▼元KGB諜報員ロンドンの病院で死去▼英ガーディアン紙
23 November 2006

本国の保安庁によって毒殺されたのではないかと思われる、元ロシアの
スパイ、アレクサンドル・リトビネンコが今夜(23日)亡くなったと
彼を治療する病院が伝えた。

元KGB諜報員は突然心臓発作を起こした後、生死を彷徨っていた。彼
を死に追いやった謎を解明するため、医師と警視庁は本日さらなる検査
を行った。

元スパイの友人らは、ウラジミール・プーチン大統領の政権を批判した
せいで彼がロシアの保安庁によって毒を盛られたと、クレムリンによっ
て否定された主張を信じる。

ロンドンのユニヴァーシティカレッジ病院のスポークスマンは、リトビ
ネンコ氏が9時21分に死去したと述べた。病院の医療チームはできる
限りの手を尽くしたと言った。

「彼の病気の原因を立証するためすべての道が探られました、そして事
態は進行中の調査がニュースコットランドヤードの刑事によって扱われ
ています。」とスポークスマンが付け加える。

「このために私たちはこの事態についてこれ以上コメントするつもりは
ありません。私たちの配慮はリトビネンコ氏の家族に関してです。」

ロンドン警視庁のスポークスマンは調査を続行していると述べた。

「この段階で正式な身元確認は催されていないが、死去したのがリトビ
ネンコ氏で事態が不明の死として調査されていると我々は確信する」と
警視庁のスポークスマンは述べた。

彼がどうして病気になったかを調査する警察は以前に「意図的な毒殺」
ではないかと思ったと述べている。調査員らは、何がリトビネンコ氏の
病気を引き起こしたかを探るためありうる毒物から徐々に進めている。

英国に保護と市民権を認められた亡命者、リトビネンコ氏は11月1日
に毒を盛られたとみなされる。彼は、ロシアの調査報道記者アンナ・ポ
リトコフスカヤ殺害を調査していた。

彼が意識不明に陥るわずか数時間前の最後となるインタビューで元諜報
員は、彼を毒殺すると考える人物に対し、挑戦的なままでいた。

「連中に示すために生き延びたい」と、彼は友人であり映画作家のアン
ドレ・ネクラーソフに語った。

「ろくでなしどもは私を殺してもすべての人を殺せるわけではない」と
リトビネンコ氏が言ったとネクラーソフ氏はタイムズ紙に述べた。

ロンドン警視庁の対テロ部隊は、毒を盛られたと言われる日のリトビネ
ンコ氏の2つの会合に焦点を合わせることで警察の調査を毒殺なるもの
に向かわせている。

一つは、元KGB将校ともうひとり別のロシア人といっしょに紅茶を飲
んだロンドンホテルでの会合だ。

警察がこの身元が明らかにされていない第3の人物に注意を向けている
ことが本日報じられた。

二つ目はピカデリーにあるスシ・レストランでの、イタリアでKGBの
動きを調査する委員会の元コンサルタント、イタリア人大学教師マリオ
・スカラメッラとの会合だ。

リトビネンコ氏はその後病気になってバーネット総合病院に入れられた。
警察が関与するのとほぼ同時期の金曜に彼はユニヴァーシティカレッジ
病院に移送された。

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▼「放射性物質」にロンドン市民が不安▼毎日新聞
26 November 2006

変死した元ロシア連邦保安庁(FSB)中佐のアレクサンドル・リトビ
ネンコ氏の体内から放射性物質ポロニウム210が検出されたことで、
英当局は同氏と同じ場所に出入りした市民への放射能検査を始めた。一
般市民への危険はほとんどないとされるが、放射性物質を使用した「毒
殺」疑惑に市民の不安は強い。

リトビネンコ氏が体調を崩す直前に訪れたロンドン中心部のホテルやす
し店ではポロニウム210からとみられる放射能が検出された。このた
め英内務省と健康保護庁は緊急ホットラインを設け、すし店やホテルの
バーを利用した市民に放射能を探知するための尿検査を受けるよう要請。

リトビネンコ氏が入院した二つの病院の医師や看護師を含め、これまで
に約200人が検査を受けた。

健康保護庁は「ポロニウム210は飲み込んだり吸い込まない限り心配
はない」と強調しているが、周辺住民から放射能汚染を心配する問い合
わせがあるなど、市民の懸念は消えていない。

リトビネンコ氏は放射能が原因で骨髄や肝臓などに障害を起こし、最後
は心臓発作で死亡した。医療関係者が放射能に汚染される可能性もある
ため、検視はまだ実施されていない。

一方、26日付サンデー・タイムズ紙は、リトビネンコ氏が生前、ビク
トル・キーロフという名前の在英ロシア大使館員から監視されていた、
と語っていたことを報じた。この館員は既に帰国しているとみられる。

また同日付メール・オン・サンデー紙は、リトビネンコ氏が体調を崩す
直前にすし店で会ったイタリア人コンサルタント、マリオ・スカラメッ
ラ氏が、旧ソ連の核廃棄物など放射性物質の専門家だったと伝えるなど、
変死事件の波紋は広がっている。

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▼元スパイの毒物 インターネットで69ドル▼
サンフランシスコクロニクル紙 28 November 2006
by Keay Davidson(Chronicle Science Writer )

きわめて微量の通例死に至る産業化学薬品が69ドルでゲットできる

それは想像できるかぎりの猛毒のひとつ、シアン化物のおよそ1千億倍
の猛毒の放射性物質で、物理学者が運営するウエブサイトで空飛ぶ円盤
ファンがごく微量の物質が存在する痕跡を69ドルで売ってやろうと申
し出て、郵便またはUPS で送ってくれる。

当初のニュース報道に反して、英国での元ロシアのスパイの死で疑われ
た毒物、ポロニウム210は、核の実験室から唯一入手できるきわめて
不安定でとらえがたい物質なのではない。機械類や写真フィルムから静
電気を取り除くといったような、産業での合法で正当な使用のためにそ
れを売る企業からアイソトープは入手可能だ。

十分すぎる量を摂取すると、ポロニウム210は忌まわしい死を招く。

「非常にゆっくりとした苦しい死に方だ」とロチェスターにあるマヨ・
クリニックの放射線物理学者、ケリー・L・クラシックは述べた。

ポロニウムは「アルファ・エミッター(担体や粒子を放出するもの)」、
原子より小さい粒子のアルファ素粒子を連続的にハイスピードで放射し
それが崩壊するとき、ポロニウムが属する生命体内の細胞をぶちこわし
DNAコイル(輪)をばらばらにする。

アルファ素粒子は「原子のスケールでは巨大」とクラシックは言った。
「仮に電子がポップコーンの粒とすると、アルファ素粒子はボーリング
の球みたいになるだろう」

11月1日にスシ・レストランかホテルのバーで毒を盛られたと健康保
護当局が述べた、ポロニウム210の犠牲者、元KGB諜報員アレクサ
ンドル・リトビネンコが木曜ロンドンで死去した。死ぬ前に彼は、ロシ
アの大統領プーチンのために毒殺されると主張した。

毛髪が抜ける原因となることや免疫と神経系の破壊で、彼の病気はすば
やく知れた。警察はレストランとホテルのバーで放射能の痕跡を見つけ
たと報告している。

英国警察の調査に関わっていないクラシックは、元スパイが毒殺された
と仮定して、パウダー状にしたものというより、液体にその毒物を振り
かけることで殺害が行われたのではないかと推測した。パウダーは広い
エリアに迅速に移動する、であるのに対し、液体をほんの数滴ところど
ころに振りかけたら予期するような、毒の痕跡が小さな場所に限られて
いるようだと英国警察は述べる。

誰かを殺すのにどのくらいの量のポロニウム210が必要か教えるのを
リヴァーモアにある核兵器ラボのエキスパートらは断った。彼らはどの
くらい必要か算定していたが、たとえ答えがわかっていても、倫理上の
理由でそれを公にばらすわけにはいかないと述べた。

それとなくテロの脅威を言って、「悪いやつらが人を傷つける手助けを
するレシピを君らに提供するつもりはない。」とリヴァーモア衛生物理
学者ゲーリー・マンスフィールドは言った。

2002年にオックスフォード大学プレスより出版された「分子ガイド
第2版」によると、ポロニウム210は「シアン化物よりおよそ1千億
倍も猛毒」の放射性物質である。

アイソトープ(放射性元素)には138日という短い半減期がある、そ
れが比較的短時間後に跡を追うのを難しくさせるかも知れない。アルフ
ァ素粒子が細胞内にさんざんなダメージを加えるとはいえ、逆説的に、
人間の皮膚を通して壊すにはもろすぎる。人体から漏れ出るそれらの存
在を誰も見つけることはできないだろうという意味だ。

米国では、合衆国原子力規制委員会によって認可された商人にとって、
買い手(消費者)が政府から特別許可を受けることなく、ごく少量のポ
ロニウム210や他の放射性線源を売るのは合法だ。

ニューメキシコ州サンディアパークのUnited Nuclear Scientific
Equipment & Suppliesは、小さな黄色い円形の容器に入ったごく少量
のポロニウム210を69ドルで売ってくれる。その会社は商業用ウエ
ブサイトに入手可能な放射性線源の長いリストを提供する。

「私たちの製品はもしかすると誤った管理できわどくなる可能性がある
かも知れないから、素材の注文に不慣れで大人らしくない態度を取ると
か爆発装置の類を作るために製品を使うと感じたなら、時折注文を途中
で終えて返済します。きわどい化学薬品を含むすべての小包が受け渡し
で大人のサインを必要とします。」とサイトではっきり述べる。

United Nuclear はエリア51と呼ばれるネバダにある米軍基地で墜落
したエイリアン宇宙船に取り組んでいたと主張したとき全米の注意を惹
いた男、ボブ・レーザーによって運営される。司法省の職員が2003
年にレーザーの会社を手入れしたと5月にアルバカーキージャーナルが
報じた。爆発物を作るのに使われるかもしれないと言って連邦政府の役
人らが彼の会社に化学物質を売るのをやめるよう求めたとレーザーが主
張したのを、新聞は報じた。

レーザーの会社のミッシェルとだけ名乗る女性は、「取るに足らぬ微々
たる」量のポロニウム210を会社が売ると言った。「あまりにも小さ
すぎて肉眼では見ることができない」。彼女は会社に雇われているだけ
で、どこでレーザーがポロニウム210を手に入れるか知らないと言っ
た。

今日現在、レーザー氏からコメントは得られていない。

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▼アレクサンドル・リトビネンコという人物▼

アレクサンドル・リトビネンコはKGB(現FSBロシア連邦保安庁)
元将校で、2000年にプーチン大統領の政敵だった新興財閥のボリス
・ベレゾフスキー氏に対するFSBの暗殺計画を告発して職権濫用罪で
9ヶ月収監される。釈放後に英国に亡命し、市民権を得て家族と共にロ
ンドンに住んでいた。第二次チェチェン戦争のきっかけの一つとなった
1999年のモスクワアパート連続爆破事件や、2004年の北オセチ
ア・ベスラン学校占拠事件に関しても「テロはロシア政府の自作自演」
と証言してロシア政府から目の敵にされていた。

リトビネンコ氏の「Blowing Up Russia: Terror From Within」とい
う著書は、チェチェン戦争が実はFSB戦争であるという暴露本になっ
ていた。「Terror From Within(内からのテロ)」というタイトルに
示されている通り、チェチェン戦争が、プーチン政権の主張するような
「対テロ戦争」などではなく、FSBによる「テロ戦争」であることを
元FSB将校自らが告発した内容になっていた。

11月25日付イスラエル・ハーレツ紙によると、リトビネンコ氏は数
ヶ月前にイスラエルに行き、ユコス石油元CEOのレオニード・ネフツ
リン氏にロシア政府の機密ファイルを手渡したという。ファイルの中身
はユコス石油に関するプーチン政権の策謀を示す内容で、すでにロンド
ン警視庁の手中にあるとのことだ。

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リトビネンコ氏は病気になる約2週間前の10月19日、番組「フロン
トライン」に出演して「アンナ(アンナ・ポリトコフスカヤ記者)を殺
したのは、ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンその人です」と発言
している。会見では、プーチン大統領が、アンナの友人を介して彼女を
脅迫していたことなどが語られている。

Alexander Litvinenko at Frontline
http://www.youtube.com/watch?v=YB8-4WRp1E8
以下は彼の話の抜粋 :

「私は皆さんに真実を申し上げるために今日ここに来ました。それは、
誰がアンナ・ポリトコフスカヤの死に責任を負っているか、誰が彼女を
殺したのか、ということに関する真実です。率直に申し上げましょう。
アンナを殺したのはロシア大統領ウラジーミル・プーチンその人です。

彼女の著書「プーチニズム」出版後、彼女の生命はこれまでよりいっそ
う危険にさらされるようになりました。彼女と最後に会ったとき、彼女
自身、自分が暗殺されるという可能性について口にしたほどです。私も
彼女に同意してアンナに一時的な亡命を勧めました。彼女はプーチンが
自分を脅迫していると語っていました。イリーナ・ハカマダ(ロシアの
女性政治家)を介してアンナが脅迫されたこともあります。というのも、
イリーナ・ハカマダはアンナの友人でもあったからです。

私は証言者として、すべてを法廷の場でお話することもできたのです。
私はかつてプーチンによって行われてきた一連の暗殺事件を暴露しよう
と、ロシアの検察庁に行きました。そのための証拠も山のようにありま
した。ところがです、その10日後に私は逮捕されました。自宅は捜査
という名目で荒らされ、あらゆる証拠の隠滅が行われたのです。

ロシアはFSBによる厳格な統制下にあります。アンナのような立場の
ジャーナリストがプーチン本人の許可なくして抹殺されることなどまっ
たくありえません。ですから、アンナはプーチンに殺された、それがロ
シアの知るべき真実です。」

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参考までに:
●イタリア人コンサルタント、マリオ・スカラメッラ
イタリア人の防衛コンサルタントで学者。核物質の流通に詳しく、イタ
リア下院で冷戦時代のKGB工作活動を調査する議会特別調査委員会(
ミトロキン委員会)の相談役を務める。リトビネンコ氏とは、ロシアの
核物質密輸ネットワークの調査で協力関係にあった。11月1日、ロン
ドン・ピカデリーのスシレストラン「Itsu」でリトビネンコ氏と会
食をした際に、同僚からの警告メールを見せながらリトビネンコ氏と共
に暗殺される危険について話した。
(スコットランド新聞Scotsman.com11月20日:「イタリア国内の
報道によれば、スカラメッラ氏はイタリア情報・軍事保安庁要員で、C
IAとコロンビア諜報局のために活動したこともあるという。」)