明日30日からニューヨークで始まる共和党全国大会は、ブッシュ再選
チームにとって大事なイヴェントだ。党大会の警備という重い責任を担
うブルームバーグ市長(共和党)を含め、共和党関係者が最も懸念する
のは、国土安全保障省が発するテロ警告などではなく、「反ブッシュ」
というキーワードのようだ。
もっとも、共和党大会と同じ期間に近くで開催されるブルース・スプリ
ングスティーンが参加する「反ブッシュ」コンサートについてはすでに
共和党の上院議員候補マリリン・オグレディがスプリングスティーンを
攻撃するテレビ広告に投資しており、ブッシュ陣営には対策済みの脅威
ではある。
それよりもブッシュ陣営が警戒を強めるのが、会場周辺での反戦団体、
環境保護団体、中絶権利擁護団体などによる反戦デモ行進の勃発だ。
ニューヨーク市長率いる警備当局は先手を打ってセントラルパークでの
市民団体による反戦デモを禁止しているが、「合衆国憲法違反」と市長
を訴える市民に、共和党関係者は安心してはいられない。(共和党員と
その支持者にとって、市民団体による反戦活動は「テロリズム」と定義
されている)
映画「華氏911」で「鷹よ舞い上がれ」の自作の歌を披露した民主主義
との闘いを得意とするアシュクロフト長官は、共和党大会に押し寄せる
市民団体を阻止するため司法組織を総動員して効果的な「対テロ活動」
を開始することにしたらしい。
目下、FBI は反戦運動に参加した経験のあるアメリカ市民の自宅を片っ
端から訪ねては、共和党大会に向けて反対運動を行う予定があるかどう
か尋問して、活動を止めるよう、嫌がらせをしている。

▼FBI の個別訪問▼ニューヨークタイムズ紙16 August 2004

デンバーの反戦団体に所属する21歳のサラ・バードウェルは2週間前
に6人の捜査官の訪問を受けた。「デモに参加しないよう当局は私たち
を脅してるって感じた。"監視されてるんだぞ"って言いたいのよ」

司法省に率いられたこの異例ともいえる捜査活動では、インターネット
を通じて資金集めや参加者を募集している市民団体の情報なども、捜査
資料として当局に蓄積されているとのことだ。将来、問題を起こす(反
戦デモだが)可能性があるというだけで犯罪者扱いするのはまるでスピ
ルバーグの映画「マイノリティ・レポート」みたいじゃないかとの批判
もあるが、アシュクロフト司法長官が「テロ対策」のためと言い張れば
合衆国愛国法の下、国民に逃げ道はない。

強大な権力を託されたアシュクロフト長官は、政敵への攻撃方法でも違
った。米航空業界のテロ容疑者リスト、「搭乗拒否リスト」には議会で
のブッシュ批判の急先鋒として知られる民主党の重鎮、エドワード・ケ
ネディ上院議員の名も載っている。そのせいで、ケネディ議員は地元ボ
ストンからワシントンへ飛ぶたびに、「あなたには搭乗券をお売りでき
ません。理由は言えません」と空港職員に止められた。

もちろん、アシュクロフトに「民間航空機に乗るな」と言われても自家
用機に乗り替えるほどケネディ議員はバカではない。ケネディ議員は承
知している。ミズーリ州の上院議員選挙でアシュクロフトと議席を争っ
た民主党候補メル・カナハンは、投票日が間近に迫る2000年10月
16日、息子の操縦する小型飛行機に搭乗して選挙キャンペーンに向か
った。だが、カナハン親子を乗せたセスナ335モデルは、離陸直後に
操縦不能に陥り、墜落。カナハン親子と同乗者の3人が死亡した。

この選挙でアシュクロフトは死人にも勝てなかった。彼は2001年に
誕生したブッシュ政権によって拾われた、国民の人気が史上最低の長官
と言えなくもない。


8月5日、募る危機感に、いよいよアメリカロック界の大御所、ブルー
ス・スプリングスティーンがニューヨーク・タイムズ紙に寄稿して、ブ
ッシュ打倒!を宣言。11月の大統領選に向けて「反ブッシュ」キャン
ペーンのコンサートツアーを敢行すると明言した。
「私の人生の中で最も決定的な選挙。政府は米国の価値観からあまりに
かけ離れたところにある」

▼これを終わりまで見るには大博打すぎる▼
by ブルース・スプリングスティーン
英ガーディアン紙 06 August 2004

アーティストとミュージシャンは、国家の社会的、政治的活動において
特殊の位置を占める。ずっとボクは、アメリカ人とはどういうことかを
たっぷり、そして精一杯、考えようとしてきた。世界におけるボクらの
立場と特有なアイデンティティについて。そしてその立場がどんな一番
を伝えるものか。ボクはプライドを伝え、失敗を批判する歌を書こうと
してきた。

これらの問いは今回の選挙の核心だ。ボクたちは何者で、何のために公
然と戦うか、なぜ戦うのか。自分としてはこの25年間、常に党派心の
強い力関係から一歩退いたままでいた。代わりに、経済的公正さ、公民
権、人道に適った外交政策、自由、全市民にとってまずまずの生活とい
うひとくくりの考え方ではパルチザンだった。しかしながら、多くの者
にとり、今年の選挙を終わりまで見るには掛け金が高すぎる。

仕事を通して、ボクは常に厳しい問いかけをしようと努めてきた。世界
で最も豊かな国が一番立場の弱い市民への約束を守るのがとても困難で
あることを知るのはなぜか?人種のベールの先を見越すのがとても困難
であることを知るままでいるのはなぜか?困難な時代に、かわいいと思
っている存在を殺すことなしにどうやって身を処したらいいか?常に手
の届く距離にあると国民には思えるのに、約束の履行が絶えず手に届か
ないのはなぜなのか?

ジョン・ケリーとジョン・エドワードにすべての答えがあるとは思わな
い。まさにその問いに答えることと、正直な解決に向けて骨折って進む
ことに二人が心から関心があるとボクは考える。公正であること、好奇
心、率直、謙遜、全アメリカ市民への配慮、勇気、信頼というものを、
より重要なことに据える政府を、ボクらが必要としてるのを二人は理解
している。

人はこれらの価値について異なって考えたがるし、いろいろに生き延び
る。これを歌の中で歌おうとしてきた。でもボクには自分の考え方もあ
る。だからデイヴ・マシューズ・バンド、パール・ジャム、REM、ディ
キシー・チックス、ジュラシック5、ジェームズ・テイラー、ジャクソ
ン・ブラウンなど、20人以上が参加する10月の全米ツアーに参加す
るつもりだ(ツアーの収益金は、選挙運動を行う反共和党団体に寄付さ
れる)。ボクらは「Vote for Change」という新しいグループの管轄下
で演奏する。ボクらのゴールは政府の方向性を変えること、そして11
月に現政権を変えることだ。

多くの人がそう感じたように、ボクも911直後に国が結束するのを感
じた。こんなことは他に思い出せない。アフガニスタンに侵攻すると決
めたのをボクは支持し、事の重大さが国のリーダーたちに先への説得力
と謙遜と分別をもたらすだろうと期待した。代わりに、ボクらは不必要
なイラク戦争にむこうみずに突進して、いま正しくないことが示される
情況下で若い男女の命を捧げる。同時にアフタースクール・プログラム
のような便宜の予算をカットして圧迫する一方、政府の赤字記録を更新
している。企業のお偉方、裕福なギタープレイヤーなど1%の金持ちに
対する税の削減を承諾した。互いに便宜を図る社会を壊す恐れがある、
貧富の差がますます大きくなり、「分割できないひとつの国家」という
約束を口に出せなくさせる。

他人を尊重すること、ボクら自身の誠実さ、理念を信じるなど、人間の
価値の最良の部分をそのまま働かせることで、ボクらは正気づく。国家
として、個人として、ボクらの精神がどう示されるかだ。アメリカ政府
はアメリカの価値観から大きくそれすぎている。前進するときだ。記憶
の中に留める国が待っている。(New York Times)