◇バレット・ブラウンの奇妙な事件 ネーション紙 18 June 2013
by ピーター・ラドロー

NSAスパイプログラムによる不法行為の中、ジャーナリストのバレ
ット・ブラウンの投獄は、より深刻で非常に厄介な問題を示す。

hacktivist(政治的ハッカー)集団、アノニマスが彼の注意を惹いた
2010年初頭、ジャーナリストで皮肉屋のバレット・ブラウンは、
政治のお偉方について本を書いていた。彼はまもなくアノニマスの
活動とその可能性について書き始めた。2月10日に発表されるオ
ーストラリアのハッカー集団の反検閲作戦を擁護する文書の中で、
ブラウンは、「この現象は数十年に生じた特に重要で過小評価され
る社会的新事実の結果だと私はいま確信しているし、また問題の新
事実は、きっと国民国家の制度をおびやかし、おそらくはいつか、
それを人間の組織化という世界で最も重要かつ今日的なメソッドと
置き換えるものと確信する」と断言した。

この時までに、ブラウンはすでに彼の世代のハンター・S・トンプ
ソンになるとファンから注視される。実際のところ、彼はハンター・
S・トンプソンのようではなく、アンブローズ・ピアスかドロシー・
パーカーと同じタイプの頭の切れる不遜なジャーナリスト、皮肉屋
の先祖返りだった。2007年の共著"Flock of Dodos:Behind
Modern Creationism,Intelligent Design and the Easter Bunny(時
代遅れの群れ:モダン創造論の影に隠れる情報デザインとイースタ
ーバニー)"で、彼の辛らつな言葉を披露。そこで彼は、「これは洗
練された本ではない。礼儀正しさは、常によかれと思って意図され
たどんな譲歩にもつけこもうとする不正直ものに浪費される」と断
言した。

しかし、ブラウンの辛辣な舌鋒は、結局、彼をトラブルに陥れるこ
とになる些細なことへの愛(オーガナイズする能力や些細なことを
説明する能力)ほど手に余るものではなかった。アノニマスの本の
ほうを選んで、お偉方についての本を放棄する彼は、結局、ハッカ
ーやリークの領域を掘り下げることが、残りの人生を刑務所で送る
見通しに向き合うことにつながるのを見分けられなかった。グレ
ン・グリンウォルドやバートン・ゲルマンによって公表される政府
と企業のスパイ行為に関する爆弾すっぱ抜きに照らして、ブラウン
の事件は、リークを報じる記者が直面するかなりのリスクを思い出
させるのに、妥当で過小評価された事例となる。

アラブの春の間のアノニマスの活動の背景や、民間情報会社
HBGaryのCEOアーロン・バーに抵抗してアノニマスへの擁護を書
いたあと、翌2011年2月、ブラウンは政治的ハッカー集団の指
導者の地位と自分を同一視していると主張した(実際には数人のメ
ンバーのスクリーンネームを受け取るだけだった)。アーロン・バ
ーの自慢話は、Internet Feds(すぐに"LulzSec"という名に変更)と
名乗る関連グループによってHBGaryへの情け容赦のないハックを
誘発した。コルベールリポートの注目を惹きつけるほど十分派手な
ハックは、HGGaryに属するサーバーやウェブサイトの価値を損ね
て破壊した。7万相当のメールがダウンロードされてオンラインで
公開された。名誉毀損に対する最後の侮辱としてアーロン・バーの
iPadのコンテンツまでがわずかながら消去された。

HBGaryハックは、会社を辱めようとしてもくろまれたのかもしれ
ないが、ついでに、ブラウンのラップトップに情報の宝庫を届ける
付帯的効果をもたらした。最初に彼が発見したのは、両方を陰険な
手段で傷つけることでグレン・グリンウォルドのウィキリークス擁
護の効力を無効にする計画だった(「グレンのような記者の支援が
なければウィキリークスは終わる」とある)。組織内の争いを悪用
して外面的な競走を作り上げる"(意図的に流す)ニセ情報"という
計画、「ウソの文書の提示からエラーを誘い出す計画の他に、敵対
する組織をサボタージュするかまたは評判を悪くするアクションの
方々にメッセージを作成する。」

別の計画は、社会的組織や権利擁護団体を標的にした。グリンウォ
ルドとウィキリークスを標的にする計画とは別に、HBGaryはアメ
リカの空軍のための"人物管理"システムを開発する案を提出した共
同事業体の一部だった。それは、ソーシャルメディア空間でコメン
トするためにひとりのユーザーに複数のオンラインIDのコントロー
ルを許す、かくして、特定の政策への草の根の見かけの支持または
反対を提供できることになる。

HBGaryハックからのデータ(メモリ)ダンプは誰もひとりでは分
類できないほど莫大だった。そこでブラウンは成果をクラウドソー
スにすることにした。彼はProjectPMというwikiページを作成する
と、仲間に加わるように他の調査報道ジャーナリストを招待した。
ブラウンの指揮の下、その先がけて事を行う才能は、アメリカ合衆
国政府や企業やロビイストと、民間の影の軍隊や情報セキュリティ
コンサルタントとの間のウェブのつながりをゆっくりと解き始めた。

つながりのひとつはバンクオブアメリカと商工会議所だった。ウィ
キリークスはバンクオブアメリカに属する文書の大容量のキャッシ
ュを保有していると主張していた。これを心配してバンクオブアメ
リカは司法省に近づいた。司法省はこれを法律とロビー活動の会社
Hunton and Williamsに指示する、この会社は数ある企業のなかで
もとりわけ Wells FargoやGeneral Dynamicsの法律業務を行い、
またKoch Industries, Americans for Affordable Climate Policy、
Gas Processors Association、Entergyのロビー活動を行った。一緒
に働く人物としてあからさまにリチャード・ワイアットをほのめか
して、司法省はバンクオブアメリカがHunton and Williamsを雇う
ように忠告した。誰もが知ってるとおり、ワイアットは商工会議所
のイエスメンに対する訴訟で首席弁護士だった。

2010年11月、ブラウンによると、Hunton and Williamsは、
情報やテクノロジー開発やセキュリティの民間数社の請負業者をと
りまとめて、ギリシャ語で"神の法"を意味するthemisから"チームテ
ミス(Team Themis)"のための"エンドゲームシステムズ"という不
吉な名の非公開会社を作る。ウソの文書を作るといった戦略を使っ
た"商工会議所ウオッチ"のように、主な目的は商工会議所に向かう
批判の信用を傷つけることだった。加えて、"商工会議所ウォッチ"
に潜入する"ニセのインサイダー"を作ることを提案した。しかも、
"第二の人物の正当性を確認する間に第一の人物の信用を落とす顔
として使う、二人のニセのインサイダーを作ろうとした"。同じよう
なニセ情報キャンペーンが、ウィキリークスとグレン・グリンウォ
ルドに対して計画されていたのをリークされたメールが示した。

これらが合法性の疑わしい行為だったのはブラウンには明白だった、
だがそれを超えて政府の請負業者らは司法省の見かけの承認でアメ
リカ人の言論の自由を徐々に蝕もうとしていた。そのかいもなく、
この取り決めに民主党下院議員のグループが調査を求めた。

2011年6月までに策略はさらにぶ厚くなっていた。FBIは、
LulzSecのリーダー、Hector Xavier Monsegur(通称サブ)を押さ
えた。2011年6月7日、FBIは彼を逮捕し(法廷文書によると)
翌日、彼を情報提供者にした。逮捕のわずか3日前、サブはAntiSec
という新グループを作る中心にいた。新グループはアノニマスとし
てのメンバーはもちろん、彼の元のグループLulzSecのメンバーから
なる。12月初め、AntiSecは、ストラットフォー・グローバル・イ
ンテリジェンスという名の民間警備会社のウェブサイトに不正アク
セスした。クリスマスイブにグループは500万件相当の社内メー
ルの宝庫を公開した。AntiSecのメンバーでシカゴの活動家、ジェレ
ミー・ハモンドがこの攻撃で有罪を認めており、現在、10年の投
獄に直面している。(ハモンドの事件に関する記事はすでに配信済
み)

ストラットフォー・リークのコンテンツは、HBGaryハックよりい
っそうとんでもない内容だった。それには捕虜引き渡しや暗殺の機
会の議論が含まれていた。例えば、あるヴォデオでは、ストラット
フォーの情報副社長フレッド・バートンが、末期疾患による特別配
慮を根拠に刑務所から釈放されたロッカビー爆破犯アブデルバセッ
ト・アルメグラヒを引き渡すにあたり、リビアの混乱につけこむべ
きだと提案した。「当人だけのケース」とバートンは言っている。
そのような手は、ほぼ確実に違法だろうと誰かがメールで指摘した
とき、「この男はすでに裁判にかけられ有罪判決を受け…刑に服し
た」、これはより効率的な解決策のための議論にすぎない、「ただ
彼をひどい苦しみでbugzap(害虫駆除)するための別の理由」とも
う一人のストラットフォー社員が返答した。

(ネーション紙のブラックウォーターに関するジェレミー・スケイ
ヒルの記事について、ストラットフォーの社員らも強い関心を持つ
らしく、関心の原則がブラックウォーターが匹敵する情報作戦を始
動していたかどうかの問題にあったのを示唆するコメントを付けて
記事全体をコピーして流す。メールはまた「スケイヒルのポジショ
ン(または彼の仕事の結果)が好きでも嫌いでも、彼はブラックウ
ォーターあばきですばらしい仕事をした」とスケイヒルに対する
渋々ながらの尊敬を示してもいた。)

ストラットフォー・リークのコンテンツが利用できるようになった
とき、ブラウンはそれをProjectPMに置くことにした。ストラット
フォーの堆積物へのリンクがアノニマスのチャットチャンネルに出
現するとブラウンはそれをコピーしてProjectPMのプライベートチ
ャットチャンネルに貼り付け、堆積物に編集者の注意を向けさせた。

ブラウンは、名ばかりでいることに特に関心を持つらしい情報セキ
ュリティ会社"エンドゲームシステムズ"を調べ出した。リークされ
たメールのひとつには「記者会見で決して私たちの名前を見たくな
いと、どうかHBGaryに知らせてください」と書いてある。年会費
250万ドルで利用できる製品のひとつは、ソフト会社に知らせず
に世界中のコンピュータシステムのセキュリティ脆弱性"zero-day
exploits"へのアクセスを顧客に与える。ビジネスウィークが
2011年にエンドゲーム社について記事を発表し、「エンドゲー
ムの幹部らは空港、国会議事堂、企業のオフィスの地図を持ち出す、
そうして幹部らはコンピュータを動かすソフトウェアが何かを含め、
施設内で処理するコンピュータのリストを作って、その特定のシス
テムに対して引き起こせる攻撃メニューを作る」と報じる。これが
ブラウンに、エンドゲームが外国の関係者にこれらの偉業を売って
いたかどうか、またアメリカ合衆国のコンピュータシステムに対し
て使われたかどうかの問題を提起した。その後まもなくして、彼は
叩きのめされる。

FBIはブラウンのラップトップに対して逮捕状を入手すると、
HBGary、エンドゲームシステムズ、アノニマス関連の情報、そし
て最も不気味に"メール、メールの連絡先、チャット、インスタント
メッセージのログ、写真、記者からの通信文"と、なんでも押収する
権限を獲得する。言い換えれば、FBIは彼の情報源を必要とした。

FBIがブラウンに令状を執行しに行ったとき、彼は母親の家にいた。
捜査官らは母親の家を捜索する令状を持って戻ると、彼のラップト
ップを回収した。ブラウンへの圧力を強めるために、FBIは息子のコ
ンピュータの隠蔽という司法妨害で母親の起訴を開始した。
(2013年3月22日、捜査令状執行妨害の訴因で罪を認めた母
親のKaren McCutchinは刑事告発に直面する。彼女は12カ月の投
獄の現実を認識する。息子のラップトップが家にあったことを母親
は知らなかったとブラウンは主張する。)

本人の認めるところにより、このFBIの母親への標的がブラウンをプ
ッツンさせた。2012年9月、彼は支離滅裂なヴィデオを
YouTubeにアップロードした。そこで彼はヘロイン中毒の治療をし
てきて薬剤Suboxoneを飲んでいたが薬を飲むのをやめて今は投与
中止状態だと説明した。母親をしつこく悩ませて嫌がらせをしてい
るとFBI捜査官を名指しでおどした。そして、こう警告する。

「なにが合法か、わかっているし、ボクが何をされているかわかっ
ている…それで、もしボクに対してされたのが合法なら、FBI捜査官
ロバート・スミスに対してされたのは合法ということになる、彼は
犯罪者だ。」

「それがFBI特別捜査官ロバート・スミスの人生が終わった理由だ。
そして彼の人生は終わったとボクが言うとき、彼を殺すと言ってい
るのではない、彼の人生をめちゃめちゃにして、彼のクソガキども
をのぞき込んで調べてやろうというのさ… どう思う、ガキどもは
アップルかな?」

メディアの語り部分はすぐに脱線した。もはや、これは隠したがる
諜・軍産複合体についての記事ではない、今は、FBI捜査官とその子
どもたち(おとな)をおどす頭のいかれたドラッグ中毒のけちな中
傷だった。実際の捜査官に対する死のおどしは、常に数年の投獄に
よって罰すべきとなる。だが、ブラウンのふるまいは、FBIが彼を一
生刑務所にぶち込むのに幾つか他の口実を宣伝するのをずっと容易
にさせた。

ストラットフォーのデータには暗号化されてないクレジットカード
番号と検証コードが含まれた。これに基づいて、ProjectPMの編集
ボードとそのリンクを共有しているのを理由に、司法省はブラウン
をクレジットカード詐欺で告発した。すなわち、司法義務の妨害行
為(最初の令状が出た母親の家でのこと)と、FBI捜査官に対するお
どしに起因する告発に加えて、盗まれた認証の顔、アクセスデバイ
ス詐欺、加重ID窃盗でのトラフィックで、FBIは彼を告発した。合
計して、仮に連続して服役するとなると、ブラウンは連邦刑務所に
105年という一世紀の刑期になりそうだ。彼は保釈を拒否された。

現時点でストラットフォー・ハックを行った人物に幾つか前科があ
って最高10年の刑に向き合っていることを考慮すると、避けられ
ない結論は、問題はハッキング行為そのものではなくてブラウンの
ジャーナリズム(端的な事実の記述)だということになる。ガーデ
ィアン紙にグレン・グリンウォルドが書いたように、「彼がいま直
面するけしからぬほど度を超えた犯罪訴追手続き(起訴)が、ジャ
ーナリズムや彼が関係する直接行動と無関係だと結論するのは、事
実上不可能である。」

現在、ブラウンは刑務所に入っており、作業がやむなくゆっくり停
止しているとしても、ProjectPMは司法省による強まる監視下にあ
る。3月、司法省は、ProjectPMのウェブサイトにある全記録を証
拠として法廷に提出する召喚状をドメイン・ホスティングサービス
CloudFlareに送達した。そしてブラウンやその他がそこを通じて犯
罪運営オンラインの遂行に従事、助長または促進する、"フォーラム
(活動の場)"と説明して、とりわけProjectPMにアクセスし、貢献
したすべての人のIPアドレスを求めた。「他にこの事実を調べるや
つは、だれもが命がけでそれをやれ」とのメッセージは明白だった。

現在、一部のジャーナリストは、ストラットフォーのファイルに近
づくことを明らかに怖れている。このより広い部分の含みが、ブラ
ウンの範囲を超える。ある人たちは、私たちが眺めているのはアウ
トソーシングされる監視状態、Cointelpro 2.0と思うかもしれない、
だが、それどころかさらに悪い。アメリカ司法省が、彼らの行動の
正当性には少しも意味のない、企業の入札者に代わってHBGarysや
ストラットフォーと一緒に仕事する単にもうひとつの警備請負業者
になっていると考えるほか仕方がない。彼らは企業や民間の警備請
負業者を守るために働いており、一般市民やその権利擁護団体に対
するニセ情報キャンペーンに従事するライセンスを彼らに与えてい
る。FBIの上級サイバーセキュリティ顧問が最近、Hunton and
Williamsに移動したとのほんの事実は、この関係がどんなに近親相
姦になっているかをまさしく示している。司法省は同時にまた、こ
の非道な関係になんとか光をあてようとしているバレット・ブラウ
ンのような市民の権利をその力を用いて力づくで踏みつぶしている。
システムを疑ったり調査する人たちを無効にするために、法律は再
解釈されるか拡大解釈される、さもなければ、けっさくな状態で悪
用される。

NSAのスパイプログラムの暴露によってメディアや世界の多くは、
当然のことながら憤慨させられてきているが、バレット・ブラウン
の仕事ぶりはもっと深刻な問題の証拠となるものを指摘している。
それは、幾つかの法律をなんとかいじること、または数人の検事を
排除することで、片づけられる類の問題ではない。問題は、ずさん
な法律でも不正な検察官でもない。バレット・ブラウンの事件が明
らかにしているのは、私たちがまるっきり異なる問題に直面するこ
とだ。それは全体にわたって浸透する組織の問題。法の支配の失敗
である。

http://www.thenation.com/article/174851/strange-case-barrett-brown#axzz2Wo0AybAD

アノニマスのアジテータ、バレット・ブラウンに連邦政府がさら
なる告発を追加
 Wired 2013年1月24日

テキサス州政府が、自称「アノニマス」のスポークスマン、バレッ
ト・ブラウンに対して証拠隠滅の罪状も新たに加えた。ブラウンは
去年9月にFBIに個人情報の不正公開などの容疑で逮捕され、この時
の模様がオンラインで中継された。罪状の刑のすべてを足し合わせ
ると100年以上になる。

 


♯お知らせ♯

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*見つけた 犬としあわせ* こちらもごひいきに。

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