▼イスラエルの砲弾で海水浴場死者7人に▼毎日新聞 10 June 2006

パレスチナ・ガザ地区北部の海岸で9日、イスラエル軍が発射したとみ
られる砲弾が炸裂し、海水浴を楽しんでいた子供ら多数が死傷した事件
を受け、自治政府を率いるイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門は同
夜、対イスラエル停戦の破棄を警告した。イスラエルとの和平を目指す
穏健派アッバス自治政府議長とハマス政府との溝が一層深まる恐れも出
てきた。

事件による犠牲者は7人に増加した。地元当局はイスラエル軍艦船から
の砲撃と主張しているが、軍当局は「海軍は砲撃していない。陸上から
の砲撃の可能性を調査中」と発表。調査終了までガザ地区北部への砲撃
を中止することを明らかにした。軍部隊は同地からイスラエル領に向け
て発射されるロケット弾を阻止するため、連日激しい砲爆撃を続けてい
た。

ロイター通信によると、ハマス軍事部門カッサム隊は「シオニスト(イ
スラエル)の街を揺るがす地震(攻撃)が再び始まる」との声明を発表。
昨年2月以来ほぼ守られてきた対イスラエル停戦の破棄を警告した。

ハマスは8日深夜の空爆で自派の主要幹部ら4人を殺害されたばかりだ
った。

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▼パレスチナ系イスラエル人への差別を隠蔽▼ニューヨークタイムズ
29 March 2006 by パトリック・オコナー

昨日行われたイスラエル選挙の大きな展開のひとつは、アヴィグドール
・リーベルマン率いるイスラエル・ベイテヌ党が第4勢力へ急上昇した
ことだ。

イスラエル・ベイテヌ党はイスラエル国内のパレスチナ人の町をパレス
チナ自治政府の管轄に移すことを提唱している。それは、何十万人もの
パレスチナ系イスラエル人から国籍を剥奪することである。この政策の
人気は先週発表された世論調査の結果とも合致する。ユダヤ系イスラエ
ル人の 68 パーセントがパレスチナ系イスラエル人と同じアパートに住
むことを拒否し、 40 パーセントがパレスチナ系市民の移住を国が促進
するべきだと答えている。だが、主流メディアのイスラエル報道が片寄
っている米国では、これほど露骨な差別にも国民は驚いたりしないのだ
ろう。

イスラエルが、表向きはリベラルな民主主義を装いつつもパレスチナ人
を抑圧するという戦略をとっているなかで、人口の20%を形成する2級
市民の取扱い、つまりパレスチナ系市民の存在そのものを曖昧にしてお
くのは、「偽装」の重要な構成要素になっている。

ニューヨークタイムズを筆頭に、米国の主流メディアはこの戦略に加担
している。米国のメディアはパレスチナ人によるテロの報道に集中して
イスラエルが語る物語を強調する一方で、イスラエルの占領、パレスチ
ナ人の土地の収奪の核心、イスラエルによる国家テロ、パレスチナ系イ
スラエル人と占領地、そして国外に離散したパレスチナ人に向けられる
組織的な差別などの経験が、報道されることはめったにない。

今年3月、ニューヨークタイムズ、ロサンゼルスタイムズ、ワシントン
ポストという米国で最も信頼され幅広く読まれる3大紙に、「イスラエ
ル・アラブ」とイスラエルの選挙に関する記事が載った。

これは、米国のメディアがいかにイスラエルの語る物語に加担している
かを示すひとつの例だった。

イスラエルは永年の「分断統治」策のひとつの道具として、パレスチナ
系イスラエル人という表現ではなしに、「イスラエル・アラブ」という
呼び方を使う。これには、イスラエル国内に暮らすパレスチナ人が占領
地に暮らすパレスチナ人との間に血縁があって歴史や文化のつながりが
あることを「隠す」意図も含まれている。3つの記事はどれも、「イス
ラエル・アラブ」という言葉について疑問を差しはさむこともなく、か
なりの数の非ユダヤ人を内に抱えるユダヤ人国家が民主的でいられのか、
住民に平等な権利を約束できるのかどうか、問うこともしない。記事は
どれも差別を取り上げているというのに、多数のパレスチナ系市民から
市民権を剥奪するイスラエル・ベイテヌ党の政策についてはまったく触
れていない。

このようにパレスチナ系イスラエル人が無視されることは、私が最近行
った調査の結果とも符合している。ここ5年間の米国の5大新聞に掲載
されたパレスチナ人とイスラエル人による論説を研究したもので、5つ
の新聞で、ユダヤ系イスラエル人が書いた論説は201本掲載されたが、
イスラエル在住パレスチナ系イスラエル人のものはわずかに1本あるだ
けだった。

だが、ニューヨークタイムズは一般に米国で最も影響力のある新聞だと
思われているのに、イスラエル発のパレスチナ系市民への差別的な作り
話を鵜呑みにする点では、ワシントンポストやロサンゼルスタイムズよ
りはるかにひどい。

これも私の論説研究調査の結果と合致する。2000 年から2005 年にか
けて、それぞれの新聞に掲載されたパレスチナ人の手による論説に対し
てイスラエル人による論説の割合は、ニューヨークタイムズが3.4 倍、
ロサンゼルスタイムズは2.3 倍、そしてワシントンポストは1.4 倍だっ
た。

ニューヨークタイムズの記事「イスラエル・アラブ:政治家はあまり沈
黙していない少数派に言い寄る」(3/21)で、ディーナ・クラフトは
「パレスチナ人」と「イスラエル・アラブ」をまったく別であるかのよ
うに扱い続けた。パレスチナ系イスラエル人と占領地に暮らすパレスチ
ナ人との間には家族のつながりがあり、アイデンティティや歴史、文化
を共有することには、これっぽっちも触れていない。クラフトの記事に
よれば、パレスチナ系イスラエル人は占領地に暮らすパレスチナ住民と
はまったく別で、「680 万人のイスラエル人口のほぼ20 パーセントは
アラブ系(西岸、東エルサレムやガザ地区のパレスチナ人とは異なるグ
ループ)」なのだ。

これとは対照的に、ロサンゼルスタイムズの記事「イスラエル・アラブ
は投票にほとんど価値を見い出さない」(3/25 )では記者のローラ・
キングが、「イスラエル・アラブは西岸やガザのパレスチナ人同胞との
連帯を強めるべきか、それともイスラエル国内で自分のアイデンティテ
ィを強化すべきか、大きなジレンマを抱えている」と書いて、パレスチ
ナ人を「同胞」と呼んでいる。

ワシントンポストのスコット・ウィルソンは、その記事「イスラエル・
アラブはハマス勝利に教訓を見い出す」(3/05 )で貴重な情報を提供
している。
「1948 年の独立戦争時、自分の村に居残ることにしたアラブ人は、ユ
ダヤ国家の人口のおよそ20 パーセントを占めている。 イスラエルの治
安当局は、1949 年の休戦ラインから北のガリラヤ地域にまで連なる町
に集中するこれらの人々をパレスチナの第5列ではないかと疑いの目で
見た」

ニューヨークタイムズのクラフトは、「イスラエル・アラブ」を「パレ
スチナ人」から完全に切り離そうとするが、記事が「バーカ・アル・ガ
ルビーヤ」発になっていることから、これは厚顔無恥というものだ。バ
ーカ・アル・ガルビーヤはグリーン・ライン(イスラエルとパレスチナ
の国境線)のすぐ西側、イスラエル内のパレスチナ人の町で、占領下の
パレスチナ人が組織的に分断されたのを劇的に示す町のひとつだ。この
町はグリーンラインを越えた東側、西岸地区のパレスチナ人の町、バー
カ・アル・シャルキーヤとつながっている。バーカ・アル・ガルビーヤ
とアル・シャルキーヤは、アラビア語でそれぞれ「西」と「東」を意味
しており、これらの町はグリーンラインで隔てられてはいるが、バーカ
というひとつの町であり、それが高さ 25 フィートのコンクリートの壁
で引き裂かれ、家族や友人が隔絶されたのだ。同じ家の出身であっても
バーカ・アル・ガルビーヤに住んでいればイスラエル市民の「イスラエ
ル・アラブ」と呼ばれ、バーカ・アル・シャルキーヤに住んでいればイ
スラエルの軍事占領下にある「パレスチナ人」にされるのだ。

イスラエルで行われるパレスチナ人差別の表現を見比べると、他の2つ
の新聞とは対照的に、ニューヨークタイムズは曖昧である。 ロサンゼル
スタイムズの記事でローラ・キングは次のように書いている。

「大多数のユダヤ人に比べ、イスラエル・アラブの失業と貧困は深刻で
ある。イスラエル・アラブはたいてい軍務につくことがない。若いイス
ラエル人は兵役から雇用機会を広げるもので、地方への税金の分配につ
いても、アラブ人の市町村へはユダヤの自治体に比べてかなり少ない。
そして先週の世論調査によれば、イスラエル・ユダヤの大多数がアラブ
系市民を国家の安全に対する脅威だと考えている」

スコット・ウィルソンによるワシントンポストの記事もこれらの点を繰
り返し述べている。さらに土地所有における差別についても触れている。
ウィルソンは、1956 年(イスラエルのパレスチナ人は1948 〜66 年の
間、軍事支配下に置かれていた) に 49 人のパレスチナ系市民がイスラ
エル警察と軍隊によって殺害されたこと、2000 年には13人のパレスチ
ナ系市民が同じように殺されたことにも言及する。

3つの記事は、イスラエルがアラブ・イスラムによるテロに苦しめられ
る自由で民主的な国家であるという、虚構の作り話を維持することに米
国の主流メディアが共同で加担していることを例証している。

その作り話を維持するには、1947 〜48 年に70 万人以上のパレスチナ
人を彼らの家から追い立てて作られたのがいまのイスラエルであるとい
う歴史の事実をすっかり覆い隠さなくてはならない。現在イスラエルに
残るパレスチナ人が占領地や国外に離散したパレスチナ人と同じルーツ
を持ち、同じ文化を共有することを、否定しなければならない。

隠蔽の過程で、イスラエルがパレスチナ系イスラエル人を含むすべての
パレスチナ人に対し、パレスチナ人がイスラム教徒やキリスト教徒であ
って、ユダヤ教徒でないという理由だけで行う組織的な差別が取りつく
ろわれ、ユダヤ人国家が非ユダヤ系市民に対して平等で民主的な権利を
与えられるものなのかという問題の核心が避けられる。

ワシントンポスト、ロサンゼルスタイムズの記事は、じっくり読みさえ
すれば、これまでのイスラエルの作り話がどこか変であることに気づく
はずである。米国を記録する代表紙であるニューヨークタイムズは、イ
スラエルのパレスチナ系市民に対する差別に満ちた考え方をそのまま鵜
呑みにして、たたき売る方を選んだ。

▲パトリック・オコナー: 国際連帯運動(ISM)、パレスチナメディア
ウォッチの活動家。
参考:http://0000000000.net/p-navi/info/news/200604090348.htm