■エイズはアメリカを変えたか?■ BBC NEWS 1 December 2008

by John-Manuel Andriote

過去27年間アメリカではエイズ関連の病気で50万人以上が亡くなっ

てきているが、エイズはこの国を実際に変えてきているのか?

火曜日、 BBCのラジオ2でエイズに関するドキュメンタリーを紹介する

俳優ポール・マイケル・グレイザーには個人的レベルで圧倒するインパク

トがあったのは疑いない。

長期間の TV番組「スタスキー&ハッチ」でスタスキー刑事として最もよ

く知られるグレイザーは、「エイズは私の人生と何十万という仲間のアメ

リカ人に大影響をもたらした。」と言った。

グレイザーの妻エリザベスは、アメリカで最初にエイズが報告された

1981年に輸血からエイズを発症させる HIVウイルスに感染した。

エリザベスと彼女の娘は後にエイズ関連が引き金となって死んだ。

ドキュメンタリーに使われる公記録に保管される新たなインタヴューの

なかで、1992年の民主党全国大会に向けたエリザベス・グレイザーの

スピーチは2008年の今でも持ち出される問題だ。

「私のエイズの介護にどれだけお金がかかるかご存じですか?」と彼女は

尋ねた。

「年に4万ドル以上です。裕福な人々が介護やクスリを得られ、貧乏人が

得られない、これは私が誇りとするよう育てられたアメリカではありませ

ん。私たちはすべての国民にヘルスケアを必要とします。」

米疾病対策予防センター( CDC)からの最新の数字によると、1981

年に一握りの若いゲイの男性の間で初めてそれと知らされて以降、

2005年の終わりまでに、ほぼ100万人のアメリカ人が HIVエイズ

と診断されてきていた。

だが、病気に冒されてきた人々が経験してきている個々の苦痛、あるいは

耐えなければならなかった偏見を、その数字はとても示しそうにない。

まだ治せないにしろ、 HIV感染をなんとか処理することで築き上げてきて

いる大進歩にもそれは光を向けない。

・初期のパニック

1980年代の初期、新たな脅威に社会が順応するのに時間がかかったの

をグレイザーは回顧する。「病気がどこから由来するのか誰も正確に指摘

することができなかった事実が、混乱と必然的なパニックを導いた。」

ロック・ハドソン、アーヴィン・マジック・ジョンソンといった鮮明な立

場の俳優や NBAバスケット選手、そして女優エリザベス・テイラーとい

ったセレブの関与が当初のパニックを食い止めるのに役だった。

・ライアン・ホワイト

血友病の治療に使われる血液製剤から HIVに感染したライアン・ホワイ

トというインディアナ出身の10代の少年もまた、人々の態度を変えるこ

とで大きな役割を演じた。

多くが「ゲイの病気」とみなした病気になることで、免疫性の攻撃と社会

的不名誉を抱えて生きるとはどのようなものだったかを彼はアメリカ人

に示した。

1990年の彼の死後、今日 HIVエイズの保護と支援プログラムに資金

供給する20億ドルのプログラムになっている、ライアン・ホワイト保護

法を連邦政府は可決した。

・ゲイ社会はひどい衝撃を受けた

疑いもなく、エイズはゲイ社会におそろしい犠牲を負わせてきている。

アメリカで最もよく知られるエイズ活動家ラリー・クレイマーが想起する。

「私が知ってる何人が犠牲になったかリストを記入していた、500人に

なったとき、私は記入するのをやめた。」

「私の友人はみな、だれもが死んでいた。」

サンフランシスコのゲイ活動家で市の最初のエイズ世話組織の共同創設

者、クレーヴ・ジョーンズは、友人と家族たちが彼らの愛する人の死の原

因を白状するのに「あまりにも恥じてためらっていた」のに憤慨させられ

た。

倒れた人たちのために記念式を行う方法として、ジョーンズは1987年

にエイズ・メモリアル・キルトを作り上げた。

今日、キルトにはエイズによって殺された人々の4万枚以上の長方形が含

まれる、だがその数はアメリカだけでその病気で死んでいる人々の12人

にひとりにも相当しない。

複合薬にすさまじい効果があると報じられた1996年、形勢が HIVエ

イズに不利になり始めた。

1998年までには、サンフランシスコのゲイ社会の新聞ベイエリアリポ

ーターが、その新聞の「葬儀がない」という見出しで、国中で大ニュース

になった。

・低下する警戒

有効な治療の見込みで、多くが HIVに対する警戒を減じて、必要でも、

高価な毒性のクスリが彼らを救うと信じた。

結末は、特に若いアフリカ系アメリカ人男性の中に新しい HIV感染が増

加していった。

マージョリー・ヒル博士はラリー・クレイマーとゲイの男性の小さな団体

によって創設される世界で最初のエイズの世話と教育組織、ニューヨーク

の Gay Men's Health Crisis(GMHC)のディレクターである。

彼女は、若いアフリカ系アメリカ人のゲイとバイセクシャルの男性のサン

プルの46%が HIV陽性だったとのCDCの調査に注目する。

「それは法外です」と彼女は言った。「不当で良心がないですよ。」

「私たちが廃業することはありません、不幸にも、やるべき仕事はにわか

景気づいていますから。」

・心からの深みのある変化だが不十分な変化

アメリカは HIVエイズになった人々を完全に受け入れるようになっては

いないにしろ、ゲイ社会と社会全般で一個の人間として影響をこうむった

人たちの暮らしに確かに心からの変化がある。

主流文化の中できわだって目立つ状態のゲイの人たちと、社会のより寛容

な態度のおかげである。

私は、アメリカにおけるエイズのインパクトについて報道することに半生

を費やしてきている。そしてエイズは確かに多くのゲイの人たちに新たな

成熟度をもたらしてきている。

私たちは誠実が意味することを学ばなければならなかったし、まともな

人々(異性愛者)に包囲されたときでもゲイとして、あなたが何者である

か弁解がましくなく、あなた自身でいることを、学ばなければならなかっ

た。

今日、 HIVと共に生きる人々は彼ら自身の医療をなんとか処理することに

もっと熱中する。

そしてエイズ擁護者は、 HIVと共に生きる人々と他の病気の人たちが医学

的研究における単なる「対象」としてでなく、アドバイザーとして関係す

るのを保証しようと一生懸命になっている。

・汚名を媒介する

だが、アメリカではすごくよくわかっているにもかかわらず、 HIVはいま

だにはなはだしい汚名を媒介する。

Gay Men's Health Crisis(GMHC)の支援団体にいる女性の半数近くが、

家族には自分が HIV陽性だと伝えてきていないとヒル博士は言った。

彼女は言った。「もし家族に教えたら、私の姪や甥は家に食事に来るのを

許されないだろうと彼女たちは言いました。」

「これが2008年なんですよ。そんな態度はバカげています。」

しかしそれでも、大多数のゲイの間でもそれは持続する。

ボブ・ボワーズは20年以上も HIVと共に生きてきているまともな男性

(異性愛者)だ。

彼は言った。「ゲイ社会内の人々は HIVステータスに基づいて互いを判断

し合う。」

HIV陽性の男性がデートに「neggie:陰性」を求めても、「彼らはそれを

思いやるつもりなどない」と彼は注意する。

・仮定はいまも作られる

医療のプロも含め、大多数の人にとり、 HIVエイズは異性愛者でない位置

づけを持つ町の特定地域に暮らし、それらしく見える人々を連想させ続け

る。

ヒル博士は言った。「私はニューヨークで暮らすアフリカ系アメリカ人女

性です。」

「ニューヨークの黒人女性はどうも白人女性の9倍 HIVで死ぬらしい。」

「 HIVの検査を受けたいかどうか私に尋ねる医療供給者はこれまでひと

りもいませんでした。」

もう一度質問を尋ねる必要がある。エイズはアメリカを実際に変えてきて

いるのか?

答えはイエス、だが。

心からの深みのある変化はあった、でも、それはあなたが国のどちらの面、

どちらの人の顔つき容貌について言っているか、それ次第である。

▲ジョン・マヌエル・アンドリオットは、20年以上ものあいだ HIVエ

イズについてリサーチし、書いてきたワシントンポスト紙のジャーナリス

トだった。彼の元パートナーは1990年代にエイズで死んだ、そして彼

は2005年以降、彼自身が HIV陽性だ。

「エイズはどうアメリカを変えたか」は、12月2日、 BBCのラジオ2

で放送された。


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