一般のアメリカ人が、いま起きてることにあまりにとろく見えるのは、
こういうことだ。残りの世界がすでに知ってる調査報道についてアメリ
カ人は知らされていない。アメリカが不必要と思っている何かが「漏れ
た」ときの驚きようは、こちらがしらけるほどだ。そして彼らはマンガ
さえも攻撃する。

▼マンガ「The Doonesbury」で大騒ぎ▼
カナダのTORONTO STAR 紙 11 May 2004

アメリカには諷刺マンガに神経をとがらせる人が大勢いるらしい。
36年続いている有名なアメリカの風刺マンガ「The Doonesbury 」に
イラクの戦闘で深刻な痛手を負った登場人物のエピソードが掲載されて
いる。その内容を巡り、米国内で論議と反発が沸き起こり、幾つかの新
聞が不適当と連載を中止した。
現代アメリカ社会の日常風景を描いている作品は、米国内の多くの新聞
に掲載されているが、問題のあったエピソードは以下のようなものだ。

●フットボールのコーチから兵士になった登場人物B.D.(ブライアン・
ダウリング)が、イラクの戦闘で負傷した結果、左足を失う。
(2004/04/26掲載)
●B.D.が負傷を報告しようと故郷に電話すると、最初に電話で事情を聞
いた友人が一言。
「ワーオ!B.D.がパープルハート勲章(戦争で負傷した米国軍人に授与
される)を貰ったぞ!」(2004/04/28掲載)
●電話に出た妻に事情を説明するB.D.
「何があったかよく憶えてないんだ。ファルージャでRPGにやられた
らしい...ひどい怪我をしちまった(中略)いいニュースもあるぞ。よう
やく目標まで体重を減らせたよ」(2004/04/29掲載)
●夫から負傷を伝えられた妻は、ベッドに寝そべる息子サムにそれを伝
える。
「サム、パパのことで知らせることがあるの...パパは戦争で怪我をして
足を失くしてしまったの。でも大丈夫だから心配しないで。もうすぐ帰
ってくるはずよ」
「ママ、冗談言ってるの?」 「いいえ... 」
「やったあ!パパが帰ってくる!」 「..... 」(2004/05/01掲載)

作者のギャリー・トルデュー(Garry Trudeau )は、この連載マンガの
功績により、1975年に漫画家として初めてピューリッツア賞を受賞
している。下記は作者自身による今回の騒動へのコメントである。

「このストーリー展開は、犠牲について、手足を失うなど人生を完全に
変えてしまう深刻な喪失について描いている。4月だけでも、600人
以上が戦闘で負傷している。イラク駐留に賛成であろうと反対であろう
と、忘れてはいけない。私たちの名の下に、兵士たちが恐ろしい喪失に
苦しんでいることを心に留めておくべきだ」

一方、フォックスニュースチャンネルに出演している保守派の名物コメ
ンテイター、ビル・オライリーのコメントは次ようなものである。
「(作者は)熱心な左翼だ。(中略)過激な反ブッシュの連中だ」
「戦時において反対意見を述べるのは高潔なことかもしれないが、無責
任な行為でもある」
http://thestar.com/NASApp/cs/ContentServer?pagename=thestar/
Layout/Article_PrintFriendly&c=Article&cid=1084227010352&call_pageid=970599109774

▼メディア、政治、検閲▼ by ビル・モイヤーズ
AlterNet.org 07 May 2004

イラク戦争はイメージ戦争でもある。今週、アメリカ国民は拷問された
イラク人囚人の写真に騒然となった。それは、先週現地の刑務所にいる
アメリカ兵によって撮影されたものだった。
1週間前の金曜日、「ナイトライン」で、テッド・コッペルがイラクで
死んだ駐留軍兵士の名前と顔写真を放映した。だが、彼らの名前と顔写
真はシンクレア・ブロードキャスティンググループ所有の放送局ABC
系列では放送されなかった。シンクレア社はコッペルを、「政治的主張
以外の何ものでもない」と批判した。
だが、シンクレア社の政治的主張についてはどうなのか?62の系列局
を抱えるこの企業は、米国内でも最大級のネットワークで、ワシントン
でうまくロビー活動をしたおかげで、さらにネットワークを拡大できる
許可を得ている。そして同社の幹部は気前のいい共和党献金者である。
911テロ以降、シンクレア系列の放送局に登場するタレントは、現大
統領を100%支持すると明記された契約書への同意を要求されるとの
報告がある。同社の広報部門副社長マーク・ハイマンは、シンクレア・
ニュースチャンネル網を通じて全米に毎日放送されている番組「ザ・ポ
イント」にコメンテイターとして登場する割合が2倍に増えている。
今年始めにハイマンはイラクに派遣され、現地での良い出来事について
のニュースを編集する役割を引き受けた。
それはもちろん、シンクレア社の独占だった。ニュース放送網ならどこ
でも憲法修正第1条が適用されるのはいま私が実行している通り。だが
自由に話せることと、その声が他の誰かに届けられるのとは別の話だ。
シンクレア社はコッペルを検閲した。
そして、民主党全国委員会がブッシュ批判広告のためにスポット広告枠
を買おうとしたところ、シンクレア系列のマジソン局(ウィスコンシン
州)は枠の販売を拒否した。
シンクレア社のようなワシントンにべったりの関係は珍しくない。国内
最大のラジオ放送網、クリアチャンネル・ネットワークは1996年の
規制緩和の恩恵を受けた最大の勝利者のはずだ。昨年、クリアチャンネ
ルはイラク侵攻に関して戦争賞賛集会を開催するチアリーダー的存在だ
った。
メディア王、ルパート・マードックもワシントンでの勝利者の1人だ。
議会と共和党管理下の連邦通信委員会は、彼が所有するニューズ・コー
ポレーションが法律で許可されている以上の放送局を買収しているにも
かかわらず、マードックに罪を問うことはなかった。
マードックは他にもイラク戦争翼賛企業のフォックスニュースとニュー
ヨーク・ポスト紙を所有している。ここ1週間ほど、ニューヨーク・ポ
スト紙は現地で体を張っている兵士の実像を「十分に反映していない」
として、イラク人囚人の拷問写真の掲載を拒否した。
報道の自由とは、周知の通り、放送網の所有者にのみ保障されているも
のである。ポイントはそこだった。これらメディアの巨人たちが、間違
った行動をとっているにしても、権利によって擁護されている。それが
システムだ。ブルータスよ、そのカルテルというシステムは、大企業と
政府がお互い助け合えるように効果を発揮している。
近頃では、巨大メディア複合企業は、政府が検閲を必要とするときには
自らその役を引き受けるようになっている。だから、私たちはもう一度
思い知らされることになる。ジャーナリズムの最高の瞬間は、ジャーナ
リストたちが政府と利害を共有している時にではなく、恐れることなく
独立している時にやってくる。自由な報道は、自由な社会に全てを託し
ているのである。

▲ビル・モイヤーズは PBS(公共放送サービス)のテレビ番組「NOW
with Bill Moyers」のホスト。このコラムは、彼がAlterNetに寄稿し
たものである。
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/05/post_5.html