■Wired誌の記事からハリウッドへ:アルゴの顛末■
19 October 2012

映画『アルゴ』は荒唐無稽な歴史事件に関する"実話"だ。1979
年に起きたイランのアメリカ大使館人質事件が解決をみない中で、
翌年、SF大作映画を撮影するためロケ地探しに行くカナダの撮影ク
ルーと偽って、CIAは大使館から逃れて身を潜める6人のアメリカ
人をテヘランから救出した。CIA職員ジャック・オドネルを演じた
ブライアン・クランストンが言うように、この救出劇は「もし脚本
家が書いたのなら、"おいおい、あっちへ行ってくれよ、そんなの誰
が信じる、真実味が必要だ"と言うほどに途方もない話だ。」

最初にハリウッドがアルゴの顛末を知ったのは、脚本ではなくUS版
「WIRED」誌に掲載されたジョシュア・ベアマンの記事だった。救
出劇で演じたカナダ政府の絶対不可欠な役割とやらのせいで「カナ
ダの不法行為」が1980年の事件の有名なパートだったが、CIA
の映画プロダクションの作り話を含む詳細が事件後18年経って当
時のクリントン大統領によって機密扱いを解かれた。事件から30
年、ハリウッドがアメリカの国家安全保障に手を貸す信じられない
話はハリウッド映画そのものだ。

事件のあらまし:
1979年11月4日、イラン革命の最中、ガン治療を名目に独裁
的な前イラン国王の入国(亡命)を認めたアメリカに激怒した抗議
者(イスラム法学校の学生)らがテヘランのアメリカ大使館に押し
寄せ、52人の大使館員を人質にとり、国王の身柄引き渡しを求め
て立てこもった。このとき、混乱に紛れて6人の大使館員が裏口か
らこっそり逃げ出したことにまだ誰も気づいていなかった。6人は
最終的にカナダ大使ケン・テイラーの公邸に身を潜めた(もし見つ
かれば公開処刑を免れない)。

大使館から脱出した者がいると知らされたアメリカ政府は、すぐに
彼らの国外救出作戦を検討し始める。イラン政府によって国内すべ
ての英語学校が閉鎖されたため、英語教師だとは言えない。季節が
冬で農作物の調査をする農業専門家とも言えない。そんな中、CIA
の人質奪還のエキスパート、トニー・メンデスは、6人にSF映画の
ロケハンに来たハリウッドの撮影スタッフのフリをさせる作戦を思
いつく。

メンデスはハリウッドに飛び、「猿の惑星」で有名な特殊メイク界
の第一人者、ジョン・チェンバースの力を借りてニセ映画をでっち
上げる。また真実味をもたせるため、脚本の権利を取得し、スタジ
オシックスなるニセ製作会社を設立。ヴァラエティ誌に広告を掲載
し製作発表パーティを開催してニセ映画「アルゴ」を世界中に宣伝
した。さらにSF大作映画の撮影に説得力を加えるため、キャプテン
アメリカやハルクの生みの親であるジャック・カービーによる絵コ
ンテまで用意した。

ベン・アフレック:「映画はドキュメンタリーではない。ドラマだ。
でも映画で描かれる物語とそのエッセンスは実話から成り立ってい
る。大使館が占拠される中、6人のアメリカ人が逃れてカナダ人の家
にたどり着く。カナダ人らはジョン・チェンバースとトニー・メン
デスがニセ映画製作の救出作戦をでっち上げるまで彼らをかくまっ
た。」

CIAはモントリオールの新聞『ラ・プレス(La Presse)』の記者ジ
ャン・ペルティエがこの作り話について何か情報を握っていること
は知っていたが、彼が紳士協定を守り、できるだけ長く情報を伏せ
ておくことに期待するしかなかった。彼は結局一カ月情報を伏せて
おき、テヘランにあるカナダ大使館が閉鎖され、アメリカ人らが無
事脱出したことを確認すると、直ちに記事を公表した。

記事の掲載で事の顛末はたちまち広まり、カナダ政府への感謝の念
は空前の高まりを見せた。アフレック版『アルゴ』のエンディング
には次のようなあとがきがある。「CIAの関与は6人をテヘランか
ら救出しようとするカナダ大使館の努力を補うものだった。この話
は今日まで政府間の国際協力の不朽のモデルのままである。」

「最終的にこの話は現実そのものだと言える程度まで自信がある」
とアフレックは言う。

ジョン・チェンバースとトニー・メンデスは実在の人物だ。ブライ
アン・クランストンが演じたジャック・オドネルは、何人かのCIA
職員を組み合わせた人物で、アラン・アーキンが演じたレスター・
シーゲルも同じく、おおげさにパロディ化されたハリウッドの所産
である。

しかしながら、イランの歴史はアフレックによって、より一層真剣
かつ重大に取り扱われる。脚本を変更し、中東の政治情勢について
導入部を付け加えた。イギリスとアメリカの政府が、民主的だが左
派であるモハンマド・モサッデク首相を崩壊させて親欧米のモハン
マド・レザー・パーレビー国王(シャー)による独裁政権に置き換
えたことを説明する。国王の独裁の恐怖は1979年のイラン革命
で終わる、イランはすぐにイスラム教の国となった。

(1953年、アメリカ政府とイギリス政府が画策したCIAによる
皇帝派クーデターによってモサッデグなど国民戦線のメンバーは逮
捕され、モサッデグは失脚する。彼は3年間の投獄を経て自宅軟禁
となるが軟禁中に死去。石油の国有化を主張したモハンマド・モサ
ッデグ首相失脚後、イランはアメリカの干渉を受け、脱イスラムを
図り、急速な欧米化をたどっていく。パーレビー国王はアメリカの
傀儡となり、自分の意に沿わない者は粛清した。)

ベン・アフレックはドラマティックな効果をあげるために話を変え
ることで手の内を見せた。それにはラストの安っぽい追跡シーンも
含まれる。映画クルーに扮した6人が滑走路を進む機内の窓から外
を見るシーンで、アメリカ人が搭乗していることに気づき、武装し
た兵士を満載する2台のクルマが離陸する彼らを追いかけてペルシ
ャ語で叫んでいる。こんなことは実際にはなかったし、率直に言っ
て失策に感じる。

実際の空港からの脱出は非常にスムーズだった。映画の公開に合わ
せて出版されたトニー・メンデスの脱出に関する本(こちらも「ア
ルゴ」という)が、緊張はまったく内面のことだったのを明らかに
する。「実際にあったことじゃない、最後のクルマからの逃避は内
面の恐怖を表す、まったく内部的なものの具現化だ」とアフレック
は主張する。「語り手としてぼくが犯した罪の大半は省略したこと
によるものだ。」

ニセのカナダのパスポートに糊付けされた、日付が間違ったビザの
ように、映画には省略されていることがある。映画クルーの装備が
軽すぎて映画クルーについて本物の知識がある者には説得力がなか
った、正体を隠す外交官に精通したメンデスの気持ちに幾らか重荷
を負わせた。

もちろん、ドラマだというのでこれは正当化される。アフレックは
かなりの監督で、時代と空気の再現の仕方ではすばらしい分別の持
ち主だ。「ぼくは常に70年代の映画にとても興味がある。これは
70年代の映画を使ういい口実だった。『大統領の陰謀』だったり、
『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』を含めジョン・カサヴェテ
ス映画を、ぼくは意識的にまねた」とアフレックは説明する。

何より難しかったのがイランの映像を手に入れることだった。アフ
レックは知り合いのイランの映画製作者に、彼のために建物や景色
などありふれた場面を撮ってみてくれと頼んだが、あいにく「あの
人たちはおびえるあまり撮ることができなかった。またそれは実に
まったく悲しむべきだ。」代わりに、その大半は1979年の革命
に引き続いてイランを逃れた人々で、実のところロサンゼルスには
莫大な数のペルシャ人住民がいるとアフレックが言う、ロス市内や
その周辺でほとんどの撮影は行われた。セットのイラン人の存在は
「まったくありがたいもの」と彼は言う、なにしろ彼はみずからそ
の国を体験するためにイランに近づくことができなかったのである。

こうした本当らしさが『アルゴ』をこれほど説得力のある緊迫した
映画にしている。その時代考証はすばらしく、実話に基づくことが
まさにそれに勢いをつける。ほとんど空想のような話の完成度の高
いうまい改作された話ではあったが、多少の気ままは仕方がない。
ある意味では『アポロ13』や『ミュンヘン』に属するスリラーだ。

確かに妥協はある。実際の事件をドラマ化するということになると、
特にこんな長いこと機密扱いされたCIAの作戦が絡む事件である、
『アルゴ』が互いに譲り合わねばならないのは不思議ではない。
それでも、当然アカデミー賞のうわさになり出すことに関係させた
俳優のすばらしい演技でいっぱいの映画は、印象的な方向性を示す
ベン・アフレックの功績だ。そしてそのすべては、さえない『スタ
ーウォーズ』のパクリ映画で始まった。

http://wired.jp/2013/03/04/making-of-argo/

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■ アカデミー賞は歴史に関する誤りを正し、また新たな誤りを作り
出す■ by ロバート・アンダーソン

ハリウッドの支配層の一員(「ブラックホーク・ダウン」のため最
も顕著なのがジェリー・ブラッカイマー)が9.11後に対テロ戦
争を進めることでペンタゴン(国防省)と組んだとき、黒い影がハ
リウッドの輝かしい光明を鈍らせた。通常、歴史の振り子が戻るの
におよそ10年かかる、そのためアカデミー作品賞に『アルゴ』が
選ばれたのはハリウッドの暗い10年への光芒の閃きに思えた。

ジョージ・クルーニーを含む共同プロデューサーに賛成して監督ベ
ン・アフレックは、近ごろ何がハリウッドを支配しているかで人間
主義者の拒絶として立ち向かう一種独特の映画によってアカデミー
賞を受けとった。『アルゴ』は言葉に表した歴史の人物描写を用い
て中東におけるアメリカの汚名の瞬間を認めた。『アルゴ』のよう
にオープンにする映画はどれほどあるのか?アメリカが巧みに計画
し誘導した1953年のイランのクーデターはイラン国王の支配に
取りかかり、最終的にアメリカ人の人質が生じることになる抑圧と
暴力と大混乱の渦中にこの国を置いた。

こういう情況下に基づかせる『アルゴ』は、死んで当然と紋切り型
の敵の大量殺人を命じる戦闘ヘリ"ブラックホーク"や9.11後の
部隊でスクリーンを埋め尽くす任務に代わり、空想的なSF映画のフ
ァンタジーによる衝き動かされる非暴力の救出作戦の顛末を語る。
現実に起こった1980年のCIAの意向を受けたアメリカ人のテヘ
ラン脱出に基づいているとは言っても、多数が『アルゴ』の作り話
を暴露する。厄介ごとのほとんどは実際にカナダ人によって起こさ
れた、それに加えてイランでの現実のアメリカ合衆国の歴史は隠れ
たままである。NBCのブライアン・ウィリアムズ(21 Feb 2013)
は、最後の逃げ切るシーンでのサスペンスに満ちた脚色された空港
の追跡を理由に現実のこととする映画の主張に異議を唱えた。サロ
ンのAndrew O'Hehirは、映画を「プロパガンダ寓話」と説明した
が、アカデミーが『アルゴ』を選び、『ゼロダークサーティ』をほ
とんど無視したとき、私は元気づいた。

『ゼロダークサーティ』はダメをもらって主要な賞をひとつも受け
なかった(スカイフォールと同点でベストサウンド編集賞を共有す
る)。少なくともオスカーの夜の間、グローバルな聴衆は、監督キ
ャスリン・ビグローと作家マーク・ボールにとって説明することや
さらに重要な正当化することが非常に難しいことがわかっている一
連の拷問の画面を見るのを免れた。どちらも脚色された歴史的スパ
イスリラーとはいえ、ビンラディンにつながる道として拷問を認め
る主役と"強化された尋問テクニック"への傾注の長さとなまなまし
さがありながら、『ゼロダークサーティ』のトーンと感性は『アル
ゴ』のそれとそれほど違いを出せなかった。

『ゼロダークサーティ』の最初のコマがストーリーは"実際の出来事
に基づく"と公言する、そして映画の販促の初期のヨイショは、ビグ
ロー監督の記者流の背景や、オサマ・ビンラディンの追跡と暗殺の
リアリズムに徹したプロセスを映画であばく彼女のあっぱれな能力
を大げさに宣伝した。

だが、映画の最も目ぼしい特質は拷問のテーマのあちこちに誘発さ
れる物議と暴行であることが判明する。映画製作者にとって悲しい
ことに、これらはアカデミー賞の判定基準ではない。拷問は"起訴で
きる情報"になったとの映画のコメントの言明の正確さでは、ほとん
どすぐに不可の旗が上がった。映画製作者はその時、逆コースを押
しつけられ、ついに映画は作り事だったと言明する。映画は拷問を
ビンラディンの死に結びつける出来事の順序付けではなく、現実の
対テロ戦争のより大きな真相の生々しい経験談だった。

『ゼロダークサーティ』は大衆文化のエンターテイメントとして9.
11後の拷問のエスカレートに注意を傾ける、だが国家安全保障に
とって必然だと常時描写した。

現在、映画はフィクション表現であると認められたことから、強化
された尋問テクニックに人を動かさずにはおかない正当化が1つも
なくなったとき、ハリウッドと映画ファンは全くのエンターテイン
メントとしてあんな恐ろしい残忍性を受け入れなければならないと
いう気まずい立場に置き去りにされた。

『ゼロダークサーティ』の製作者らは、アメリカ合衆国の歴史にお
いてこのような荒っぽい途方もない瞬間に尾ひれをつけることで、
仰天させるような判断力の欠如を示した。オンラインと成熟したメ
ディアのどちらでも、粉々にくだけた真実を求める一軍があらゆる
細部の端から端までをつつくだろうことは必ずや予言できた。

ビンラディンを捕まえる話で映画の拷問容認はハリウッドの多くが
いかにひどく、いかに無批判に、対テロ戦争の駆け引きを受け入れ
てエンターテインメントとしてそれらを促進したかを示す。私たち
が唯一期待できるのはペンタゴンの承認印を押されたエンターテイ
ンメントが今後はアメリカのメディア文化の中で目立たなくなるか
もしれないということだ。そしてアカデミー賞はその点で役割を演
じることになる。

そうであるなら、ハリウッドはイランの本当のところを暴露するこ
とで役に立つ必要がある。

△ フォーダム大学のコミュニケーションとメディア学科の教授、ロ
ビン・アンデルセンは、FAIRの取締役会メンバーである。

http://fair.org/blog/2013/02/26/oscar-rights-some-historical-wrongs-creates-some-new-ones/

 


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