▼アラモ砦のような占領統治中枢の権力構造 グリーンゾーン▼

米軍と移行政府は宗教的(部族的)地方=下層構造から完全に分離され
た"飛び地"のようなものとしてイラク国民から完全に浮き上がった形で
存在している。

米軍と民間軍事請負会社の巨大軍勢に守られたバグダッドの「グリーン
ゾーン」の中に占領統治中枢(米軍現地司令部=米大使館、移行政府な
ど)が集中する。ある人は、それを"アラモ砦"と揶揄する。そして米軍
と民間軍事請負会社に守られて、そこからイラク全土に主要幹線道路を
移動すると、各地にイラク軍・警察などの治安機関の現地事務所、各宗
派・各政党の事務所がこれまた"飛び地"のように存在している。

「グリーンゾーン」から放射線状に張り巡らされた「点」と「線」だけ
の、それも昼間だけの「国家機構」が存在する。

ある人は、この戯画化された占領中枢を「グリーンゾーン共和国」と呼
ぶ。米軍司令官や移行政府の閣僚たちのオフィスや住居、彼ら専用のレ
ストラン、ショッピングモール、フィットネスクラブ、ガソリンスタン
ド、バスケットボール・コート等々、城壁に囲まれた快適な空間が存在
する。まさに「バーチャル・カントリー」と言うわけだ。

以下は「グリーンゾーン」に閉じこもった占領統治中枢についてローリ
ングストーン誌のルポである:
新イラク政府はバグダッドの防御されたグリーンゾーンに腰を下ろして
いる。それは、単にそこが数千人の米軍兵士に守られている場所だから
である。イラク高官は会議や記者会見をアラモ砦のような施設で、しば
しば近くの爆発音に中断されながら行っている。
グリーンゾーンの外では、党の高官や政府の建物は対戦車地雷、18フ
ィートの高さのぶ厚いコンクリート、マシンガンと AK- 47 を操る傭兵
に囲まれている。下級の政府職員でさえ、要塞から要塞へ重武装した軍
の車両で移動している。
状況は認められているよりはるかに不安定だと上級士官や司令官が私に
告げたと述べると、防衛情報庁の中東担当チーフ、パトリック・ラング
大佐は次のように言う。
「間接的な被弾のため、たとえグリーンゾーンの中でも安全ではありま
せん。もし大胆にも夜間に外出すれば、あなたは翌朝、頭部のない死体
として発見されることになります。」

▲The Quagmire: As the Iraq War Drags on, it's Beginning to Look
a Lot Like Vietnam by Robert Dreyfuss May 7, 2005 by Rolling Stone
http://www.commondreams.org/views05/0507-23.htm
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▼25歳のイラク人女性の日記、リバーベンド・ブログより▼
21 June 2005

先週は大きなアジャジャ(砂塵あらし)に何度か襲われ、バグダッドは
薄黄色のもやにおおわれた。アジャジャが居座ると、数時間のうちに空
気中に粉末の細かなベージュ色の土ぼこりが充満して息苦しいほどにな
る。こんな砂塵あらしの間は視界が悪く、車の運転も窓の外を見ること
もできなくなる。

アジャジャが来たら、家中駆け回って窓という窓をきっちり閉める。中
に入れまいとするほとんど無駄な抵抗。アレルギーや喘息の人にとって
は恐怖だ。この状態を少しでもよくするには、エアコンしかない。エア
コンが冷たい空気を送ってくれてる間は、ほんの少しだがほこりっぽさ
が薄れたように感じられる。

電気事情は地区によってさまざま。2時間通じて4時間停電を繰り返し
ていた頃もあった。4時間通じて4時間から6時間停電ということも。
困ったことになぜかここ数週間は午前中停電している。地区の発電機は
11時頃まで止まっていて家の発電機は天井の扇風機、冷蔵庫、TV、
その他の電気器具のわずかな余地しかない。エアコンは使えない。この
頃は朝8時には耐え難い暑さになっているというのに。

停電の上に拘束と暗殺が多発して眠れない夜が続く。多くの地区で強制
家宅捜索が行われていて、特にバグダッドの東半分のカーク地区が狙わ
れているらしい。TVには「テロリスト」が拘束されたという話が出る
が、現実には何の理由もなく大勢の人々が引っ立てられていく。イラク
人のほとんど全員が、自分や家族の友人と親族で、たくさんある米軍の
刑務所のどれかに理由もなく入れられている者の名をあげることができ
る。刑務所では弁護士にも面会人にも会うことが許されない。拷問の話
は珍しくもなくなった。占領に反対しているスンニ派とシーア派の法学
者は特にイラク軍の特殊部隊であるウルフ旅団、「リワ・イル・ティー
ブ」に襲われることが多い。たいてい尋問のあいだ拷問され、何人かは
死体で発見される。

みながとりわけくやしくて不快に思っているのは、道路はずたずたで穴
だらけ、ビルは吹き飛ばされて焼け落ち、住宅地はあふれた下水に浮か
んでいるという状態でバグダッドがあらゆる箇所から崩壊しつつあると
いうのに、グリーンゾーンはのさばる一方だということだ。アメリカ人
やその操り人形たちが住む立ち入り禁止区域にめぐらされた壁はどんど
ん高くなっていく。まるでいちばん背の高いナツメヤシと競争している
みたいに。コンクリートの強化壁と通行を妨げるための道路ブロックは
今では日常の風景の一部だ。道路、樹木、商店、大地、空、そしていや
らしい鉄条網に巻かれていることもあるコンクリートの四角い塊。

大きな復興工事はまだ始まっていないというのに、建築資材は信じられ
ないほど値上がりしている。大量のコンクリートなど建築資材が、立ち
入り禁止区域の強化のために使われているからだと思っていたのだが、
グリーンゾーン内の工事を請け負ったイラク人業者と最近一緒に仕事を
したという友人は、そんなもんじゃないと言う。彼が見るには、グリー
ンゾーンはそれ自体がひとつの都市なのだそうだ。そして動揺どころか
畏れおののいて帰ってきた。将来のアメリカ大使館や、それを取り巻く
集合住宅群に始まり、レストラン、店舗、フィットネスセンター、給油
所、いつも安定して供給される水と電気の完備までが計画されていると
のことだ。独自の法規制と独自の政府を持つ国の中の仮構の国。
グリーンゾーン共和国、またの名をグリーンリパブリックへようこそ。

グリーンゾーンは普通のイラク人を困惑させ、いら立たせる。占領とい
うものの本質が形になって見えるので私たちは不安になる。もし要塞化
とバリケードがなんらかの指標になるなら占領は長く続くことだろう。
どのように説明し、正当化しようとも、グリーンゾーンは顔のど真ん中
にビンタを食らわせるようなもので、挑発だ。私たちは自分の国の国民
ではあるが、この国の一部はもはや私たちのものでないのだから、この
先は制限されているとグリーンゾーンは教えてくれている。あの土地は
グリーンリパブリック国民のものなのだ。

▲TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里 配信記事より抜粋
http://www.geocities.jp/riverbendblog/ 
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▼ここは第二のパレスチナ▼NY Times 4 July 2005
by ジェームズ・グランズ

イラクの人々はそれをアスル(アラビア語のフェンス)と呼んでいる。
英語では壁のこと。この2年にわたって拡張を続け、少なくとも10マ
イル(16キロ)あまりも切れ目なく続く城壁のようにバグダッドの米
軍の本拠地を取り囲むまでになった。

重さ5トンのコンクリート板でできた高さ3.7メートルの壁である。

バグダッドのいたるところで形はさまざまだが要塞化が進んでいるとは
いえ、蛇のように延々とジグザグに続く環状の壁の比ではない。その存
在を不快に思う人々がベルリンの壁になぞらえることもあるこの構築物
は、グリーンゾーンとレッドゾーンをくっきり分けている。グリーンゾ
ーンとは、かつてのサダム・フセイン宮殿と軍の施設・住宅があり、今
は米当局が使用し、米軍によって厳重な監視下に置かれている比較的安
全な地区。レッドゾーンとはグリーンゾーン以外のバグダッド全域で、
治安がまあまあのところからゼロまでの千差万別な地区である。

だが、バグダッド中の住民が困難に直面しているといっても、壁から数
ブロックの地区はまったくの別世界となっている。グリーンゾーンに向
けて発射された迫撃砲とロケット弾が届かずにこの辺りに落ちることが
たびたびある。壁を突破できない自爆者がグリーンゾーンのすぐわきの
店で自爆する。検問所、封鎖された道路、米軍機甲部隊が戦車をころが
す音がおりなす混乱もバグダッド中で一番はなはだしい。「ここは第二
のパレスチナ」と壁の北端に近接したカバブレストランの店主は言う。

バグダッドの中央情報センターの所長、スティーブン・ボイラン中佐は
壁建設は「軍防衛総合計画」に基づいており、障壁工事全体は一元的に
指揮管理されていると述べた。実際に壁を建設しているのはアメリカの
請負企業、ケロッグ・ブラウン・ルートである(問題の戦争請負会社の
一つ)。

しかし、壁の矛盾の一つは、多数の人がそれを不快に思っている一方で
その向こう側の圧倒的な軍事力によって守られていると思う人々もいる
ということにある。米軍の徒歩巡視はバグダッドの他の地域ではめった
に見ることはないが、壁の外側沿いにはかなり日常的に行われており、
もしゲリラがグリーンゾーン近辺で持続的な襲撃を起こせば、たちどこ
ろに軍用ヘリのアパッチや軍用車ハンヴィー、必要とあらば戦車の1台
や2台も来襲するということを住民は知っている。

だがグリーンゾーンの西端のすぐ外にある中流階層の住むハリチヤ地区
では事情が違う。ここに巨大なコンクリート板が運び込まれたのは2カ
月前のことである。

底部を広く作って台座としているので、その形からT壁、また内部の強
化鉄で爆破に耐えられるよう設計されているので爆破壁と呼ばれること
もあるコンクリート板は、ハリチヤ地区のアルシャワフ通りを隔てて連
なる住宅にのしかかるように猛々しい姿を見せている。これに庭を分断
されてる一家もある。

米軍と彼らのもとで働くイラク人にとっては重要なものであるこの壁が
同時にこの都市の近隣地区一帯で、そこに暮らす市民の心を、互いの日
常の行き来を、かくもやすやすと切り裂いているのだ。
「ここはとてもいい街でした」と、この都市の自分の住む一画を愛おし
む者が落胆して言うのだった。