▼米国には手足を切断した人が100万人いる▼ Wired News
28 Feb.2005

ブラウン大学とマサチューセッツ工科大学(MIT )そしてプロビデンス
復員軍人医療センター(ロードアイランド州プロビデンス)の研究者ら
からなるチームは、米復員軍人省から720万ドルの研究助成を受けて、
今後5年間に渡りプロジェクトを進める。さらに最先端のリハビリテー
ション施設を建設する計画だ。

プロジェクトの目標は、人体組織の筋肉、骨格、神経系などと人工部品
を一体化させて、完全に機能する補装具となる「バイオハイブリッド」
義肢を作ることにある。

「基本的に人工装具の開発で困難なのは、それを調和させて人工物と人
間のものとの間に緊密な状態を作り出すことにある」とMIT の健康科学
・技術学部のヒュー・ヘア助教授は話す。ヘア助教授は、MIT メディア
ラボのバイオメカトロニクス・グループの責任者でもある。

彼自身も両脚を切断しているヘア助教授は、「次世代型」の人工膝と人
工足首の製作に焦点を当て、プロジェクトに取り組んでいる。このバイ
オハイブリッド・プログラムにおけるそのほかの研究は、ほとんどが腕
と脚の両方に応用できるとのことだ。

このような先進的なプログラムに資金を提供しているのが復員軍人省で
あっても、事情に通じている人間にとっては別に驚くにはあたらない。
復員軍人省の主席調査官代理のスティーブン・フィーンによると、昨年
1年間で同省関連の施設だけで6000 本の新しい義肢が装着され、修理
や調整が行なわれたのは4万本に達したとのことである。

義肢を付ける人の多くは年配の復員軍人だが、アフガン戦争やイラク戦
争で負傷して最近手足を失った若者も多数いる。バイオハイブリッドの
取り組みは、フィーンが呼ぶところの、こうした人々の「トラウマ的切
断」症状を支援することに焦点を当てている。

軍人に限らず一般人も含めて四肢を切断した人は米国内に100万人ほど
もいるとみられ、年間約 15 万本の義足が販売されているとヘア助教授
は述べる。

ブラウン大学医学部の整形外科教授でプロジェクトの復元・再生医学セ
ンター所長を務めるロイ・アーロン博士によれば、義肢を人体に一体化
させるというアイディアは、多くのさまざまな科学者の考えから生まれ
たものだそうだ。現在、ブラウン大、MIT 、プロビデンス復員軍人メデ
ィカルセンターの科学者たちは、映画「GO! GO! ガジェット」に登場す
るような発明を現実化しようと取り組んでいるのだった。

現在、プログラム可能な「Cレッグ(C- Leg)」のように、コンピュータ
チップを使用した義肢がいくつか販売されている。Cレッグは装着者の
動きの特性に合うようにカスタマイズできる。時間が経てば、「動きの
ない義肢よりはるかに有効に機能するようになる」とフィーンは言う。
ただし、木やプラスチックで作られた装着時に不快感を感じる従来型の
義肢と同様、人体に物理的に装着する必要性は残る。

フィーンの説明では、バイオハイブリッド義肢は手足を切断された人の
残された骨に医師が金属製の棒を挿入し、それを基礎として義肢を組み
立てることになる。

研究ではさまざまな分野の問題を扱う。義肢、組織工学、神経科学、骨
延長技術、手足を失った人の骨に直接義肢を取り付けて義肢を人体に一
体化させる方法、皮膚や筋肉、神経の再生などである。

義肢を製作するのに必要となる一般的な科学技術のほとんどはすぐにも
利用可能な状態にあるが、神経科学のように、まったく新しい方法で応
用される技術もあるとアーロン博士は述べる。最近、ユーザーが頭で考
えるだけでコンピュータのカーソルを動かせる技術が開発されたと報告
されているが、アーロン博士たちは同様の技術によって使用者がロボッ
ト義肢を動かせないだろうかと考えている。

克服しなければならないもう1つの問題は使用者の感染症のリスクだ。
「人体にとって異物となるものが体の内部と外部に同時に存在すること
になるため、当然ながら問題は生じる」とフィーンは話す。

ヘア助教授は、生物学的な発想による義足、つまり実際の脚のように動
くが生物学的に移植されてない装具のテストを1年後ぐらいには始めた
い考えでいる。

「そして第2段階では、義肢を神経信号につなぎ、おそらく最終段階で
その義肢を骨格に直接接着することになる。」

この研究が完成すれば、四肢を切断した人を肉体的にも精神的にも支え
られるかもしれない。恥ずかしいと思うのではなく、「実際に機能する
義肢を持っていることを喜ぶようになるはずだ」とヘア助教授は話す。

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▼人類は最先端技術と融合するとの予測▼ Wired News
by Mark Baard

ある発明家が、「シンギュラリティ(特異点)が近く到来する」と呼び
かける著書の中で、そう遠くない将来にテクノロジーと生物学が1つに
まとまり、非生物学的な生命を生み出すだろうと予測している。

人工知能の専門家で発明家(独自に開発したシンセサイザーは有名)、
そして未来学者と複数の顔を持つカーツワイルは、昨年9月にテクノロ
ジー・レビュー誌がマサチューセッツ工科大学(MIT )で開催した「未
来技術会議」で講演を行なった。その講演の中で彼はパラダイムシフト
を特徴とするテクノロジーの発展は人間の生物学的進化のペースに匹敵
する急激なペースで進んでいると語った。

カーツワイルは実際、人類が今後 15 年間、自分の体を大事にすること
によって、こうした進歩に備えるべきだと提案している。 15 年後には
新しいテクノロジーによって寿命の延長が始まり、われわれは 21 世紀
の終わりまで生きられるようになり、さらには永遠の寿命を手にするか
もしれないというのだ。

これがとんでもない発言に感じられるなら、カーツワイルの予言に輝か
しい実績があることを思い起こしてみることだ。

彼は 20 年前にインターネットの前身である「アーパネット」が急激に
発展すると予測している。「われわれは、この種の急激な進歩は経験し
てきている」と彼は述べた。
そしてこれからも、生物科学と通信において同様の急激な変化を見るこ
とになるだろうと語る。

「やがては、これらのテクノロジーと融合するだろう」とカーツワイル
は予測する。そして、その時点(シンギュラリティ)では、人間は不死
身になり、思いのままに姿かたちや環境を変えられるようになるだろう
と彼は考えている。

「シンギュラリティ以降は、人間と機械の区別も、物理的現実と仮想現
実の区別もなくなるだろう」とカーツワイルは自著の中で述べている。

カーツワイルは、シンギュラリティ以降の世界がどのような姿になるか
明確に思い描いているわけではない。だが彼は、ワイアード・ニュース
のインタビューで、「身体と脳による制約から解放されることは想像で
きる。人間が即座に物理的形態を変えられるようになることが考えられ
る」と語った。

カーツワイルのシンギュラリティ理論の中心にあるのはパラダイムシフ
ト、すなわち従来の通念を変える新たな発見だ。
たとえば、そうした劇的な変化が、新薬を発見し開発する分野の科学を
発展させることになる。

「今日、市場に出ている薬品の多くは古いパラダイムに基づいている」
「血圧を下げる物質を見つけるために、1万種類もの化合物を試してい
る。しかも、こうした薬品にはどんな副作用があるかわからない。」

だが、生物学が発展し、情報技術(バイオテクノロジーと呼ばれるよう
にもなった)に変わりつつあるため、今後は人工知能がよりすぐれた薬
物療法を開発できるようになるだろうとカーツワイルは語った。

今年の「未来技術会議」では、世界の貧困層の生活を向上させる計画を
論じた講演者もいた。

MIT メディアラボの創立者であるニコラス・ネグロポンテ所長は、価格
100 ドルのノートパソコンを開発する構想を披露した。

発明家のディーン・カーメンは、きれいな飲み水が不足している発展途
上国で使えるような浄水装置の仕組みを説明した。

1970 年代に「パラダイムシフト」という言葉を世に広めた未来学者の
ジョエル・バーカーによると、パラダイムシフトは往々にして驚くべき
恩恵をもたらすという。
「たいてい、新しいパラダイムで最初に解決する問題は古いパラダイム
では解決できなかった問題だ」とバーカーは述べている。

だが、パラダイムシフトがすべてよい結果につながるわけではない。な
かには、きわめて危険な状況をもたらすものもある。バーカーによれば
「結果的にテロリストに、無実の人を数千人どころか何百万と殺す手段
を与えてしまうものもある。」

「新しいアイディアを世界という池の中に落とすと、波及効果が生まれ
る。自分が一連の変化を生み出していくことになるのだということを承
知していなければならない」とバーカーは述べている。

元国連職員で現在は科学技術とジェンダー問題のコンサルタントを務め
るナンシー・ハフキンは、すべての人が技術の恩恵を得るのであれば、
さまざまな人類の不平等は克服されなければならない述べた。この MIT
の会議の討論でハフキンは、「技術の水準が上がっても、それがすべて
の場所に行き渡らないのではないかということを私は懸念している」と
述べた。

一部の技術擁護派が予想したような世界のデジタルデバイド(デジタル
技術における社会格差)の自己修正はまだ実現していないとハフキンは
語った。

カーツワイルもまた、技術的発展の負の側面に目を向ける意見に賛成し
ている。

「技術をどう発展させるかに関して全体の合意が成立していない現状で
人類の目標を前進させ、人類の価値を高めていくために、こうした技術
をどのように適用していくかという点に、現在われわれが抱える最大の
問題がある」とカーツワイルは語った。