▼ヨーロピアンドリーム▼ by ジェレミー・リフキン
April 2005

アメリカ人が世界で最もどん欲な消費者であることに異議を唱えるアメ
リカ人はとりあえず一人もいないだろう。だが、アメリカ人は消費と死
が混然と結びついていることを忘れている。14世紀まで遡る「消費す
る」の元々の意味は「破壊する、略奪する、屈服させる、使い尽くす」
である。この言葉は暴力性に満ちており、20世紀に至るまで否定的な
意味しかなかった。

現在、地球全体の人口の5%を占めるにすぎないアメリカ人が、世界の
エネルギーの3分の1以上を消費し、他の地球資源についても相当量を
消費している。アメリカ人は飽くことなき欲望を満たすために見境なく
貪り食っている。この病的なまでに強迫的な振る舞いは、私たちの周辺
にある全てを殺し、消費することにより、生存と繁栄を続けていこうと
する歯止めなき欲望から生まれている。もしアメリカ人が、費用のかさ
む個々のライフスタイルを永続させるために、一生のうちに強奪し、消
費している生き物の数、地球上の資源や物質の量について考えてみたな
ら、この殺戮に愕然とするはずである。世界中で多くの人々がアメリカ
のすさまじい消費を見て、その文明を殺戮的だと捉えていることに果た
して驚く必要があるだろうか。

2003年に全ヨーロッパ諸国で、ピュー世論調査センターが実施した
アンケートによれば、大多数のヨーロッパ人は次のように考えている。
「政府の干渉なく、個人が自由に目標を追求できるようにするよりも、
政府が誰も生活に困らないようにすることの方が重要である」。世界の
すべての富裕国の国民のなかで、政府の干渉なく目標を追求する自由が
大事だと見るのはアメリカ人だけで、回答が過半数の58%を占める。
政府が「誰も生活に困らないようにするために、意欲的に対策をとる」
ことを好ましいとするアメリカ人は34%に留まった。また、2002
年に実施されたギャラップ社の世論調査によれば、貧しい国々へ援助を
拡大することについても、ヨーロッパ人の70%近くが、もっと援助を
増やすべきだという意見を持っているのに対し、アメリカ人の半数近く
が、富裕国による援助は現在でも多すぎると見ていることがわかった。

地球規模のつながりを求めるヨーロッパ人は、彼らの文化的アイデンテ
ィティを持ち、地域に根ざしていこうとする感覚の喪失を望まない。彼
らは自立性のなかではなく、関係性のなかに自由を見出す。今ここで質
の高い生活を享受することを追い求める。それは彼らにとって未来世代
の利益を守るために地球との持続可能な関係を維持することでもある。
10人中8人のヨーロッパ人が自分の生活に満足していると答え、20
世紀の大きな成果を選ぶという質問に対しては「生活の質」という回答
が58%に上り、「自由」に続いて第2位となった。また、目下の緊急
の課題として69%が「環境保護」を挙げた。環境問題を懸念するアメ
リカ人は4人に1人に留まり、際立った対照を示している。さらに興味
深いのは、ヨーロッパ人の56%が「環境の悪化を止めたいのなら、私
たちの生活と発展の様式を根底から変革する必要性がある」と考えてお
り、世界のあらゆる国民の中で、持続可能な発展の最も積極的な擁護者
であることを示した点である。

ヨーロッパ人は、働くために生きるのでなく、生きるために働く。仕事
は生活のために不可欠ではあるが、それだけで生活が決まるわけではな
い。ヨーロッパ人はキャリアよりも、自己実現や、社会の豊かさ、社会
的な団結に重きをおいている。非常に重要、あるいは大いに重要と思う
価値観は何かという質問に対しては、95%が「他人を助けること」を
重要事項のトップにあげている。92%が、人をありのままに尊重する
ことが非常に重要と考えており、84%が、よりよい社会の創出に参加
することを大いに重要と捉え、79%が、個人の発展にもっと時間と労
力をかけることに賛同している。その一方で、高収入を得ることが非常
に重要、あるいは大いに重要だと回答したのは、半数以下の49%に留
まった。つまり、このアンケートであげられた8つの価値観のうち、金
銭的な成功は最下位であった。

ヨーロッパ人は、人間の普遍的な権利と自然の権利を擁護しており、そ
のための規定が採択されれば従うつもりでいる。平和で調和のとれた世
界に生きることを望み、この目的の実現に向けた外交政策と環境政策の
推進をほとんどの人が支持している。世界の大部分は闇に吸い込まれ、
多くの人間が道標を失っている。

ヨーロピアンドリームは、混迷の世界に一筋の希望の光を示している。
それは、団結と多様性、質の高い生活、自己実現、持続可能性、人間の
普遍的な権利、自然の権利、そして地球の平和という新時代へと、私た
ちをいざなってくれる。長いことアメリカンドリームには、そのために
死ぬほどの価値があると言われてきた。新たなヨーロピアンドリームに
は、そのために生きるだけの価値がある。

http://www.diplo.jp/articles05/0504-4.html
(掲載部分は Le Reve europeen, Fayard, 2005 の結論部分からの抜粋)
▲ジェレミー・リフキンの著書:
「地球意識革命」1993(星川淳訳、ダイヤモンド社)