▼ライス大統領ってあり?▼ 時事通信 
23 October 2005

ワシントン発:米中央情報局(CIA)秘密工作員の実名漏えい事件の
進展次第で、チェイニー副大統領が辞任し、後任にはライス国務長官が
就任するとのうわさが広がっている。米誌USニューズ・アンド・ワー
ルド・リポート(電子版)が23日までにネット上に記事を掲載したほ
か、FOX TVも「ライス長官を副大統領にして2008年の大統領
選挙出馬に備えるという憶測がワシントンで広がっている」と伝えた。

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▼CIA工作員名漏えい事件、米副大統領の側近起訴も▼ ロイター通信
17 October 2005

ワシントン発:米中央情報局(CIA)工作員の氏名漏えい事件の捜査
で、チェイニー米副大統領の首席補佐官を務めるルイス・リビー氏が、
ニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者の大陪審証言に影
響を及ぼそうと試みた容疑で起訴される可能性が出てきた。
事件に詳しい筋が16日、明らかにした。
この事件を担当しているフィッツジェラルド特別検察官が、数日以内に
起訴するかどうかを決定する見込みで、今週中に発表があるとみられて
いる。
法曹関係者によると、リビー首席補佐官に加え、ブッシュ大統領の側近
であるカール・ローブ大統領次席補佐官も起訴の対象となる可能性があ
るという。
この件に関わる複数の弁護士によると、フィッツジェラルド特別検察官
は、工作員の身元の意図的な漏えいで政府高官を起訴することも可能だ
が、機密漏えい罪や妨害罪、偽証罪など、立件が容易な罪状で起訴に持
ち込む可能性が高いという。
また、同特別検察官が不起訴と判断する可能性も残っているという。

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▼チェイニー米副大統領、CIA工作員身元漏えいに関与か▼
ニューヨークタイムズ紙 25 October 2005

ワシントン発:米中央情報局(CIA)工作員の身元漏えい疑惑で、ニ
ューヨーク・タイムズ紙は、リビー副大統領首席補佐官が、2003年
7月の工作員名漏えいの数週間前にチェイニー副大統領と交わした会話
の中で、初めて工作員の身元情報を得た、と報じた。
リビー副大統領首席補佐官とチェイニー副大統領が2003年6月12
日に交わした会話のメモを基に報じたもので、チェイニー副大統領が漏
えいに関与した疑いが浮上したことになる。
CIA工作員の身元情報を最初に記者から得たとする、リビー副大統領
首席補佐官の大陪審に対する証言とも矛盾する。
タイムズ紙が法曹関係者の情報として伝えたところによると、リビー副
大統領首席補佐官のメモからは、チェイニー副大統領が当時のテネット
CIA長官から同工作員に関する情報を得たことも明らかになった。

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▼米軍の侵攻から4年目 アフガニスタンは今...▼ 19 October 2005

10月12日、インド・パキスタンで発生した大地震の被災状況を視察
に出かけたライス米国務長官は、そのままアフガニスタンにまで足を伸
ばした。彼女がカルザイ大統領との共同記者会見に臨むと、タリバン系
武装勢力はアフガニスタン政府軍兵士6人と医者を含む民間人5人を殺
害して米国からの客人を歓迎した。するとライスは同国の現状について
会見でこう評価した。
「(アフガニスタンは)民主主義の前進によって、世界を奮起させてい
ます。」

ライスの言う世界を奮起させているアフガニスタンの現状を示す資料を
以下に列記してみることにしよう。

■国連の報告によるアフガニスタンの治安状況を表す数値:
7万人:米政府のアフガニスタン政府軍訓練兵士の目標数
3万1千人:2005年6月までに訓練が完了したアフガニスタン政府
      軍兵士の数
8千人:訓練中に行方不明になったアフガニスタン政府軍兵士の数
1万8千人:アフガニスタンに駐留する米軍兵士の数
(14万7千人:イラクに駐留する米軍兵士の数)
10億ドル:アフガニスタン駐留米軍の毎月の費用
(60億ドル:イラク駐留米軍の毎月の費用)
24人:2004年に殺害されたNGO職員の数(2001〜2002の6倍)
1200人:2005年4月以降のタリバン復活による武力衝突で死亡
      した人の数
1800人:私兵を率いる地方軍閥の部族長の数

■アフガニスタン駐留米軍の戦死者・負傷者数の変移
55人:2001年10月から2002年12月までの戦死者数
86人:2005年1月から2005年10月までの戦死者数
107人:2001年10月から2002年12月までの負傷者数
166人:2005年1月から2005年10月までの負傷者
(Afghanistan by the Numbers/Center for American Progress
2005年10月5日付記事より)

米軍の軍事侵攻からすでに4年。アフガニスタン国内の戦乱は収まる気
配がない。
4年前に壊滅したはずのタリバン系武装勢力も復活して、同国内に駐留
する米英軍兵士を震え上がらせている。

兵力不足に悩む米英軍はNATO に助けを求めたが、ドイツ、フランス、
スペインから成る「古いヨーロッパ」のNATO 軍は、ラムズフェルド米
国防長官の協力願いを当初は拒否した。だが、後にカルザイ大統領との
交渉により、米軍から独立した指揮系統での兵員増強に合意している。

さらにカルザイ大統領は、隣国パキスタンへの対応を巡り冷え始めた米
国との関係を象徴するかのように、軍備増強面でロシアの協力を仰いで
いる。

一方、アフガニスタンで米国特有の「民主主義」が実現した例もある。
例えば、ブッシュ政権が中東向け政府広報を強化するため、ブッシュ家
お抱えのプロパガンダ専門家カレン・ヒューズを米国務次官に就任させ
ると、タリバン側の指導者ムラー・モハンマド・オマルも新たに3人の
広報担当官を指名することで、メディア対策を強化している。

着任早々、中東各国に宣伝に出かけたヒューズ国務次官は、サウジ、ト
ルコ、エジプト等訪問先で、キリスト教原理主義者としての個人的信条
を披露して地に堕ちた米国のイメージにさらに泥を塗ろうとした。

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▼アメリカに漂う手強い停滞感▼

この秋のアメリカ社会には、なんともしがたいハリケーン級の停滞感が
漂っている。

たとえば、イラク情勢。先週末の憲法制定の国民投票は一部の地域での
停電にもかかわらず、成功裏に終わったと報道されている。だが、憲法
に関して言えば、各宗派に大幅に自治を許す内容になっており、その結
果、シーア派支配地域では宗教の政治への関与がますます増えてる現状
に加え、フセイン時代の支配者であったスンニ派が体制からますます除
け者にされた格好になっていることなどから、分裂の危険という点では
全く解決していない。

目下、裁判が進行中のサダム・フセインの1982年シーア派大量虐殺
容疑についても、1982年はイラン革命によって中東での影響力を奪
われたアメリカが1984年の国交回復に向けてフセイン支援を始めて
いた時期である。事件を追及すればするほど、当時のアメリカが黙認し
ていた実態が出てくることは明らかであろう。

アメリカのTVは、フセインはやがて絞首刑になると決まったかのよう
な言い方を繰り返す。だがこのフセインの処遇についてもある種の膠着
状態になる可能性を予測してか、アメリカでの反応はイマイチ。ブッシ
ュが「憲法制定は前進だ」と言ってもそうは共感を得られない。だから
といって、これに反対する側にも解決の一手はない。

アフガニスタンでも事態は改善していない。10月20日には、米兵が
タリバン兵の死体を燃やしたという事件が発覚している。イスラム教徒
は火葬をタブー視しており、そのことを知った上で、わざわざ「見せし
め」のために死体を焼いたというのでアフガニスタンでは反米兵ムード
が高まっているという報道もある。

911以降、テロとの戦いのスローガンの下で戦われたイラクでもアフ
ガニスタンでも、いまだに国が安定する気配は見られない。米軍駐留は
両国民の心をつかんでいない。そのことにアメリカ人も気づき始めてい
る。それでも目を背けようとしている。

アメリカにとって2005年の秋は、強烈なハリケーンの来襲につきる
のかもしれない。8月末の「カトリーナ」、3週間後の「リタ」、その
どちらも歴史に残る大きな爪痕を残した。そして10月末の予想外のハ
リケーン「ウィルマ」の発生である。

「ウィルマ」は、カリブ海のキューバの南、ケイマン諸島の東で発生し
当初は熱帯性低気圧だったにもかかわらず、わずか一日で中心の気圧が
890ヘクトパスカル、中心付近の最大風速が時速170マイル(秒速
76メートル)という「史上最大のハリケーン」に発達した。24時間
で100ヘクトパスカルも気圧が下がるのは尋常ではない。ニュースを
伝えるTVからは、ある種の無力感が漂ってくる。

一方、政治の世界ではブッシュ政権の求心力が弱いままの推移が続く。
不快な評判の最たるものはブッシュを背後で動かす人物と言われるカー
ル・ローブ補佐官の「CIA工作員の実名漏えい疑惑」。目下、カール
・ローブひとりが関与というのから、チェイニー副大統領の首席補佐官
であるルイス・リビーも関与というのに変わってきている。あるいは、
チェイニー自身が関与というまでに。

また共和党の大物政治家のスキャンダルも次々明るみに出ている。下院
院内総務を辞任したばかりのトム・ディレイ議員に続き、共和党院内総
務である上院のビル・フリスト議員も、父親が創業した医療関係の企業
の株についてインサイダー疑惑が浮上しており、連日弁明に追われてい
る。議会共和党の中心ともいうべき人物2人が政治的求心力を失いつつ
あるのだから、まさにこちらも異常事態である。

経済においても停滞感は当てはまる。この秋のアメリカ経済は石油製品
価格の高騰ということに振り回された感がある。

もうひとつここで浮上しているのが、社会不安を煽る食肉関係の伝染病。
特に「鳥インフルエンザ」は、アメリカ国内では全く感染の報告がない
のに、アジアやヨーロッパ、特にトルコでの感染のニュースが異常なほ
ど大きく取り上げられた。またBSE関連では、今回のハリケーン災害
への援助食糧に関して、英国からの肉製品の受け入れを拒否するなど、
鎖国的な姿勢も出てきている。

一連の停滞感の根底には何があるのか。2008年の大統領選に向けて
ポスト・ブッシュの顔が見えないことがある。共和党内のブッシュ派、
財政均衡論での反ブッシュ派、さらに右寄りの宗教保守としての反ブッ
シュ派、そして民主党と、いずれも顔の見えるリーダーがいないという
ことに尽きるのではないか。そして、ただひとり存在感のあるブッシュ
は、ハリケーンにしても、イラクにしても、コントロール不能な現実の
前でただ立ちつくすばかり。

10月25日、イラク駐留米軍兵士の戦死者が2000人を超えた。

(ニュージャージ在住の作家 冷泉彰彦(れいぜい あきひこ)氏の
「USA リポート」から引用 22 October 2005 )