■ニューオリンズの真昼、ブルドーザーの用意ができた■

ニューヨークタイムズ(アート欄) by Nicolai Ouroussoff

19 December 2007

10年以上も前に、ニューオリンズの公共住宅建設計画(低所得者向け

団地)を引き継いで以降、住宅都市開発省はそれらを取り壊したくてう

ずうずしていた。

何年にもおよぶ訴訟と延期の末に、いまついにこの省庁はまるでクリス

マスの願いが聞き入れられたかのようだった。ニューオリンズ市参事会

は3つのプロジェクトの取り壊しを承認するかどうかで木曜に投票する

予定である。住宅都市開発省はすでにブルドーザーを適所に配置して、

翌朝にはいつでも作動できるように雰囲気を高めている。

ハリケーンカトリーナによって洪水に襲われる前にその住宅建設はほと

んど住むに適してないと主張する連邦当局は、彼らの決定にけっこうな

社会政策の役を振り当てている。彼らはそのプロジェクトを1960年

代の大いにけなされたスラム化した大都市中心部のプロジェクトといっ

しょくたに扱おうと努めている。

だが、そのような考えは地元の現実に対する冷酷な無頓着を表すものだ。

大都市中心部の住宅建設について考えるときたいてい思い浮かぶつまら

ない大きな壁のタワーや疎外感を感じさせるプラザにニューオーリンズ

はほとんど関与していない。ある建物などは、建築のデザインでも品質

でも、米国に建てられた公共住宅建設の初期の最高の例のひとつだ。

これに反して、最もむちゃな戦後の都市再開発計略をよびさますのが政

府の白紙状態のはたらきかけである。近隣住民の歴史など時代遅れの見

当はずれとの判断、コミュニティまるごと消すことを正当化するために

「すがすがしい出発」という漠然とした概念が引き合いに出される。

このメンタリティ(=ものの見方)はまた20世紀のランドマークとい

えるニューオリンズの他の公共ビルディングをも脅かす。もし政府が行

動にいたれば、貴重な建築上の遺産が個人所得がまちまちの開発、ピッ

チを塗ったようなまっ黒の屋根と骨組みが木造の、あかぬけない小都市

アメリカのイミテーションヴィジョンに乗っ取られることになる。いま

も十分荒廃している都市にこれが降りかかるとなると悲しくもありグロ

テスクでもある(=ばかげてもいる)。

街じゅうにばらまかれる低所得者向け団地には4500戸以上が含まれ

る。住宅都市開発省は今後6カ月以内に完ぺきに解体する計画だ。

団地を完全に破壊しつくすあわただしさにもかかわらず、新たな住宅建

設用のデザインはどれも仕上がっていない。そして新たなプロジェクト

を構想することで連邦当局者はいわば団地のどこかを保存するといった

選択肢を開発業者に与えていなかった。

今日存在するプロジェクトをひとつ残らず保存することで賛成の議論を

する人はほとんどいないはずだ。たとえば、 B.W.クーパー低所得者向け

団地の建物の1950年代の部分のファサードは単調に繰り返される。

個々のエントランスはもっと古いアパートメントに見られるもので、全

体にわたる建築上の品質は劣る。

だが、ニューディール政策の進歩的な社会的日程の一部として建てられ

たプロジェクトの最高の建物は、今日主流となる都市プランナーによっ

て賞賛される多くの要素が重要な役割を演じる。

そのラフィッテ団地では、発生源となる歩行者用道路がアパートメント

の一区画を街路の碁盤の目と近隣住民を取り囲む建造物に融合させる。

かつて美しく造園されたガーデンだったもののまわりに配置されるエレ

ベーターのない低層のアパートメントと狭い玄関ポーチはコミュニティ

の精神を励ますものだった。

建築物の素材の品質もまた今日の公営住宅建設では想像できないものだ

ろう。建物のコンクリートの骨組み、赤レンガのファサード、ピッチを

塗ったテラコッタの屋根は大学のキャンパスに的を絞ったように思える

はずだ。

これらのプロジェクトが直面する問題は、デザインの悪さより、間違っ

た方へ導く政策と、人種が混在する街の歴史に大いに関係している。低

所得者たちを支援した公共サーヴィスから大部分の中身を抜き取るため

に老朽化が今から何十年も前の政府の決定だといわれている。

解体のための住宅都市開発省の論拠がいかにうわべだけの不誠実なもの

か、ここ数ヶ月に世間はじかに判断することができた。ラフィッテから

ほんの数マイルでは開発業者プレス・カバコフが嵐の前に部分的に解体

された団地、セント・トーマス住宅建設団地の取り残された5つの2階・

3階アパートメントの一区画の修繕を終えている。ラフィッテとよく似

た規模のこのアパートメントは、概算でそれより劣った材料の新築にか

かる費用と同じ、一平方フィートあたり200ドルの費用で修繕された。

手の込んだ鉄のレールで飾られたりっぱなレンガのファサードとテラコ

ッタの屋根はそれを四方から囲む一般的な郊外のトラクトハウス(一カ

所に建っている同じタイプの住宅のひとつ)とまったくの対照的だ。

(それに次の嵐では、はるかに持ちがよさそうだ。)

問題は、住宅都市開発省のひとつのサイズにすべてを適合させるメンタ

リティがそれぞれのプロジェクト特有のリアリティを考慮に入れていな

い点だ。省庁は最悪のプロジェクトと、少なくとも部分的には救い出す

ことができたラフィッテのようなものとを区別するのを拒む。板で囲っ

てから、ぐらつく街のコミュニティ全体を根こそぎにすることで生じる

トラウマを住宅都市開発省が認めるはずもない。

1960年代のスラム浄化プロジェクトの不気味で恐ろしい繰り返しで、

計画にひとりの人間の増額を提案することでこのプロジェクトとコミュ

ニティを救い出すことができるとの要求を政府当局者らは今度もまた与

えないと拒んでいる。彼らは、解体だけをやるつもりでいる。当時と今

との違いはかつてそこに存在するものが一掃されることだ。いわば私企

業制度を認めるに基づく主義を推し進めるとして、政府は他の歴史的に

重要な公共建物を解体と同一視している。1930年代後半ダウンタウ

ンに建てられたアールデコ建築、チャリティホスピタルはハリケーンカ

トリーナ後に見捨てられ、その運命は定かでない。

1950年代のこぎれいな近代建築、トーマス・ラフォン小学校は建物

解体用の鉄球で粉々にされる運命だ。それに、19世紀後半に完成する

エレガントなフランスのネオゴシック建築、アンドリュー J.ベル中学校

を取り壊すだなんてとんでもないことだ。

発展という名の下に、どんどんふいにする。街の救世主として役を振り

当てられる建築家は、アメリカの都市計画における最大の犯罪のひとつ

をいっそう大きくするのに使われてきている。

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■デモクラシーナウ■12月20日ヘッドライン

ホアン・ゴンザレス:私たちはニューオリンズに向かいます。そこでは

ここ数週間、4500戸の低所得者向け公営住宅の取り壊しに反対を表

明する抗議が起こっています。

Big Noise Films のジャッキー・スーヘンとリック・ローレイがニュー

オリンズにいて、この報道をうまくさばいてくれます。リックは土曜日

の取り壊し反対を訴える行進で逮捕された人たちの中のひとりです。

ジャッキー・スーヘン:ハリケーンカトリーナがニューオリンズの居住

者らを移して以降、街の将来をめぐる闘争が行われてきています。新し

いニューオリンズはどんなふうになるのか、そして誰がここに住むため

戻ってくるのか、に従事する闘争は主として街の将来の公共住宅建設団

地しだいです。そして今週がその闘いの非常に重要などたんばです。

◇街は先週水曜に取り壊しを開始しました。これが完了すれば公営住宅

の4500戸を破壊することになり、規模では82%減のわずか800

戸の公営住宅に加えて、個人所得がまちまちの一地域住人に道を譲りま

す。ハリケーンカトリーナによって4万1000戸の手頃な値段の賃貸

が破壊されました。そして街は深刻な住宅不足に直面しています。家賃

は嵐の前からほぼ2倍になっています。でも、連邦の住宅建設当局の住

宅都市開発省は取り壊しをどんどん続けています。

◇ニューオリンズに戻りたいが戻れないでいる家族の50%が得るのは

年間2万ドル未満です。通りの向こうから彼らの団地の一部の解体をじ

っと見つめる B.W.クーパーの居住者らは、市は彼らに戻ってもらいたく

ないんだと考えます。

◇ B.W.クーパー居住者1:連中はわれわれを取り除きたいんだ。連中は

ここにあるこの土地がほしいんだと思う。もし金がないなら、住宅は値

上がりしている、すべてが値上がりしているから、ここから出て行かな

くてはならない。ここに貧乏人の居場所はない。なにもない!つまり新

しいニューオリンズになるってことだ。

◇ B.W.クーパー居住者2:連中はこの貧しい黒人すべてを追い払いたい、

完ぺきに出したい。低所得者向け団地はいらないんだ。

◇ B.W.クーパー居住者3:彼らはリッチな街にされるのを望んでいる。

手に入れたいのはそれだよ。オレたちのことはどうだっていい。

◇ B.W.クーパー居住者2:ハリケーンの後、ずっと見てない人たちには

いまだに会えないでいる、なぜなら戻って来れないからだ。彼らはどこ

にも住むところがない。

◇ B.W.クーパー居住者3:あの人たちはどこにも行くところがない。街

を出ていまだにホームレスだ。あの橋に隠れて、橋の下に何千とホーム

レスがいる。食糧スタンプホールを使い出すとき、泣きたくなる。

ジャッキー・スーヘン:ニューオリンズのホームレス人口はハリケーン

以降2倍になっています。毎晩1万2000人を超えるニューオリンズ

市民が橋の下で眠り、街の公園に押し寄せます。市長の執務室が見える

シティホール(市庁舎)正面のこのプラザには何百という人々がテント

を張りブランケットを据えます。プラザのホームレスを移動させるため

市とともに働いているチャリティ、 UNITYによると、少なくともホーム

レスの三分の一は安定した職で働いています。

◇ホームレス労働者1:いまは時給8ドル得る。それではなにも思いつ

かない。動き出すには少なくとも時給21ドルの仕事が必要だ。そうし

たらオーケー。税抜き時給8ドルは無意味、ガキの賃金だ。

ハリケーンの間中ずっとオレはポーチに座っていた。彼が持っていたバ

ッテリーで動く小さなトランジスタラジオに対して大声で叫ぶのが聞こ

えたよ。政府をしかってる、大統領について話している。ここに救助を

到着させる必要がある。この男が泣き叫ぶのをオレは聞いた。オレは言

ったよ、「わかった」ってな。でもみんながそう言ってるときどういうこ

とになるか。彼もみんなとおんなじだった。つまり、市長さんよ、なぜ

ここに救助を寄こしてくれないんだ?言えるのはそれだけだ。

◇ホームレス労働者2:浮浪者で飲んだくれでフーテンだからというの

ではありません。私自身や夫のようにドラッグはやりません。私たちは

毎日働きますが、住宅にお金を割くことができません。彼らは今月の家

賃、先月の家賃、修繕積立金を必要とします。月450ドルだったもの

が今は月950ドルです。

ここには聡明な人がたくさんいます。私には大学の学位があります。住

所がないせいで、先週3つの職を断られました。全然わかりません。そ

れに豊かな富の家に生まれたわけではありません。私の家族は懸命に働

きました。私たちは中産階級です。でもこんなことは予想もしなかった。

これがどんなにつらいかよくわかっていませんでした。そしてホームレ

スといっしょに絶望が訪れます。これを毎日見るのは容易でないし、こ

れを生きるのは耐え難い。なってみないとわかりません。

それに私たちに判断を下す人は必要としません。私たちは浮浪者でも飲

んだくれでも麻薬常用者でもないからです。私たちは事情の犠牲者です。

そして私たちはなんとか精力的にやってみています。私たちには援助が

必要です。ブランケットは十分、食糧は十分。でもそれは長期的な大問

題に対する一時しのぎです。

ジャッキー・スーヘン:今週金曜にダンカンプラザからフェンスを排除

して敷地で野営する人々を追い立てると市は発表しました。金曜の後、

彼らの姿はもはや市長の執務室の窓から見えなくなるでしょうが、地域

をまたがって5万世帯以上に家をあてがうトレイラーパークの閉鎖を

FEMAが開始するとき、ホームレス人口はまた急増するかもしれません。

今後6カ月で FEMAのトレイラーパークのすべてが空にされます。

◇抗議者:すぐにブルドーザーを止めなさい!すぐにブルドーザーを止

めなさい!すぐにブルドーザーを止めなさい!

ジャッキー・スーヘン:ニューオリンズ公営住宅を救うため立ち上がる

地元居住者の仲間に加わるため、今週、国中から活動家たちがニューオ

リンズにやってきました。

◇抗議者:すぐに取り壊しをやめなさい!すぐに取り壊しをやめなさい!

すぐに取り壊しをやめなさい!

ジャッキー・スーヘン:最大の4つの団地の解体は12月15日に開始

が予定されていましたが、政治的圧力と法的手続きとのコンビネーショ

ンが一時的執行猶予を勝ち取りました。

さて、ニューオリンズ公営住宅の運命は市議会の手に握られています。

市議会は今週木曜に投票を行う予定でいます。

◇抗議者:解体はやめて!解体はやめて!解体はやめて!

ジャッキー・スーヘン:ニューオリンズ公営住宅を守るための連合は一

時的勝利を祝っており、彼らの闘いの次の局面のために動員をかけてい

ます。闘いには彼らの街の将来以上のことが賭けられていると彼らは言

います。新しいニューオリンズは国内政策の実験場であると警告して、

国中からの支援を求めています。

エイミー・グッドマン:これはニューオーリンズの Big Noise Films の

ジャッキー・スーヘンとリック・ローレイ が製作したものです。ニュー

オーリンズ市議会は本日決議を取ることになっています。明日また報告

します。

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■デモクラシーナウ■12月21日ヘッドライン

12月20日、ニューオリンズ市議会が低所得者向けの4500戸の公

営住宅の取り壊しを全会一致で可決。これによって街の最も大きな4つ

の公営住宅団地が取り壊され、今後は入居者を低所得者に限らない集合

住宅に変わる予定だ。市議会には数百人が抗議に詰めかけたが、警官隊

によって高電圧ショックのテイザー銃や催涙スプレーで排除された。

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■ニューオーリンズ市議会 全会一致で取り壊しを決定■

ニューヨークタイムズ紙  21 December 2007

市議会の内外で警察と抗議者が激しく衝突した木曜日、ニューオリン

ズ市議会(白人4人、黒人 3人の議員からなる)は連邦政府による4つ

のプロジェクト(4500戸の低所得者用団地)の取り壊しを全会一

致で認めた。市議会はまた公営住宅を早急に建設するよう住宅都市開

発省に求めている。「この街には手頃な価格の住居が必要」と取り壊し

案を提出したシェリー・ステファンソン・ミドゥーラ市議は述べる。

「ただし、公営住宅が貧困層を押し込めておく公共収容施設になって

はいけない。」

一方、取り壊しに反対する人々は、住宅都市開発省の計画ではカトリ

ーナ以前にこのプロジェクトに住んでいた3000世帯(そのほとん

どが黒人)に適切な住居を提供できないと主張する。そうした家族の

多くはいまも街に戻れないでいる。中には「彼らは意図的にニューオ

リンズから遠ざけられている」と言う人もいる。

取り壊された後には低所得者向け団地ではなく、所得がまちまちの団

地が建設される予定だ。「問題は、そこに入れるのが誰かということで

す。」とコミュニティの牧師トリン T.サンダースは語る。彼は採択され

る前に行われた4時間の聴聞会に参加して、プロジェクトの住人はこ

の街のこれまでの再開発計画からも除外されてきたと述べている。

ニューオリンズで災害対策にかかわるコートニー・カワートは取り壊

しに反対するひとりだ。連邦政府がカトリーナ後に公営のトレーラー

ハウスに住んでいる3万人を新しい住居に移そうとしているいま、取

り壊しによって低価格の住まいがますます手に入りにくくなると考え

ているからだ。


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