■暗黒が中東に降りかかる■ロバート・フィスク

バグダッドそのままに

ベイルートでは人々が自宅を引き払っている

24 November 2007

では、ここからどこに行くのか?ベイルートでは供給電力がないので私

は暗闇の中でしゃべっている。そしてもちろん誰もがこわがっている。

今日大統領が決まることになっていた。大統領は選出されなかった。私

の家の外の見晴らしのよい断崖沿いの道路は人通りがなかった。だれも

海沿いを歩きたがらない。

私がいつもの朝食をとりに出かけたとき、カフェに他の客はいなかった。

私たちはみなこわがっていた。レバノンのあらゆる戦闘地帯を忠実に私

につきあってまわってきた私の運転手アベドは、夜間に運転するのをこ

わがった。私は昨日ローマに行くことになっていた。彼に空港まで行っ

てもらうのを私は遠慮した。

板ガラスの上にある国がどんなものかを説明するのは難しい。そのガラ

スが割れるとしても、それを確信するのは不可能だ。レバノンで壊れ始

めているように、政体が壊れるとき、いつガラスがくずれるかは決して

わからない。

ちょうどバグダッドで自宅を引き払ってきたように人々が自宅を引き払

っている。私は外国人だから、おそれていないかもしれない。でもレバ

ノン人はおそれている。内戦が始まった1975年私はレバノンにいな

かった、でも進行中だった1976年はレバノンにいた。この国に生涯

を注ごうと望む若いレバノン人、こわがる若いレバノン人多数に会った。

彼らがこわがるのは当然だ。私たちになにができる?

先週、ベイルートで最高のレストランのひとつジョバンニズでランチを

食べた。そして同伴者としてメイフラワーホテルのオーナー、シェリフ・

サマハを誘った。過去31年におよび、私の客をたくさんメイフラワー

に届けてきた。だが、前首相の息子サード・ハリリのために働く民兵が

客に含まれていたのを示唆したせいで、シェリフは心配した。大部分の

レバノン人を信じるなら、ハリリ首相は2005年2月14日、シリア

人によって殺された。

かわいそうなシェリフ。彼は自分のホテルに決して民兵を泊めなかった。

彼らは近隣のビルにいた。だが、そうしたレバノン人はシェリフである

のに、ランチを食べるため彼のクルマで私を拾うと申し出た。彼が心配

するのは当然だ。

アメリカ大学病院の医師と結婚した私の友人の女性が2日前に電話して

きた。「ロバート、隣に建てているビルを見にきなさいよ」と彼女は言

った。そして私はアベドを連れてこのひどいビルを見に行った。ほとん

ど窓がない。その取りつけられた設備すべてが垂直に立っている。それ

は民兵の刑務所も同様だ。それが意味していることは確かだ。今宵、停

電のなかでコラムを口述するとき、私はバルコニーに座る。そして通り

には誰もいない。なぜなら、誰も彼もが恐れているからだ。

では、中東の世界が刻一刻と不吉さを増していくことを除いて、中東特

派員が土曜の朝に書けることは何か。パキスタン。アフガニスタン。イ

ラク。「パレスチナ」。レバノン。ヒンドゥークシ(パキスタン北部・ア

フガニスタン東北部の山脈)の国境から地中海まで、前にも言ってきて

いるように、私たち西洋人は地獄の大災難を引き起こしている。来週、

私たちはアナポリスではっきりしないアメリカの政府機関員と前任者の

アリエル・シャロンよりもっとパレスチナ国家に興味のないイスラエル

のオルメルト首相との間の和平を信頼することになっている。

そして私たちが引き起こしているのはどんな大災害か?ブリストルの読

者から寄せられた手紙を引用させてほしい。彼女は、実際の地獄につい

て事情を明らかにするコミュニティで尊敬されるバグダッド大学教授の

言葉を引用してくれと私に頼む。これを読むべきだ。以下にあるのは、

彼自身の言葉だ:

「< A'adhamiya Knights>は、米軍兵士らをアルカイダやTawheedや

ジハード戦闘員のところに導くことをめぐって米軍兵士らとの厄介な仕

事でスタートした新しい部隊だ。この300人の戦闘部隊は黒い軍服に

顔を隠すための黒いマスクをつけて夜明けに襲撃を開始した。彼らの勤

務期間は3日前に始まり、 A'adhamiya出身の市民150人を逮捕した。

< Knights>は共に米軍兵士と戦っていた同僚のひとりであったかもし

れぬ市民のところに米軍兵士を連れて行く。これらの行為がアルカイダ

の激しい反撃に帰結した。アルカイダの戦闘員と Tawheedの戦闘員と

ジハードはモスクの壁、特にイマム・アブ・ハニファ・モスクの壁に旗

印を置いて、イスラム政党、 al-Ishreen革命組織、スンニ派ディワンを

殺すと言って脅す。この3つのグループは< A'adhamiya Knights>を

設立することに加わったからだ。結果的に、スンニ派ディワンの2人と

イスラム政党のひとりを標的にする犯罪が起こった。」

「アルカイダ戦闘員はストリートの中に置かれ、人々を止めて IDについ

て尋ねる、、、彼らは名前を書いたリストを所持する。このリストにある

名前の人物は誰であれ誘拐されて未知の場所に連れて行かれる。今まで

にオマール・ビン・アブダル・アジズ・ストリートから11人が誘拐さ

れている。」

手紙の筆者は、彼女の友人の教授がどうやって誘拐され刑務所に連れて

行かれたか説明する。「目隠しされた私を彼らが椅子に座らせた、そし

て誰かがやってきてこう言って私の手を取った、 "われわれはMuhajeen

だ、われわれはあなたを知っているがどこの出身かは知らない。 " 彼ら

は私のサイフをとらなかったし私を調べもしなかった。彼らは銃を持っ

ているかとだけ聞いた。1時間かそこらして、彼らのひとりがやってき

ていっしょに来るように求めた。彼らは私を通りの私のクルマまで乗せ

ていき、もういいと言った。」

では、< A'adhamiya Knights>とは何者か?誰が金を払っているのか?

中東で私たちがやってることは何なのか?

ウインストン・チャーチル、ロイド・ジョージ、そして第一次世界大戦

における特別任務の米国外交官すべてによって繰り返された、1915

年にアルメニア人ジェノサイドが起こったという事実を私たちがいまだ

に認めるのをはねつけるとき、中東でのモラルの根拠についてどうして

了解できるのか?1915年の150万人のアルメニア人の大虐殺に関

する英国政府の公式見解はこうある。「1915年〜16年の大虐殺を

悲劇として容認して大変な歴史の一コマとして説明することでは、政府

は力となる気持ちを公式に認める。しかしながら、これらのできごとが

1948年国連ジェノサイド(特定の人種・国民の計画的な大量虐殺)

協定によって明確に定められるジェノサイド同様に分類されてしかるべ

きと確信するのに証拠がいやというほど疑う余地がないものだと、現行

の政府も先の英国政府も判断していない。」

私たちが第一次世界大戦を正しく理解できないでいるとき、いったいど

うして第三次世界大戦を正しく理解できるのか?

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■さらなる惨事に備えよ■インディペンデント紙

01 September 2007   by ロバート・フィスク

ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララは新しい兵器を自慢している。

レバノン人はそれには対空ミサイルが含まれていると考える。それが事

実なら、次の戦争は暗澹たるものだろうが、待ちきれないことでもある

んだろう。イスラエルの残虐な空襲、常に戦争犯罪で構成される攻撃の

下で生きのびてきた人たちは、むしろそれを願っている。昨年南レバノ

ンでヒズボラの民兵と対戦した際に証明されたように、イスラエル軍は

ヒズボラの陣地で戦う能力がない。もし彼らの恐るべき空軍力までが奪

われることになったなら、どういうことになるのか。

「グリーンゾーン」の宮殿にいるレバノンのシニオラ首相にできること

はほとんどない。アメリカが武器を供給してくれるのでレバノン軍は北

部のパレスチナ難民キャンプでヒズボラではなしにイスラム主義組織の

抵抗に遭いながら進軍を続けている。140名の犠牲を出しながら過去

4ヶ月におよび「侵攻」を続けるレバノン軍をアメリカ大使が賞賛しなが

ら見守っているというのは、報道されない中東の話としては最たるもの

だ。

アメリカがイスラエルに武器を供与し、それがガザのパレスチナ人に使

われるとき、テルアビブのアメリカ大使がどんな反応を示すか、これで

おわかりだろう。パレスチナ人をやっつけるための兵器ならば常に在庫

はあるのだ。

ヒズボラが政府を倒そうとして来月行われる超党派の大統領選挙を阻止

しようとしている。これはシニオラにとって窮地だ。ジョージ・ブッシ

ュの中東における狂信的な民主主義の拡大を証明する最新の国として、

レバノンはワシントンの懐に閉じ込められる一方、国内で唯一機能して

いるのがレバノン国軍だけという状態にある。イランにいるヒズボラの

導師に対して仕掛けられる「対テロ戦争」で、いつのまにかシニオラ首相

はアメリカに組することになっていた。

レバノンに影を落とす暗雲は他にもある。その一つがイラクの宗派主義

である。レバノンのスンニ派、シーア派、キリスト教徒はすべてイラク

に友人や親族がいる。隣国のダマスカスに流れ込んだイラク避難民の中

にいる縁者を訪ねて行く人は多い。この避難民の面倒を見たからといっ

てシリアはアメリカから少しも感謝されない。イラクに大惨事を引き起

こした張本人はアメリカだというのに。 CNNやFOXニュースは決して

伝えないが、統計によると、シリアは約150万のイラク難民を受入れ、

福祉と無料の医療を供給して面倒を見ている。一方ワシントンはといえ

ば、面倒を見るどころか、イラク首相を呪うかたわらで、ほんの800

人を受入れたにすぎない。

そしてレバノンはといえば、このちっぽけなアラブ国家がイラク人の大

脱出が始まって以降、実に5万人の難民を受入れていることに誰も気づ

こうとしない。もちろん、シーア派イラク人はベイルート南の郊外ヒズ

ボラの拠点に、スンニ派イラク人はベイルートやサイダのスンニ地区、

キリスト教徒は東ベイルートのキリスト教地区やメトゥンの山岳地方に

腰を落ち着ける。そしてレバノン人が常にイラク人を兄弟と呼んできた

からか、これまで宗派が異なるイラク人グループの間で争いが起こった

ことはない。1月にベイルートのストリートでレバノン人のシーア派と

スンニ派の若者グループが数千という単位で衝突したことを思えば、こ

れは驚異的だ。

さて、アメリカ人は私たちに隠れて他に何を企んでいるのか。典型的な

米国保守南部に住む私の旧友、ベトナム戦争を戦った退役軍人がこのよ

うに書いてきた。「この2週間ほど、ノースキャロライナの山中を歩き

まわって(彼には山中を歩き回るくせがある)、 F16とC130がやた

らと活動していることに気づいた。地面すれすれの低空飛行で山道をま

っすぐに通過して行く。こういうのを最後に見たのは、ボスニア、コソ

ボ、アフガニスタンの戦争が始まる前だ。」

これが8月初めのことで、その2週間後にまた彼は手紙をくれた。「も

っと C130が飛ぶようになった。75レンジャー(陸軍特殊工作部隊)

が基地から移動して野外訓練をしている。」 そしてこの先が肝心な部

分だ、「ブッシュ政権は、9月半ばのイラクに関する進展報告の前に、

アメリカ国民の注意をそらすため何かしようとしているのだと思う。ア

フガニスタンとパキスタンの国境地帯にあるタリバンや外国人戦闘員の

聖域をどうにかすべきというプレッシャーが高まっているようだ。」

友人の手紙がベイルートに届いた数日後、パキスタンはアメリカが無人

飛行機を使ってパキスタン領内の標的を攻撃したと発表した。だが、い

ま動いているのはもっと野心的な軍事プランのようだ。パキスタンのム

シャラフ大統領が辞任するかまたは引きずりおろされる前に、アフガン

との北西国境地帯に全面攻撃を仕掛けるつもりか?パキスタンに「民主

主義」が戻る前に、オサマ・ビンラディンに対して最後のサイコロを振

ってみるために?

パキスタンから地中海沿岸まで、さらなる惨事に備えよ。だが、事前に

連絡が来るわけではない。


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