ジョン・ルーリーとLOUNGE LIZARDS

一部の人のお気に入りにしとくには贅沢すぎる。マーヴィン・ポンティアック伝説なるNY イーストヴィレッジ的アルバムでいよいよ信用の置けるジョン・ルーリーと彼のフェイクジャズバンド、ラウンジ・リザーズにそろそろ開眼してもいい頃だと思う。
結成から20年たつとは信じられない。ジャストナウの肌に感じる考え方や感動、感じ方を引き抜きソウルフルに変え音楽に従わせる、ジャズがまさに最高なことをやる数少ないバンドだから長続きしてるんだろう。バンドのリーダー、ジョン・ルーリーはずっとダウンタウンクールの頂点でも彼の音楽にある明確な精神性がその超越ぶりとストリートの勘の爽快なブレンドに役立つ。僕らはみんな落ちぶれきってるがなかには星を見てるやつがいる。
十代の頃ルーリーと弟のエヴァンをひどく面白がらせフレーズが何年も彼の心にこびりつくルーリーお気に入りのジミヘン<エレクトリック・レディランド> の歌詞の一節がアルバムタイトルの<Queen of All Ears >にはルーリーの無邪気でチャーミングなメロディはもちろん、ラウンジ・リザーズの豊富な表現のすべてがある。アフリカのジュジュのヒント、くつろいだガーシュインライクのスイング、ブルンジのドラマー経由でコルトレーン風らんちきパーティへと炸裂するナワンパルス、ミニマリズム、マンガ音楽。例によって音楽はホームベースNY 同様コスモポリタンだ。
アンサンブル演奏もまた例によって格別だ。「もちろんこの連中は別格でなくちゃならないが、ちょっとストリートで楽器を見つけてさみたいにも演奏できなくちゃならない。それにも増して互いを大事にする能力がなければならない」とルーリー。バンドの全員に輝くチャンスがある<Queen of All Ears >では人間の声がこれまで以上に大きな役割を演じる。彼らの音楽全体を貫く隠れたユーモアが一目瞭然の笑いを誘うとぼけた話の<Yak >でルーリーは並外れたヴォーカルのワザを確かにする。
ラウンジ・リザーズは70年代末NY のNo Wave シーンから現れた。
「パンクジャズバンドとしてスタートした僕らはなんであれ美しく演奏するのが嫌だった。すべてからかい半分。3年ほどして本気でやろうとしたら大失敗さ、ミュージシャンシップが上達して音楽に独自の活力が帯びだしたんだよ」
スコセッシの映画<キリスト最後の誘惑>の撮影地モロッコで地元のワナンミュージシャンとジャムったときルーリーは音楽の本質的意味を直観的に把握する突然の知覚を味わった。「僕を動かす彼らの音楽を聴いてるどころか僕が見つけようと必死だったもの絶対に見つけられなかったものを僕のなかに解き放った」とルーリーは言い、クールで皮肉な態度の音楽がバンド名に合わない知的に向上させる紛れもない精神的様相を呈するようになる要点に触れる。
もちろんルーリーはただのラウンジ・リザーズ(ラウンジをぶらつく洒落もの)ではない。ジム・ジャームッシュの映画で世間をあっと言わせるパフォーマンスを演じて以来ヒップなインディー映画仲間の大変な人気者になりヴェンダース、スコセッシ、リンチの映画に登場する。どちらかというと「ずっと音楽一筋でやってきて音楽が僕のすべて映画は僕のエネルギーの十分の一なのに突然それが巨人のようなことになってしまった」彼は映画で知られた。フランスの新聞リベラシオンが「天才」と認める男は演じる他にも<ゲット・ショーティ>のサントラでグラミーにノミネートされるなど最近の映画<Manny and LO >を含む10本の映画のサントラを書いている。
そして自分のTV シリーズ番組<フィッシング・ウイズ・ジョン>でシナリオを書き監督、主役もこなす彼はトム・ウエイツ、デニス・ホッパー、ウイレム・デフォー、マット・ディロン、ジャームッシュら同種類の仲間と連れだって地球を旅して釣りをする。
それでも<Big Heart><Voice o Chunk>のような素晴らしいアルバムが彼の威信を埋め合わせる。バンドはヨーロッパをツアーした。以来日本とUS を定期的に回り世界中のレイヴ評を味方につける。
ラウンジ・リザーズは常にNY ミュージックシーンの最良の「粋」を特色にしてきた。「僕はいわばローワーイーストサイドのアート・ブレイキー」とルーリーはからかう。リザーズ同窓生にはアート・リンゼイ、マーク・リーボー、名スライドギター奏者デイヴ・トロンゾ、ボブ・ディランの音楽監督トニー・ガルニエ、エリック・サンコーらがいる。秘訣はルーリーの超人的キャスティングセンスにある。
「パーソナリティやソウルやエネルギーにまで及ぶ。どうやって一緒にリンクするか。和解することだよ」
彼らの流儀があらゆる類の聴衆にこんなにぴったりあうのは奇跡に近い。あんなにあかぬけたミュージシャンシップと作詞作曲がこうも人の心を奪えるとはね。
「これほどの才能はないよ、たいしたもんだ」とルーリーが同意する。一瞬置いて声に出して知りたがった。「ないよな?」 ないよ、ジョン。
▲参考資料:strangeandbeautiful.com (TAMA-30、掲載)
●The Legendary Marvin Pontiac