■アメリカ大統領選の候補者選びにどんな意味があるのか■

フィナンシャルタイムズ   2 September 2008   by Martin Wolf

今ではもう私たち全員がアメリカ人だ。単にアメリカの指導者が私たち

が暮らすこの世界を具体化するからではない。私たちが生存する世界は、

アメリカ人、もっと正確にはアングロアメリカン(英国系アメリカ人)

が作っているのだ。アメリカは巨大な影響力を持ち続けるだろう。それ

をどう使っていくのか? 大統領選で私たちが問うべきはこの問題だ。

衝突(争い)の世界をあてにする候補者か、協力の追求を信じる候補者

か、選択もまたどうやらはっきりしているようだ。

米外交問題評議会( CFR)のウォルター・ラッセル・ミードが、そのき

わだった新著のなかで、今日のアメリカを、17世紀のオランダで起こ

り、18世紀と19世紀の英国で発達し、20世紀のアメリカで引き続

く、グローバルパワー(全世界にわたる支配力)の伝統と同然と考える。

これを彼は、「アングロアメリカン」システムと言う。(著書「 God and

Gold: Britain, America and the Making of the Modern World」)

このシステムとはなにか?それには中心となる特色が3つある。海上貿

易とグローバルと通商に軍事力を兼ねることだ。英国系アメリカ人には

特有の文明がある。文民(非戦闘員)だが好戦的、営利本位だが道徳主

義、個人主義だが組織化される、革新的だが保守、理想主義だが冷酷。

敵に対しては残酷で浅はかで偽善的。友人には自由と民主主義の源泉だ。

過去3世紀にわたって、英国系アメリカ人たちは選ばれた議会に対して

責任のある行政機関の長(大統領)によって世界に大国のルールをもた

らしてきている。彼らは市場が決める資本主義と進行中の産業や技術の

革命をもたらした。とりわけ、彼らは多くの強敵を打ち倒した。スペイ

ン帝国、フランス国王と皇帝、ドイツ国王とナチ、日本の軍国主義、そ

して最も最近ではソヴィエトの共産主義。彼らはインドのムガール帝国、

日本の将軍政治、そして間接的に中国の最後の王朝を滅ぼした。

英国系アメリカ人たちは多くの対立するイデオロギーにも立ち向かった。

マルクス主義は当世風の最も重要なオルタナティヴ思想だった。観念形

態の体制としてそれが崩壊したとき、「歴史の終焉」と書く機会をフラン

シス・フクヤマに提供した。リベラルな民主主義は現代的なものと両立

する唯一の体制になってみせていたと彼は主張した。

過去3世紀の壮大な歴史物語は、アングロアメリカン革命についてと、

滅ぼされ、くつがえされ、恥をかかされ、とりわけ、変容させられた人

びとと文明のなかに喚起するリアクションについてだった。このグロー

バルパワーにおけるシフトでは、単なる外国ではすまなかった。英国人

とアメリカ人は彼らに内部を変えさせる気にさせた。偉大な文明、イス

ラムやインド、そして中国さえも、圧倒され飲み込まれた。英国人とア

メリカ人は彼らの介入をよいことのつもり、彼らの衝撃を有益とみなし

がちだ。控えめに言えば、残りの人類社会にはそうは見えてきていない。

ミードの著書の価値のひとつは、ルイ14世からオサマ・ビンラディン

とウラジミール・プーチンに至るまで、英国系アメリカ人に対して感じ

る軽蔑と嫌悪の正しい認識である。

では、21世紀におけるこのシステムの未来と、これが具体化してきた

世界の未来はどうなるのか?また現在進行中の大統領選でこれがどうな

るのか?

第1の最大のポイントは、世界が今となっては広く市場経済とグローバ

リゼーションの当然の結果に導かれていること。これが今や世界の2大

巨人、中国とインドを変えてきている。結果として米国は相対的に経済

衰退にある。

第2は、それにもかかわらず、米国が今後四半世紀にわたり世界で最も

パワフルで最も技術的に先進国で最も革新的経済でありつづけるだろう

こと。同時に、世界の最も有力な軍隊を思いのままにするのは確かなの

で、四半世紀におよび相変わらず最大のグローバルパワーのままである。

それはただひとつのグローバルパワーのままのはずだ。

第3は、バラク・オバマとジョン・マケインはどちらもアメリカ人だ。

アメリカ内はどうやら二人の違いに唖然とするようだ。残りの世界の大

部分には類似点こそが明白だ。どちらもアングロアメリカの伝統を体現

する、これは先祖の問題ではなく、文化の問題だ。彼らはどちらもアメ

リカの運命(必然性)を信じ、偉大なパワーの恩恵を信じる。

おまけに彼らはその伝統に互いに異なる要素を反映する。衝突、争いの

天性と協力の天性だ。前者の天性は敵を求め、後者は取引、協定を求め

る。前者はマニ教的二元論の信奉者で、後者は懐柔的だ。

ブッシュ政権はずっと前者の見解のファンだった。戦うためなら、最も

著しくは拷問など、悪事にも喜んで応じてきている。マケイン氏もまた

悪と戦う戦士である。もう一冊別の魅力的な本のなかで、ネオコンで最

もインテリのロバート・ケーガンが新たな衝突の時代の根拠を展開する。

(著書「 The Return of History and the End of Dreams」)「イスラ

ム急進主義の反動勢力に加えて、独裁政治のような列強」からの敵対に

対し、世界の民主主義は世界を具体化するため一致団結しなければなら

ないとケーガン氏は主張する。これは中国をロシア、イラン、オサマ・

ビンラディンとつなぐ、印象的な「悪の枢軸」だ。

この未来像は誘惑的でまことしやかで危険である。自己達成的な(予言

の通りに成就される)予言になりうるから危険だ。世界がより小さくな

って、グローバルな庶民階級を統制するという難題がより重要になると

き、協力が欠かせないから危険である。とりわけ、いわゆる新興の独裁

政治が実存的な脅威の態度をとらず、思わずつりこまれる新イデオロギ

ーを提出しないために危険である。これは控えめな脅威に対する、巨大

なオーバーリアクションだ。

中国やロシアの政治制度を嫌うのは西側諸国の思想の支持者にはもっと

もなことだ。だが、これらの国々が断じて30年前の国でないことは、

どんな冷静なオブザーバーにも明らかだ。これはとりわけ中国の真実だ、

中国は世界経済への統合と同時に起こる中国社会の開放で巨大な賭をし

てきている。これが究極的に中国の民主化につながるかどうかは誰にも

わからない。だが、それを除外した人は、むしろ勇敢な人物ってことに

なりはしないか。

今回の大統領選は、アングロアメリカンの地球全体にわたる覇権という

画期的できごとで、次なる登場人物、もしかして最後となる人物を決定

するかもしれないのだ。問題は、アメリカ国民が衝突の天性を選ぶか、

協力の天性を選ぶかだ。

実際問題として、マケイン氏もオバマ氏も、ただひとつの選択に乗じる

ことはあるまい。ただひとつのアプローチが唯一の解決策であるはずも

ない。だが、傾向の違いは歴然としている。アメリカはまた別の悪との

大聖戦のため、ふんどしをしめてかかるのか?または、残りの世界とい

っしょに席について話し合う用意ができているのか?今日の複雑な世界

のための適切なアプローチは、合意となだめることを同義語とみなす連

中のものではない。どちらを選ぶかに一点の曇りもないように思える。

それが私たちの時代を具体化することになる。

▲毎週、フィナンシャルタイムズのサイトにあるコラムニスト、マーチ

ン・ウルフの記事を世界で最も影響力のある50人のエコノミストたち

が吟味する。

martin.wolf@ft.com


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