■ラテンアメリカ:民主主義に対する攻撃■ New Statesman

by ジョン・ピルジャー 24 April 2008

貧乏人を犠牲にして特権階級のパワーを回復させるため、報告されてい

ない戦争が米国によって遂行されていると、ジョン・ピルジャーは主張

する。

イラクをかちとることとイランに対するキャンペーンの猛威とざわめき

の範囲を越えて、世界のぐんをぬいてそびえる強国は、別の大陸、ラテ

ンアメリカでのたいてい報告されていない戦争を遂行している。大量虐

殺とドラッグ売買の責任をコロンビアの精神異常の政権とそのマフィア

から取り払うために、そしてベネズエラ、エクアドル、ボリビアの改革

派政府によって、ラテンアメリカの力を失った大多数のなかに高まる期

待と希望を絶つために、代理人を使ってワシントンは、自らを中産階級

と呼ぶ特権グループの政治的支配を回復して勢いをつけようと計画する。

コロンビアでの主な戦場、戦争の本来の姿は、 Farcとして知られるコロ

ンビア革命軍のゲリラによってゆがめられている。ジョージ・W・ブッ

シュ政権の最初のファシズムを妨害することでラテンアメリカの反抗の

歴史のエピックと特別扱いされている Farcに泥を塗ることで、誘拐とド

ラッグ売買に訴える Farcの手段は道具を供給している。2001年9月

11日の攻撃に続いてアフガニスタンで米国の戦闘機が何千人もの一般

市民を爆撃で殺したとき、「テロを用いてテロとは戦えない」とウゴ・チ

ャベス大統領は言った。それ以来、彼は注意人物だった。けれども、あ

らゆる世論調査が示しているように、彼は「テロ戦争」は支配の聖戦(粛

正運動)だと会得してきている人間の大多数を代弁した。国家指導者の

なかでただひとりも同然にブッシュに勇敢に立ち向かうチャベスは敵で

あり、米国から独立して機能する彼の社会民主主義計画はラテンアメリ

カを統制するワシントンへの脅威だと宣言された。「もっと悪いことに、

大規模暴動、大衆蜂起、アメリカびいきの従属国(アルゼンチン、エク

アドル、ボリビア)の統治者らの挫折がニュースの一面に絶えず続いた

とき(2000年ー2003年)、チャベスの国家主義政策はラテンアメ

リカのオルタナティヴ(より好ましい代替)の典型を示した。」とラテン

アメリカのスペシャリスト、ジェームズ・ペトラスは書いた。

ありあまる特権と貧困を抱える国の「中産階級」が認めるところの、こ

のオルタナティヴの脅威を過小評価するのは不可能だ。ベネズエラでの、

ペトラスの言葉を引用するなら、「粗暴なコミュニストの独裁者によって

統治されるグロテスクな幻想」は、南アフリカのアパルトヘイト政権を

支持した白人人口のパラノイアを思い出させるものだ。南アフリカでの

ように、ベネズエラでの人種差別は貧困層を無視するか見下すか、また

は庇護者ぶってふるまうかして、はびこる。そしてカラカスのぞっとさ

せるディスクジョッキーがインディオの血の混じった種族(メスティソ)

のチャベスを「モンキー」として退けるのを何気なく許した。この愚鈍

な悪意ある行為や言葉は、カントリークラブと呼ばれる郊外の壁に守ら

れる超リッチばかりか、彼らの地位を中くらいの経営者(管理者)、ジャ

ーナリズム、広報活動、芸術、教育、その他の職業に要求する、自分の

ことをあらゆる点でアメリカ人と同一視する連中から出てくる。放送ジ

ャーナリストたちや報道機関は決定的役割を演じてきている。2002

年に不運にもなんとかチャベスを転覆しようとした将軍や銀行家のひと

りによってこのことは認知される。「彼らなしにはできなかった」と彼は

言った。「メディアがわれわれの秘密兵器だった。」

そういう連中の多くが自分たちのことを自由主義者とみなし、自分たち

は「左派」だと説明したがる外国のジャーナリストらに話を聞いてもら

う。これは意外なことではない。1998年にチャベスが初めて当選し

たとき、ベネズエラはラテンアメリカの弾圧的な国家権力の典型ではな

くて、石油財源をぶんどり小銭を郡区の目につかない大衆の手に移させ

ていた国のエリートがエリートのために実施する一定の自由のあるリベ

ラルな民主主義だった。英国の新労働党とトーリー党(保守党)、米国の

共和党と民主党の乖離縮小化に似ている、 puntofijismoとして知られる

2つの主要政党間の協定だ。彼らにとって国民主権の考え方は教会の呪

いだったし、いまも呪いのままである。

さらに高い教育を受けなさい。納税者が資金供給するエリートの「国立」

ベネズエラセントラル大学では、90%以上の学生が上流と「中流」階

級の出だ。ここや他のエリート学生たちは、 CIAとつながりのあるグル

ープによって浸透させられてきており、彼らの特権を守ることでは外国

の自由主義者らに賛美されてきている。

その最前線としてコロンビアを有するラテンアメリカの民主主義との戦

いには主要な標的としてチャベスがいる。なぜかを理解するのは難しく

ない。チャベスの最初の行いは石油産油国機構 OPECを活性化させるこ

とであり、石油価格を最高記録のレベルまで押しやることだった。同時

に彼はカリブ海と中米の最貧国のために石油価格を引き下げた、そして

ベネズエラの新たな富を特にアルゼンチンの負債を全部支払うために活

用した。そして、かつてそれが支配した大陸から IMF(国際通貨基金)

を実質的に追い出したのだ。彼は半分にまで貧困を削減してきている、

その一方で GDPは劇的に上昇してきている。とりわけ彼は、貧乏人に彼

らの生活が向上すると信じる確信を与えた。

皮肉なのは、キューバのフィデル・カストロとは異なり、彼の大統領職

の下でよりリッチになっている富裕層に対して実際に脅威を与えなかっ

たことだ。彼が立証してみせているのは、かつて英国の労働党によって

採用された議論の余地なく急進的でない概念、「ネオリベラリズム」の過

激な手段なしに、社会民主主義は繁栄させることができて、正真正銘の

福祉で国の貧乏階級に接触しようとすることができるということ。昨年

の憲法の国民投票の最中、棄権した普通のベネズエラ人は、官僚が腐敗

したままで下水溝があふれているのに、「穏健な」社会民主主義では不十

分だと抗議していた。

コロンビア国境の向こうでは米国がベネズエラの隣国をラテンアメリカ

のイスラエルにしてきている。「コロンビア計画」に従って、60億ドル

以上の武器、戦闘機、特殊部隊、傭兵、兵站業務が世界で最も殺人的な

人たちにどっさり与えられてきている。ピノチェットのチリの後継者ら

とラテンアメリカを一世代にわたり威嚇した他の暫定軍事政権、その多

様なゲシュタポ(秘密警察)は、米ジョージアのスクールオブアメリカ

で訓練を受けた。「われわれが教えたのは拷問の仕方だけではない」と元

訓練教官は私に告げた、「殺し方、殺害の仕方、消し方を教えた。」それ

は相変わらずコロンビアの真実のままだ。コロンビア政府に激励される

大規模テロ計画は、アムネスティ、ヒューマンライツウォッチ、その他

多数によって詳細に記録されてきている。1996年ー2006年の間

の3万1656件の通常の法手続を踏んでいない殺しと強制失踪の調査

で、コロンビア法律専門家委員会はその46%が右翼の死の部隊によっ

て殺害され、14%が Farcのゲリラによるものとわかった。准軍事的組

織は国内排除の300万の犠牲者の大部分に責任があった。この苦痛は

コロンビア計画の見せかけの「ドラッグ戦争」の産物だ。ドラッグ戦争

の本当の目的は Farcを消すことだった。そのゴールに今は新大衆民主主

義、特にベネズエラに対する消耗戦が加わってきている。

米国の特殊部隊は、コロンビア軍にベネズエラ領内に越境すること、ベ

ネズエラ市民の殺害と誘拐、准軍事組織を敵地に潜入させること、そし

てベネズエラの軍隊の忠誠をためせと助言する。モデルはニカラグアの

改革主義政府を転覆させた1980年代ホンジュラスで CIAが指揮した

コントラ・キャンペーンだ。昨年、限られた国民投票の勝利によって新

たに活気づくベネズエラのエリートが11月の地方選で堂々とその基盤

を広げても、 Farcを負かすことは、ベネズエラに対する全力を挙げての

攻撃への前兆とみなされる。

アメリカの代理人とコロンビアのピノチェットはウリベ大統領だ。当時

のウリベ上院議員がカルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの「親密な私

的友人」として「メデジンカルテルのために働いている」のを1991

年、米国防情報部による機密扱いを解かれた報告が暴露した。現在まで

に、彼の政治的盟友の62人が准軍事組織との周到なコラボレーション

のせいで調査されてきている。彼の統治の著しい特徴は、彼の闇に光明

を投じそれを明らかにしたジャーナリストたちの悲運だった。昨年、4

人の一流ジャーナリストたちがウリベを批判した後に死の脅しを受けた。

2002年以降、少なくとも31人のジャーナリストがコロンビアで暗

殺されてきている。ウリベのもうひとつのクセが、労働組合と人権の働

き手を「 Farcの協力者」と中傷している。このことが彼らを特色づける。

喝采されて迎えられた1982年の「 Under the Eagle: US Intervention

in Central America and the Caribbean (中米とカリブ海における米

国の介入)」の作家、ジェニー・ピアースは、「人の注意が彼らのひどく

野蛮なふるまいにほとんど転じないほど Farcに対する国の反撃で大統領

が成功してきていると確信して、コロンビアの死の部隊はますます積極

的」と書いた。

英国の長年にわたる、主としてラテンアメリカでの秘密の役割を反映し

て、ウリベは個人的にトニー・ブレアによって擁護された。ひどく野蛮

なふるまいのせいで繰り返し非難される High Mountain Battalions(高

山大部隊)といった部隊の SASによる訓練を含める、死の部隊同盟に忙

殺されるコロンビア軍への「対ゲリラ活動の力添え」だ。3月8日、英

国南部のウイルトンパーク会議センターでの「対ゲリラ活動セミナー」

に、コロンビア当局者らが外務省によって招かれた。外務省は人殺しど

もを、こうもあつかましく、よき指導者とめったに見せびらかさない。

西側メディアの役割は、ユーゴスラビア分割への道に邪魔者を取り除く

キャンペーンやイラクの大量破壊兵器に関するウソに真実性を与えたキ

ャンペーンといった昔のモデルに従う。類似したウソと中傷の繰り返し

で、ベネズエラへの攻撃に対する抵抗力の軟化はもうだいぶ進んでいる。

・あとを引くコカイン後遺症

2月3日、コロンビアのドラッグ取引でチャベスが共謀していたと主張

するのにオブザーバー紙が2ページをあてた。サダム・フセインをアル

カイダに結びつけるその新聞の悪名高きいんちきのおどしに類似して、

オブザーバーのヘッドラインには「明かされる:ヨーロッパへのコカイ

ン余波でのチャベスの役割」と書いてある。申し立てには根拠がなかっ

た、確証されていない風聞・うわさだ。割り出された情報源がない。現

にリポーターは明らかに自分自身をかばおうとして、こう書いた。「チャ

ベス自身をコロンビアの巨大ドラッグ取引ビジネスで直接の役割がある

罪で訴えた私の言及に情報源はない。」

それどころか、国連のドラッグと犯罪局は、ベネズエラが国際反ドラッ

グプログラムに全面的に参加しており、2005年に世界で3番目に多

い量のコカインを押収したと報告していた。外務省のキム・ハウェルズ

公使でさえ、「ベネズエラのなかなかの(すばらしい)協力」と言及して

いた。

ドラッグ中傷は最近、チャベスには「ますます知れわたる Farcとの結託」

があるとの報告(4月14日付ニューステイツマンの「危険な接触」を

読め)で勢いをつけている。米州機構の事務総長はここでもまた「証拠

はない」と言う。ウリベの要請とフランス政府によって支持され、チャ

ベスは Farcによって拘束される人質の解放を探ることで仲介の役割を果

たした。3月1日、米国の兵站業務支援を用いてエクアドルのキャンプ

地にミサイルを発射して、 Farcのナンバー2の交渉人、レイエスを殺す

ウリベによって交渉は裏切られた。 Farcがチャベスから3億ドルを受け

取っているのを示すため、レイエスのラップトップから「 Eメール」が復

元されたとコロンビア軍に言わせた。その申し立てはまやかしだ。実際

の文書がチャベスに言及するのは人質交換に関してだけだ。そして4月

14日、チャベスは腹を立てて Farcを批判した。「もし私がゲリラだっ

たなら、兵士ではない女性、男性の拘束を必要とはしなかったはずだ。

一般市民を解放しろ!」

しかしながら、これらのとりとめもない空想には致命的な目的がある。

北朝鮮、シリア、キューバ、スーダン、そしてイランに加えて、ベネズ

エラの大衆民主主義を「テロリスト国家」のリストに置く行程に入った

と、3月10日ブッシュ政権は発表した。最後のイランは目下、世界の

一流のテロリスト国家による攻撃を待っている。

▲ジョン・ピルジャー: 独自の取材方法で有名な、イギリスで活躍する

オーストラリア出身のジャーナリスト、ドキュメンタリー映画作家。

50本以上のドキュメンタリーを制作し、戦争報道に対して英国でジャ

ーナリストに贈られる最高の栄誉「ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」

を2度受賞、記録映画に対しては、フランスの国境なき記者団賞、米国

のエミー賞、英国のリチャード・ディンブルビー賞などを受賞している。

ベトナム、カンボジア、エジプト、インド、バングラディッシュ、ビア

フラなど世界各地の戦地に赴任した。著書には「世界の新しい支配者た

ち」(岩波書店)など多くの著書がある。最新の著作は Freedom Next

Time: Resisting the Empire(「次こそ自由を──帝国への抵抗」)で、

アフガニスタン、ディエゴガルシア島、インド、パレスチナ、南アフリ

カの現状などについて書いている。


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なっています。こちらもごひいきに。

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