▼イラク戦争は国際法違反との判決▼

ドイツ連邦行政裁判所は、米国とその同盟国によるイラク攻撃は侵略戦
争であり、国際法に違反しているという判決を下した。同時に、ドイツ
連邦政府は公式にはイラク戦争に反対の意を示しているが、その一方、
なんら法的な根拠なしにイラク侵略に協力していると慎重にではあるが
判決文の中で述べていた。

130ページに及ぶ判決文が書かれたのは3ヶ月前。判決が文書として
公表されたのは9月に入ってのことであった。

この法廷は1人のドイツ軍将校の訴えで開かれた。彼は48歳。軍のコ
ンピュータのプログラム開発に携わっていた。イラク戦争が始まると、
違法な戦争に加担するとして、上官の命令に従うことを拒否した。彼は
まず、従軍牧師と軍医に面会を求めてイラク戦争が国際法に違反してい
ることを訴えた。だが軍医は彼を軍の精神病院に送った。これはまさに
フランツ・カフカの小説の世界であり、スターリン時代のソ連の反政府
分子に対する扱いを思い起こさせるものであった。

彼の上官はそれから軍の法律顧問の下に彼を送った。法律顧問は、「こ
のケースは不名誉除隊か、降格になる」と言って彼を脅した。だが、彼
が戦争の違法性を主張したので、この法律顧問はこのケースを国防省に
送った。

国防省は、「ドイツ政府はイラク戦争に反対したが、ドイツがNATO の
一員である以上、また国連安保理決議1441号に基づき、米国と英国
に対し、ドイツの空域と米軍基地の使用を認めざるを得ない」と文書で
述べた。だが同時に国防省はこの安保理決議1441号は、イラクに対
し「大量破壊兵器を廃棄したことを証明しなければ重大な結果をもたら
す」と脅したものであり、この「重大な結果」の意味は、イラクに対し
て軍事力を行使するには「もう1つの安保理決議を必要とする」という
のが、同省の解釈であると述べた。

この将校は国防省の解釈を認めず、命令に従うことを拒否し続けたので
少佐から大尉に降格された上、軍によって軍規律に対する不服従の罪で
起訴された。

そうして、ついにドイツ連邦行政裁判所は軍と政府の主張を退け、却下
の判決を下したというわけだ。

ドイツ憲法裁判所は、常にこのようなケースについて明確な判決を下す
のを避けてきた。だが、今回のケースはイラク戦争の国際法違反とドイ
ツ政府の協力という重大な問題であったので避けて通すことができなか
った。

連邦行政裁判所の判決文では、「国連憲章第4条第2項により、他国に
対する重大な脅威、並びに軍事力の行使は侵略行為である」とし、例外
は「国連安保理の決議と自衛のため」の2つである。イラク戦争はこの
いずれにも該当しないと述べた。

しかもその中で、1990年に米国自身が提案した安保理決議678号
は、イラクのクエートからの撤退を要求したもので、1991年の決議
687号も撤退が完了したことを認めたものであった。さらにこの決議
には、イラクが毒ガス、生物兵器を使用した場合は「重大な結果をもた
らす」と書いてあったと述べる。さらに国際テロからも明確な距離をお
くことを要求しており、イラクはこの決議を認めたとある。

また判決文には、1991年以後のいかなる国連決議もイラクに対する
軍事作戦を容認するものでないと書かれている。

米国と英国のイラク戦争の正当化に使われている2002年11月8日
の安保理決議1441号については、国連兵器査察官ブリックスとエル
バラダイに対してイラクが協力しなかった場合は国連に報告するように
求めたものであり、それを受けて国連がどのような措置をとるかについ
ては、間違いなく安保理の判断にかかっていたと述べている。国連憲章
に基づいて、いかなる軍事行為も容認するものではなかった、そして、
「重大な結果」とは一般的な警告であると解釈すると判決文にはある。

そして特に重要な点は、ドイツの戦争協力が国際法違反であると頻繁に
述べているところにある。ドイツ連邦議会の特別委員会が2003年1
月2日に発表した報告書に、「国連決議はイラクに対する軍事攻撃を合
法化するものではない」とある点である。さらに米国と英国が国連安保
理に送った書簡には、自衛権を行使しなければならない理由がどこにも
書かれていないと判決文にはあった。

判決文はドイツの基地提供行為について詳しく言及している。「不法な
軍事行動に対する協力は戦闘行為に参加することだけにとどまらない。
他の手段によってもある。攻撃に対する支援行為も国際法上では攻撃と
見なされる。これは、不法な戦争の準備行為を禁じているドイツ憲法第
26条に違反する。」

ドイツが尊重しなければならない国際法として、1974年12月14
日の国連総会決議3314号、国連国際法委員会の諸決議、1907年
ハーグ条約以降の国際諸条約を挙げている。

最後に、ドイツが軍隊や軍事物資の移動に領土使用を許している点につ
いて、ハーグ条約には陸海空すべての領土を侵略の軍隊の移動に使用さ
せることを禁じており、さらにこれはドイツ憲法第25条に違反してい
ると述べている。

ドイツ政府がNATO の一員としての義務をあげていることに対しては、
NATO 条約で加盟国の侵略行為に協力することを強制していないこと、
さらに国際法に違反した加盟国を援助することを強制していないと述べ
ている。NATO 条約は国連憲章の枠内にある。

さらに判決文は、NATO の加盟国が支援できるのはNATO 加盟国の領土
内の武力紛争の時に限定されると述べている。しかも1949年に米国
の要請で追加された条項には、NATO 協定の義務は加盟国の憲法に違反
する場合には当てはまらないことになっていると述べた。ドイツ政府は
ドイツ憲法第20条第3項により政治的な理由で戦争を支援する権利が
ないと締めくくっている。
(appeal2005 3October 2005 転載記事より抜粋)

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▼靖国参拝判決/高裁の「違憲」判断は重い▼神戸新聞
1 October 2005

「職務として参拝しているわけではないことは何度も申し上げている。
それが、どうして憲法違反なのか、理解に苦しむ」

小泉首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反するかどうかが
争われた裁判で、大阪高裁がきのう、違憲判断を示したことについて、
首相は衆院予算委員会で納得しかねるという表情で答えた。

これまでも繰り返してきたことだが、首相にしてみれば「戦場に倒れた
人々に哀悼をささげ、非戦の誓いをする」のが、なぜいけないのか、と
いうことだろう。

この首相の疑問に、大阪高裁判決は明快に答えている。

(1)公用車を使用し、秘書官を伴った(2)首相就任前の公約として
実行した(3)私的参拝と明言せず、公的参拝を否定していない
(4)主な動機、目的が政治的である。したがって公的参拝であり、宗
教活動にあたる。

小泉首相の靖国参拝をめぐり、全国6地裁で8件の訴訟が起こされた。
争点は、参拝目的の公私と、宗教活動にあたり政教分離を定めた憲法に
違反するか、である。

きのうの判決は、かみ砕くように、こう指摘している。

「私的行為であることをあえて明確にせず、あいまいにしていることは、
公的行為と認定されてもやむを得ない」

「一般国民に国が靖国神社を特別に支援している印象を与え、特定の宗
教への関心を呼び起こしており、わが国の社会的・文化的諸条件に照ら
し相当とされる限度を超えている」

小泉首相の靖国参拝をめぐる訴訟では、これまで9件の判決が出された
が、違憲判断は福岡地裁に続き、この大阪高裁判決が2件目になる。

たしかに、首相がいうように司法判断は「まだら模様」ではある。

しかし、福岡地裁、大阪高裁を除けば、憲法判断に踏み込んでいない。
つまり「合憲」判断は一例もないことを、首相は直視すべきだろう。

首相の個人としての信条は、わからないではない。かけがえのない肉親
を失った遺族が、首相に参拝してほしいという気持ちを抱くことも理解
できる。しかし、首相という重い公職にある以上、その言動は政治的な
影響が避けられない。

今後の参拝について、首相は「適切に判断する」としか答えないが、国
益の観点からも考え直すべきだろう。対中関係の冷え込みは「他国が干
渉すべきでない」と突っぱねるだけでは済まなくなっている。この日の
裁判の原告が、戦没した台湾先住民の遺族だという意味も重い。

http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/00041933ss200610011000.shtml