■紙上で騒がれる男 バラク・オバマ■フィナンシャルタイムズ紙

04 January 2008 by Edward Luce

大いに論評されるバラク・オバマの若い頃の記憶、「 In Dreams From My

Father:マイ・ドリーム」で、彼はウオールストリートで仕事に就いた

後、進退を決すべき岐路に直面した1980年代前半のことを書いた。

数ヶ月後、彼は徹底的に異なるシカゴという大都市の貧困層の中にまじ

り、地域活動家という任務に就いた。抱負のある法科の学生としてハー

バードに入場を許されることになるのだが、それはまだ数年先のことだ

った。

「日本の融資家やドイツの公社債トレーダーとの会見からのがれた時な

ど、エレベーターのドアに映るスーツにネクタイ、手にブリーフケース

を持った自分の影を見つけては、命令をどなりちらし取引をまとめる大

実業家としての自分を想像したりする、自分がなりたかったのはそれで

はなかったと思い起こす前のほんの一瞬。」

民主党であれ共和党であれ、他の候補者の誰よりもバラク・オバマは彼

の選挙戦の主要な政策メッセージを個人の経歴の顛末に織り込んできて

いる。1992年ビル・クリントンは経済発展の裏付け(約束)を「ホ

ープという町」で育った貧しいガキの経歴につなぎ合わせたのだけれど

も、オバマ氏は、個人的メッセージと政治的メッセージを首尾一貫した

キャンペーンの話術に融合させている。

対照的に、ヒラリー・クリントンの相対的に主流の「米国の中産階級」

の教育は、ホワイトハウスに経験と能力をもたらすとの彼女の中心とな

る選挙戦の約束とわずかに触れる程度のつながりがあるだけだ。オバマ

氏のコアとなるメッセージは、人物とその演説が合体するひとつの作品

を産む。キリスト教のあがないの秘められた感情をともなう、世界で約

束を履行するため卑しい身分と人種が混じり合うバックグラウンドから

身を起こすことでの非常にアメリカ的な物語だ。

ケニア人の父(オバマは父のことをほとんど知らない)とカンサス生ま

れの白人の母を持ちハワイで生まれたオバマ氏は、「白人すぎるふるま

い」と批判するジェシー・ジャクソンを含め、アフリカ系アメリカ人か

ら決まったように批判されてきている。だがオバマ氏は人種が混ざり合

うバックグラウンドを、あるコメンテーターの言葉で「自分たちが白人

なのを常に思い起こさせる」ことなく(ジャクソン氏は思い起こさせる

と言われている)黒人でいながら白人にアピールすることができる目新

しい代弁者に置き換えることに成功してきた。

同じようにオバマ氏は「赤い州と青い州」共和党支持と民主党支持の両

方でアピールをかける。彼はまたアイオワのような圧倒的に白人の州で

も支持を勝ち得ている、そして木曜の夜まではアイオワの96%の地区

党員がアフリカ系アメリカ人に投票したことは一度もなかった。サウス

カロライナのような州はもちろん、そこは30%が黒人で今月末の予備

選の支持率で先頭を行く。

オバマ氏が遊説の演壇にいっしょに加わるよう他のアフリカ系アメリカ

人を招くとき、ジャクソン氏やアル・シャープトン師といったありきた

りの黒人政治家よりも、多種多様な人種から好まれるオプラ・ウインフ

リーのような人物やマサチューセッツの初の黒人知事デヴァル・パトリ

ックのほうを選ぶ。オプラのトーク番組は大衆を惹きつける人気番組だ。

「バラクはアフリカ系アメリカ人には初の黒人大統領を手にする可能性

を提供し、白人には過去の愛想がつきた人種分離の限界を超える機会を

提供する」とオバマのキャンペーン従事者は言った。なおそのうえに、

彼がインドネシアの学校に行ったこと(彼の母親が一時的にインドネシ

ア国籍の人物と再婚した)やケニアに近い親戚がいることを想起させる

ことで、オバマ氏は「アメリカの倫理的立場を世界に復活させる」こと

に彼の対外政策の約束を結合する。

先月それについて書いたジョージ・ブッシュの選挙戦略家カール・ロー

ブを含め、幼少期の4年間をインドネシアで過ごしたのとアメリカにつ

いて残りの世界がどう感じるかをともかくも直感で知る能力とを同一視

するなんてと、オバマをあざけっている人がいる。昨年、彼がホワイト

ハウス入りして1年目に世界の最悪の独裁者と話し合うことを誓約した

後、ヒラリー・クリントンはオバマ氏を「未経験で、率直に言っていい

かげん(無責任)」と呼んだ。

だが、オバマ氏が遊説でこの約束を繰り返すとき、これが常にもっとも

騒々しい拍手喝采を引き起こす。もうひとつ人気のある約束のせりふは、

9月11日の攻撃以来ブッシュ氏が憲法を侮辱していると申し立てられ

るのと対照的に、アメリカの憲法に固執するというものだ。

「ハーバー法律レヴュー」誌の初の黒人エディターであってシカゴ大学

で憲法を教えてきているオバマ氏の誓約もまた彼の経歴と共鳴する。「私

は、憲法を読んできた、憲法を教えてきた、憲法を信じ、そして憲法を

支える、大統領になる」と彼は言う。

多くがヒラリーを支持したままの民主党主流派の多数を含め、けなす人

たちは、オバマ氏のキャンペーンは雄弁で(常に興奮させる)強烈かも

しれないが、詳細な説明では見え透いたままだと指摘する。上院の最初

の任期の半ばにあってイリノイ州議会で8年務めたオバマ氏への投票は、

実質上「いちかばちかの冒険」に等しいと言い、アメリカにはホワイト

ハウスで仕事を学ばねばならないような人物を選ぶほどの余裕がないと

言う。

多くのアメリカ人がブッシュ時代の闇夜と見る望ましくない状態に対す

る解毒剤としてオバマ氏は自分のことを表現する。リチャード・ニクソ

ンの大統領職の悪夢後、1976年の比較的経験不足のジミー・カータ

ーの選挙と二者を比較する人がいる。「アメリカと世界が必要とするのは、

現実的で能力あるホワイトハウスの一時代だ」とある有力なクリントン

支持者は言った。「骨折り(汗をかくこと)が必要なときにオバマはイン

スピレーションを提供する。」

今後、指名争いのサーカスがニューハンプシャーに移り、ネヴァダ、サ

ウスカロライナと移動していくなかで、オバマ氏は以前にも増して熾烈

な綿密な吟味(精査)に直面することになろう。公人がこうむる最も苦

い攻撃に直面しては過去15年におよび回復力を証明してきたミセス・

クリントンとは違って、オバマ氏は比較的実地に立証されていない。

木曜の夜の歴史に残る受諾スピーチと形容されるもののなかで、オバマ

氏はアメリカの政治の顔を変えるための一世一代の好機の見通しと、

「あるべき世界に作り直すこと」の見通しをほのめかした。それは不可

能も同然の大胆な主張だ。それがまたアメリカの長くて広い帯状の列の

イマジネーションをとらえてもいる。間近に迫る厳しい追及、詰問の直

面にオバマ氏が耐えられるかどうか、当面、彼が思いがけない幸運をつ

かむという離れわざをうまくやってのけてきていることに、批判者でも

同意するはずだ。

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ローリングストーン誌が指名獲得に最も近い3人の民主党候補者にマイ

ケル・ムーアがなんでも聞いていいよ!という企画をムーアに持ち込ん

だ。その際、3人ともがこれを受けるのが条件だった。バラク・オバマ

とジョン・エドワーズはこれを受諾した、ところがヒラリー・クリント

ンが参加しないと言ってきた。これで企画はおじゃん。「オレに聞かれち

ゃ困るってか!」ヒラリーを推薦しない理由のひとつにマイケル・ムー

アはこのことを挙げている。では彼がバラク・オバマを推薦しない理由

についてはどうなんだろう。以下、彼のブログからーー。

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■今回は誰に投票する? マイケル・ムーアからの手紙■

02 January 2008

友よ、

新しい年が始まっている。

以前2度、オレたちはこの男を止める手順を始めて、2度しくじった。

アメリカ人としての8年が過ぎ去ろうとしている、アメリカに合わない

世界は激変のなかに取り残される。さらにオレたちはいま最高の時がつ

いにやってくる、共和党という驚くばかりにパワフルな勢力がともかく

も立ち止まるであろうと空頼みをする。だがな、民主党が勝利というせ

っぱつまった状況から負けをかっさらうことでエキスパートなのをオレ

たちは知っている、そしてもし今度の選挙をふいにする方法があるなら、

連中はそれを見つけて、非常な喜びを持ってふいにするだろうよ。

オレと同じように感じてるかい?民主党の先頭を行く最も力の出せる人

たちは決して候補者のきらびやかな一流集団ではない、そしてその誰も

が彼らがそうだったらとオレたちが願う「スラムダンク」ではないと?

もちろん、各々にすばらしい意見がある。どいつがいまより大いにまし

か。個人的には、他のどの候補より問題に対するオレの意見と同じ立場

を共有するデニス・クシニッチ下院議員だ。だがな、デニスについて話

して時間をムダにするのはやめよう。昨日、彼はアイオワの支援者に「第

二の選択」としてオバマ議員に支持を投じるよう声明して、負けを認め

ている。

となると、ヒラリー、オバマ、エドワーズってことになるーーさてどう

する?

「バラク・オバマは有能で人を奮起させる男だ。なんて気分をさわやか

にしてくれるんだ!この国の事態をなんとかまともにしようとする彼の

誠実さや肩入れは疑いようもない。だが、彼を知ってるか?つまりすご

いスピーチをするって以外にだよ?どれくらいの国民が現実に彼のこと

を知っているか?彼がイラク戦争に反対だったのは知っている。どうや

ってそれがわかる?開戦前の彼のスピーチでだ。でもな、上院に仲間入

りして以降、彼は一方で撤退すべきだと言いながらイラク戦争への資金

拠出に賛成した。彼は重要でない微力の人を擁護すると言うが、重要で

ない微力の人の子どもが中国製のおもちゃの鉛の入った塗料を飲み込む

とき、集団訴訟を起こすのをますます困難にさせる大企業に味方する法

案に賛成する。それどころかオバマはウオールストリートが腐った有害

なところとは思わない。彼は健康保険企業にオレらが新しい医療ケアプ

ランを創出する手助けをしてもらいたがっている、そもそもこの混乱を

引き起こしてきたのと同じ会社にだぜ。彼はまあどちらかといえば気苦

労のないしあわせない状態だ、もし選ばれでもしたら、共和党候補者に

は朝飯前だろうと思うよ(ブッシュの懐刀カール・ローブはオバマに選

挙戦の助言をしている。つまり彼が民主党大統領候補に指名されれば共

和党にも勝ち目があるとみたのだろう。いくらでもつぶす手はあるって

ことだよ)。優秀なスピーチなんかしていられなくなるぜ。」

では彼がジョン・エドワーズを推薦する理由についてはどうなんだろう?

「あまりにも多くの人々の暮らしをそれは惨めにさせている富裕な権力

層と徹底的に対決し通している男であることに気づく。<この企業の食

い意地と企業権力が私たちの民主主義の破ることのできない急所を握っ

ていると私は完全に信じている>ってなことを言う候補者だ。ドードー。

少なくとも世論調査の上位にいるやつで、このようなことを話すのを聞

いてきていない。エドワーズがアイオワでうまく支持を集めているのは

このせいじゃないかと思う、他の2人が持つ金の隠し場所にはとうてい

近づけないとはいえね。彼は企業の政治献金から高額チェックを受け取

らない。それに選挙資金に上限を設けるのと公的資金の導入に同意する

のは上位3人の候補者で彼だけだ。製薬会社と石油会社とアメリカの労

働者を困らせている企業はどこだってあとを追い回すと、彼はずばり言

っている。メディアは明らかに彼を脅威と見ている、たぶんメディアの

独占的権力もまた彼が追い回すだろうからだ。これはいわばルーズベル

トとトルーマンの会話だ。そこがアイオワの有権者を共鳴させていると

ころだ、オバマやヒラリーほどには注意を向けられてないけどな。彼に

関する報道の欠如が、明日の夜の第一位を損なわせるかもしれない。

先頭を行く3人のなかで唯一エドワーズだけに、他のすべての文明国に

ある共通の基準の支払人のようなものへ導く、万人共通の健康保険介護

計画がある。彼の計画はオレがほしいようには進んでいないが、健康保

険会社が害であり、連中が地位を保つべきでないと正確に指摘している

のは彼だけなんだよ。」

( maichaelmoore.com 02 January 2008)

▲ジョン・エドワーズとは:

消費者運動家ラルフ・ネイダーもエドワーズの反企業姿勢に支持を表明

する。

父は繊維工場の労働者、母は郵便局員、エドワーズは苦労して家族の中

で初めて大学に進学し弁護士として大成功したのを足がかりに政界進出

を果たしたアメリカンドリームの体現者だ。ニューヨークタイムズ紙に

よれば、最近米国で台頭するニューリッチを象徴する人物なんだそうだ

が、なんといっても彼は大企業を相手に巨額の損害賠償を獲得してきた

やり手の法廷弁護士で、63件の大型訴訟で総額1億5200万ドル超

の損害賠償額にもなっている。

エドワーズが他の先頭を行く候補と大きく異なるのはエネルギー政策だ。

ヒラリー、オバマ、そして共和党の全候補者がディック・チェイニー副

大統領のエネルギー政策に沿い、原子力発電所の建設に積極的な姿勢を

示している。特に地元イリノイ州に11の原子力発電施設を抱えるバラ

ク・オバマは、「原子力発電は環境にやさしい」として開発に積極的だ。

エドワーズのほうはマイク・グラベル同様、新規の原子力発電所建設に

は慎重姿勢を示している。

◇エドワーズの著書

「アメリカの貧困の終焉:アメリカンドリームをいかに復活させるか」


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