letter from the north japan
motoi kikuchi

あれから、また流れたり流されたりの果て、ロードもつきる礼文島に来ています。桃岩という文字通りの形の巨岩、高さはおよそ100メートルの脇の崩壊に泥のソーセージをちょうどたくあん大根を干すように並べる、という仕事です。
地吹雪の中を7時間真夜中に走って稚内に着き、欠航となった船を一日待つ。
島は海に囲まれているから気温はそれほど下がらない。桃岩はしかし、強風が途絶えることがなく、雪かきのスコップがあおられる。直径が10ミリを割ると30度の傾斜の下に投げた雪は吹き上げられて煙のように飛んでいく。
顔を叩く細かな雪粒が目にはいると砂のように痛く、動きが止まる。だから我々は、決して下を見ることなく櫂を漕ぐようにスコップを振るう。
すると、眼鏡の裏のくぼみに吹き溜まり、体温で溶けかけて視界を奪う。
クルマに逃げ込むとポケットというポケット、ベルトの裏側から雪のかたまりをつまみ出す。
こんな仕事をそのとき、大いに楽しんでいるのだがこの「船」にも乗りあきたと感じています。この家内制工業に別れを告げてヒマラヤの風にでも吹かれてきたいところですが、そういくかどうか?

◆礼文島「北海荘」201号 11/22 1998
●TAMA- 24 掲載、1999 SIZZLE