◇17歳の黒人男子、トレイヴォン・マーティン射殺事件

2012年2月26日、フロリダ州サンフォードの白人地区で「銃
声が聞こえた」と911通報あり。警察がかけつけた時には丸腰の
トレイヴォン・マーティン(17歳の高校生)が胸に1発食らって、
雨の芝生にうつぶせになって死んでいた。

犯人は近所に住むジョージ・ジンマーマン(28歳、父は白人、母
はペルー系ヒスパニック)。警官にあこがれ、半年前から銃を携帯
して、進んで近所を見回る自警団のひとりだった。

警察はろくに調べもせずに加害者の供述通りに正当防衛を認めて、
その夜のうちに釈放。遺体は身元不明のまま仮名で3日間、署内に保
管された。警察は、殺される直前までガールフレンドと話していた
トレイヴォンの携帯履歴を確認することもなく、被害者のドラッグ
検査はしても、加害者のドラッグ検査はしなかった。現場保存もせ
ず、証拠品の押収もなし。

トレイヴォンは、たまたまその週はそこに住む父親と婚約者の家に
滞在し、ノドが乾いたのでセブンイレブンでSkittles(キャンディ)
とアリゾナティー缶を買って帰る途中だった。彼はフーディ(フー
ド付きパーカー)を着て、携帯とキャンディとアイスティー缶だけ
持って歩いていた。ちょうど自転車で近所を見回っていたジンマー
マンがトレイヴォンを見つけて、怪しいとにらんで尾行した。後に、
トレイヴォンの携帯の記録から、「さっきから誰かにつけられてる」
とガールフレンドに伝えていることや、心配した彼女の「走って」
という声に「早歩きしていく」と返事していたことなどがわかる。

3月10日、トレイヴォンの家族らが「殺人を犯しながら取り調べ
もなく自由の身のままというのは納得いかない」とサンフォード警
察署に犯人逮捕を要求。二日後、ビル・リー・サンフォード警察署
長は記者会見を開いてジンマーマンに犯罪歴があるのを知らなかっ
たと述べた。
(2005年、ジンマーマンは友人を逮捕しにきた警官をなぐって
逮捕されている。また元フィアンセに対する家庭内暴力も発覚。)

3月19日、FBI、司法省が捜査に乗り出す。黒人市民団体や公民権
グループが、風貌だけで人間を判断する人種差別に起因するヘイト
クライム(人種憎悪犯罪)だとして、全米各地で抗議運動を展開。
3月下旬になってやっと新聞やTVが大々的な報道を始めて事件が
全米規模で大きなニュースになる。

事件当夜、ジンマーマンは911の指示を無視して尾行を続けた。
黒人少年を尾行しながら彼は911のオペレータとこのようなやり
とりをしていた。
ジンマーマン:この男、怪しげ。ドラッグかなんかやってる。
ジンマーマン:このアースホール、毎度うまいことやりやがって。
911通報窓口:つけてるんですか?
ジンマーマン:ああ
911通報窓口:その必要はありません。

尾行さえなければ、この夜、トレイヴォンが死ぬことはなかったに
違いない。

現場すぐの前の家にいたMary Cutcherとルームメイトの女性は、
「泣いて助けを求める少年の叫び声がした。すると銃声がして、叫
び声が止まった。あれは正当防衛ではないと思う」とジンマーマン
の供述と食い違う証言をしている。
(ジンマーマンは「叫んだのは自分」だと供述していた。)

その女性は、警察が当夜調書をとった目撃者6人のうちのひとりだ
が、「容疑者供述を裏付ける証言などしていない。訂正してもらお
うと思って何度も連絡したが、警察からは一度も返事がこなかった」
と言い、「正当防衛なら、なぜジンマーマンが銃をもって片ひざを
つき、マーティンの背中に馬乗りになっていたの?」かと、CNNの
アンダーソン・クーパーに話している。

3月23日、オバマ大統領が、黒人少年射殺事件について、「もし
私に息子がいたなら、トレイヴォンに似ていただろう」と彼の思い
を述べた。

結局、ジンマーマンは第二級殺人もしくは傷害致死で起訴となるも、
フロリダ州の「正当防衛法(Stand-your-ground law)」を根拠に、
フロリダ陪審員は7月13日夜、ジンマーマンを無罪とした。

無罪判決が出た翌日14日、カナダのケベックシティで行われた音
楽フェスティバルに出演したスティーヴィー・ワンダーは、「本日、
正当防衛法が撤廃されるまで私はフロリダ州でパフォーマンスをし
ないと決めた」と宣言した。
(http://www.musicheaps.com/article/bmr/18879/)

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トレイヴォン事件から見えてくるアメリカの実態

事件は、人種や貧富の差からくる「棲み分け」というアメリカ社会
を象徴する「ゲーテッド・コミュニティ」内で起きた。事件の背景
には、これが蔓延する社会現象があるとの指摘がある。

問題の多い「Stand Your Ground」法は、合衆国憲法修正第2条で
保障された「武器を所有し、携帯する権利」を文字通り履行するこ
とを主張するアメリカ最大・最強の圧力団体NRA(全米ライフル
協会)が積極的に推進し、2005年、まず最初にフロリダ州で制
定され、現在では全米50州の約半分の州でほぼ同様の法律が施行
されている。

ジェシー・ジャクソン師が法の改正を訴えるフロリダの「Stand
Your Ground」法とはどういう法律か。これに最初に署名したフロ
リダ州知事は、ブッシュ元大統領の弟、ジェブ・ブッシュだったこ
とを補足しておく。

「Stand Your Ground」法とは、黒人や褐色人種には不利となり、
白人には有利となる、過剰防衛とも取れる特殊な法令だ。

アメリカには正当防衛を構成する要素に「キャッスル・ドクトリン」
という考え方があり、自分の家を「城」とみなし、「その領域内に
入った者は撃たれても仕方がない」となる。そして死に至るような
武力行使を正当化する。「Stand Your Ground(あんたの土地、建
物の周囲、拠点に踏みとどまって立ち向かえ)」法は、正当防衛の
範囲を自分の「城」から自分の「縄張り」に拡大したものといえる。
また、これまでの法律には「回避義務」というのがあって、「逃げ
られる場合は逃げろ、逃げられるのにそこに踏みとどまって銃で立
ち向かうのは過剰防衛」となった。ところが、この「Stand Your
Ground」法によってこの回避義務がなくなり、逃げずに相手を撃っ
てもよくなった。

ロサンゼルスタイムズ紙によると、「銃による暴力を阻止するフロ
リダ州連合組織」の調べでは、この法律が施行されて以来、目撃者
がいないこの種の殺人事件が州内で少なくとも18件あるが、その
いずれもが同法に基づき加害者は犯罪に問われず放免になっている。
また州政府の公式記録では、加害者が一般人で正当防衛と判断され
た殺人事件が急増しており、同法施行前の2004年にわずか8件
だったのが、2010年には40件に増えた。さらにFBIの統計
では、正当防衛の殺人事件は2005年に全米で196件だったの
が、2010年には278件に増えていた。

「Stand Your Ground」法を推進したNRA(タイム紙の引用)

◇ フロリダは、銃所有者の住宅を超えて公共区域へ自衛法(Stand
Your Ground)を拡張するNRAの改革運動の新天地だった。フロリ
ダは長期間NRAと親密な領域にある。1987年には武器を隠して
携帯する許可に関して適性基準を満たした誰でもが隠して銃を携帯
できる法律を通した。
(トレイヴォン・マーティンを撃ったジンマーマンは、過去に犯罪
歴があるのに、銃を隠して、携帯するのを許された。)
それから7年、自衛法はフロリダで法律になり、同様の法案の怒濤
が全米に押し寄せた。しかし、いくつかの州ではフロリダのような
規定は含めない。フロリダは試験場で、NRAが行っているのはフロ
リダ法を連邦化することだとの指摘がある。

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◇7月20日、オバマが異例のショーアップ
オバマは、彼がそばを歩くときクルマのドアはロックされて、店舗
ではあとをつけられたと言った。
オバマ:トレイヴォン・マーティンは35年前の私だったかもしれ
ない。
オバマ:トレイヴォン・マーティンのご家族に配慮と祈りを送りま
す。

 


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