▼ダボス対ポルトアレグレ▼15 Feb. 2002
by イマニュエル・ウォーラーステイン
http://fbc.binghamton.edu/83en.htm

2001年、ダボスでの世界経済フォーラムと同時に、最初の世界社会
フォーラムがブラジルのポルトアレグレで開かれた。この時、世界の報
道機関はまじめに取り上げなかったし、進歩的な活動団体の多くが真剣
に考えずに参加しなかった。(エドワード・サイードでさえ、行きそび
れている)だが、2002年は状況がまったく違った。2ラウンド目の
ポルトアレグレ会議には少なくとも5万人が参加し、世界中の報道機関
がこれを真剣にとりあげた。
何が起こっていたのか?まず第一に、アメリカのやり方が度を越し始め
以前の友好国をも怒らせていた。それに例の「悪の枢軸」発言、あれに
はヨーロッパの人たちだけでなく、多かれ少なかれとんでもないことだ
と否定した。
第二に、ポルトアレグレの精神である反グローバリゼーション運動が、
デモや抗議行動にとどまらず、既存のものに取って代わり信頼に値する
新しい計画を示し、世界の共感を集めようとしていた。
世界政治の中心をなす国々の態度はまだ不確定であるけれど、ヨーロッ
パの人たちがもっと強く自己主張する必要があると感じ始めているのは
明々白々だ。
ポルトアレグレが懸命に努力を続けさえすれば、次の10年間には素晴
らしい力を発揮するはずである。

▲イマニュエル・ウォーラーステインはアメリカの社会・歴史学者。

▼有機先進国キューバの風▼

スローライフ大国キューバからのリポート、第一弾「200万都市が有
機野菜で自給できるわけ」、第二弾「1000万人が反グローバリズム
で自給・自立できるわけ」(共に吉田太郎著:築地書館)、そして「有
機農業大国キューバの風」(首都圏コープ事業連合編:緑風出版)が、
キューバのサスティナブルな息吹きを伝えている。
第二弾のルポは、トキ、ミミズ、玄米、カストロ、革命防衛委員会と、
金はなくともリストラとは無縁のゆとりある暮らしと、有機水田の上空
を悠々と舞うトキの姿を追った新刊だ。

キューバでは、オーガニックな都市農業だけで国内の米の65%、野菜
の46%を生産している(99年)。ソ連崩壊後の窮乏期には市民農園
はもちろん、野菜を食べる習慣すらなかったというのに、この10年足
らずのうちに有機先進国へと大転換を成し遂げた。
土壌がなくとも街なかで農地を生み出す「オルガノポニコ」や、都市の
遊休地をどんどん農地にしていく行政機構の設置、有機農業に関する教
育・セミナーの推進と、これが正しい国の方向性と決めるや即刻行動に
移すところがなんともキューバらしい。

また、キューバでは「家族」の範囲が、同居家族はもちろん、親族、近
隣の住民、友人までにわたり、国がまるごとコミュニティみたいなもの
だから、中央集権体制も手伝って、変革も成し遂げやすかったに違いな
い。ハバナの都市農場や市民農園の多くは、生産物の一定割合を地域の
小学校や老人ホームなどに無償で寄付している。

キューバでは教育も医療もタダ、食糧だって必要最低限は配給され、住
宅も公営で水道光熱費、電話代もタダである。けっして物質面で恵れて
るわけではなかったが、生活の不安はない。だれもが安心して人間的に
暮らせる権利を、なによりも重要視している。
キューバの憲法には、「国民が無料で治療を受け、健康になる権利をも
つ」とある。また「国家は環境と天然資源を保護する。環境と天然資源
が、持続可能な経済的・社会的発展に密接な関連があることを、国家は
認識する」とも宣言している。国をあげて、きっぱりとサスティナブル
な社会をめざしている。

医療分野ではハーブ薬品や代替医療(ホメオパシー、鍼、指圧、精神療
法など)の研究を推進しているし、エネルギー分野ではソーラーをはじ
めとする自然エネルギーへの転換を推進している。

どれにも共通してるのが「依存しないで自立する」という固い意志だ。
ソ連依存型経済からの自立、病院依存から自然治癒力を高める自立的ケ
アへの脱皮、石油資源に依存する不安定なエネルギー世界からの自立な
ど。こうした自立性を支えているのが地域コミュニティであり、NPOの
活動だった。  
著書「有機農業大国キューバの風」では、キューバ・モデルとスウェー
デン・モデルを対比させながら「協同組合国家(新たな福祉国家)」の
道を探っている。