し
て新たな注意を喚起する訴訟は他にもいくつかある。

学校側が指定する生物学の教科書に貼られた進化論についての但し書き
のステッカーが違憲かどうかが争われている問題で、今月に入ってジョ
ージア州の連邦控訴裁判所で弁論が行なわれた。

進化論は理論であり事実ではないと書かれたこのステッカーについては
今年1月、連邦裁判所が同州コッブ郡の学校関係者に対し、ステッカー
をただちに取り除くよう命じていた。

11月にはカンザス州の州教育関係者が、進化論を疑問視する新しい科学
教育の基準を採択している。

ドーバー学区の高校の指導者が進化論に関する生物の授業の冒頭で生徒
に聞かせてきた「インテリジェント・デザイン」の説明は次のようなも
のだ。

「ペンシルベニア州の教育基準では、生徒に対し、ダーウィンの進化論
について学び、進化論も一部に含まれる標準化されたテストを最終的に
受けることを義務付けている」

「ダーウィンの理論は1つの理論であるため、新たな証拠が発見される
たびに検証され続けている。この理論は事実とは異なる。理論には食い
違いがあり、それについては何の証拠もない。理論は、広範な観察を統
合した、十分に検証された説明と定義される」

「インテリジェント・デザインは生命の起源についての説明であり、ダ
ーウィンの見解とは異なる。インテリジェント・デザインが実際に意味
することの理解を深めたい生徒のために、参考図書の<パンダと人につ
いて>をはじめとする資料が図書館に用意されている」

「どの理論についても生徒たちには心を開いて受け入れてもらいたい。
学校は生命の起源の議論をおのおのの生徒やその家族に委ねる。基準に
従う学区として、授業の指導は、基準に沿った評価において生徒が習熟
できるよう的を絞ったものになる」

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▼ブッシュ政権による科学の歪曲を暴く本▼WIRED NEWS
by Brian Alexander 30 Aug.2005

以前私は、筋金入りの宗教右派のクリフ・スターンズ下院議員(共和党
フロリダ州選出)にインタビューしたことがある。当時スターンズ議員
は、クローニングによってヒト胚を作成しようと試みるあらゆる科学者
を監獄送りにする法案を提案していた。スターンズ議員がクローニング
と胚性幹細胞( ES 細胞)の研究に反対する理由は、本人の言葉によれ
ば、次のようなことである。ふつうの人間に「触手」があり、クローン
人間にはそれがないとして、クローニングを進めれば「触手を持たない
今までの人類とは別のカテゴリーに属する人たちが生じ、人間の間に優
劣が生じるかもしれない。出会った相手がクローンだとわかったとき、
どう対応すればよいのだろうか?」

スターンズ議員を、ハリウッド史上最悪の監督と言われるエド・ウッド
並のでっち上げだと非難する気にはなれないかもしれない。そもそも、
スターンズ議員は科学者ではないし、息抜きになる笑い話を提供してく
れるのだから。しかし、ジョージ・W・ブッシュ大統領が最近、進化論
のかわりに「インテリジェント・デザイン(ID)」説を教えることを支
持した件は、笑い話で済むものだろうか?

笑って済ませられる話ではない。ブッシュ大統領は「デウス・エクス・
マキナ(都合よくすべてを解決してくれる神)」と書物による知識とを
対比する発言をしばしばしており、今回のID説の件も単なる一度きりの
バカ話ではないからだ。彼らの発言の数々は、サイエンス・ライターの
クリス・ムーニーの新著のタイトルである「科学に対する共和党の闘い
(The Republican War on Science )」の一環と言えるのものなのだ
(1つ断っておく、ムーニーがこの本を出した米ベーシック・ブックス
社からは私も本を出したことがある。さらに言わせてもらえば、私の出
した本はほんのわずかしか売れなかった。よって、私がお金に釣られて
こんなことを書いているのではないのは断言できる)。

息子のほうのブッシュ大統領の就任後の特徴として、科学や科学者との
敵対関係があることは、この本を読まなくても誰でも知っている。これ
ほどまでの緊張関係は1954 年に「原爆の父」ロバート・オッペンハイ
マーが秘密資料の取り扱い権を剥奪され、ライナス・ポーリング(核実
験反対運動で知られる化学者)がパスポートを取り消されて以来のこと
だ。ブッシュ政権とそれを支える者たちが、これまでに繰り返し、科学
者や科学研究に関して事実をねじ曲げ、場合によってはウソをついてき
たこともよく知られている。地球温暖化、幹細胞、クローニング、性、
土地開発、環境汚染、ミサイル防衛といったテーマが思い浮かぶ。

ムーニーのこの著書の本当の価値は、彼がこうした歪曲の舞台裏を暴い
ていることにある。科学を攻撃している団体や人物が誰で、科学への誹
謗中傷を作り上げる戦術や、その誹謗中傷が強力な政治的武器として機
能する仕組みはどのようなものかが明らかにされる。

ムーニーはまず、科学への不信感を作り出し、ごくわずかな警告にしか
耳を貸さないというブッシュ政権の態度によって引き起こされた危険な
事態を概観するところから始める。実際、「共和党の闘い」というのは
必ずしも正しい表現ではない。共和党員が全員揃って科学に挑んでいる
わけではない。科学に反感を持っているのは、キリスト教原理主義者や
企業のトップ経営者たち、狂信的な反エコロジー主義者といった、一見
共通点がなさそうに見えても、党内の選挙戦略を支配している極右の結
びつきなのだ。反トラストの環境保全論者、セオドア・ルーズベルト大
統領は共和党員であった。

一方、左派もやはり科学の歪曲に一役買ってきた。「動物の倫理的扱い
を求める人々の会(PETA )」などは自分たちのイデオロギーに関する
戦いに勝つためならどのような発言でもするし、あらゆる行動をとる。
遺伝子組み換え食品が「フランケン食品」と呼ばれたことを覚えている
だろうか?しかし、右派に比べれば、非常につたなく、素人同然に見え
てくる。

「2002 年まで、エクソンモービル社は、地球温暖化に関する科学界の
主流派と闘う政策集団やシンクタンクに対して、毎年100万ドル以上の
寄付を行なっていた」とムーニーは指摘する。寄付先は、「ジョージ・
C・マーシャル研究所、企業競争研究所、フロンティアズ・オブ・フリ
ーダム、ハートランド研究所、ウェブサイトのテック・セントラル・ス
テーションなど、多岐にわたる」

「気象科学で大きな進展が見られるたびに、これらの組織はオンライン
の論評やレポート、報道発表、新聞のコラムなどの手段を使って最先端
科学のあら探しをし、その正体をどうにかして暴き立てようと躍起にな
った。具体例としては2004年末の北極気候影響アセスメント(ACIA)
の発表が挙げられる。マーシャル研究所はこのレポートの内容にすぐさ
ま異議を申し立て、続いてジェームズ・インホフェ上院議員(共和党、
オクラホマ州選出)が、この研究所の名前を挙げて ACIA に対する反論
を展開した」

この本の中でも特に見事なのは、右派が巧みに言葉を選び、一般の人た
ちが科学研究に疑念を抱くよう仕向ける手法に関する記述だ。「ジャン
ク・サイエンス」や「健全な科学」といったフレーズは、自分たちが気
に入らない研究の地位をおとしめるために右派がつくり出した言葉だと
書いている。

ムーニーの著書では、専門知識がないと理解できないような題材がいく
つも扱われており、読んでいくうちに登場する有力者やグループの区別
がつかなくなるかもしれない。だが、だからといって読む気をなくさな
いでほしい。米国では実際、このようにして政策が作られており、政府
の各部署の奥深くにある、一見目立たない委員会で行なわれている戦い
が、世界の行く末を左右する可能性すらあるのだ。それに、面倒な作業
はムーニーが済ませてくれている。何層にも絵の具を重ねるように個々
の具体例を積み上げているこの本を読み終わるころには、恐るべき世論
操作の全体像が浮かび上がってくるはずだ。その描写は実に魅力的だが
実態を知った読者は暗澹たる思いがすることだろう。

▲この記事を書いたブライアン・アレキサンダーは「歓喜:バイオテク
ノロジーはいかにして新しい宗教になったか(Rapture: How Biotech
Became the New Religion」の著者である。