▼「嘘つき大統領のデタラメ経済」by ポール・クルーグマン▼

2000年1月から2003年3月までニューヨークタイムズのために書いたコ
ラムをまとめたこの本は、政治のトップにおける信じられないほどの劣
悪な指導力、つまり、ジョージ W . ブッシュ大統領にに対する批判の書
である。経済学者であるポール・クルーグマンがなぜ政治について触れ
ざるをえなくなったのか。彼が、ブッシュ政権の露骨な不正直さを指摘
し始めたのは他のジャーナリストや専門家よりかなり早かった。訓練さ
れたエコノミストであるクルーグマンは自分で数字を計算した。そして
すぐにブッシュ政権がまっ赤なウソをついていることに気づく。また、
ジャーナリストの共通認識が形成されることがしばしばの、ワシントン
の交流の輪から外れていることで、彼は物事を違う角度から見ることが
でき、自分が見たことを書くことができた。ほとんどのコラムニストや
コメンテーターがアメリカの政治家に勇敢なビジョンと行動力を見いだ
していたときに、彼が見ていたのは混乱、無能、不正直という「もうひ
とつの現実」だった。
過去3年間にアメリカではラディカルな激変が起きている。
クルーグマンの意見では、ホワイトハウス、議会の上院・下院、司法の
大部分、そしてマスコミの多くを牛耳る右派勢力はこれまでのアメリカ
が好きではなかった。既存の政治システムの正当性を受け入れていない
現政権は、キッシンジャーが1957年に書いた(これを見越して書いた
ものではなかったが)、「従来の安定した政治システムが相対する既存
の体制の正当性を認めない勢力」、すなわち、「革命勢力」ということ
になった。
たとえば、外交政策。イラク戦争を扇動したネオコンの考え方は従来の
外交姿勢のすべてを否定している。リチャード・パールは、「国際機関
が作った国際法による安全など、リベラル派のごまかしでしかない」と
指摘した。ブッシュ政権に近いシンクタンク、アメリカンエンタープラ
イズのマイケル・ルディーンなどは、「アメリカ人は好戦的で、われわ
れは戦争が好きだ」と言ってのける。
そして憲法の基本原則である宗教と国家の分離。学校で進化論を教える
ことに批判的な共和党の下院院内総務トム・ディレイは、地元の選挙民
に「聖書的な世界観を広めるために」公職に就いたと説明している。
彼らがしようとしていることを総合すると、その目標はこういうことに
なる。失業者や弱者に対する社会的セーフティネットがなく、外交面で
は主に軍事力に頼り、学校では進化論を教える代わりに宗教の授業があ
り、選挙は形式的なものでしかないような国、そんな国にしようとして
いるということだ。
なぜブッシュ政権がこんなにもラディカルな政策を検証も強い反対もな
いまま実行に移せたか。キッシンジャーが言い当てている。
「既存の枠組みを破壊しようと目論む革命勢力の言動を額面通りに受け
入れることはほとんど不可能」と。来るべき危険に警鐘を鳴らす人物は
大げさとか考えすぎと批判されるのがおちだ。付け加えよう。キッシン
ジャーはこうも言っている。革命勢力の特徴は、「何物も彼らの不安を
取り除くことはできないと思っていることだ。完璧な安全、つまり敵を
制圧することだけが安全を保障すると考えられていることだ」と。

(嘘つき大統領のデタラメ経済:早川書房2004 年1月 発行)

ということで、なぜアメリカはこんな目に余るようなことをしているの
か?これを解くのに、ブッシュ政権は「革命勢力」と定義するポール・
クルーグマンにはドカンとやられる。これまで「革命勢力」と考えられ
ていたものを、そんなはずはないもの、対極にあるはずのものが乗っ取
ったからだ。なにもかもがこれまで通りにいかないのはそのせいだ。説
得力のある本である。
最後に、「本当にいいニュースというのは、アメリカのこのひどい時代
が終わることだろう」。CBS の番組「60ミニッツ」でアンディ・ルー
ニーが言った言葉だ。