WAR
どんな戦争も暗い部屋の扉をあけるようなもの
EVERY WAR IS LIKE OPENING A DOOR INTO A DARK ROOM :HITLER


どんな戦争も暗い部屋の扉をあけるようなものだとヒットラーは言った。
そしてどんな戦争も「正義」とか「民主主義」とかクリーンな名目がつくような公平さを持ち合わせていなかった。それは「破壊」と「虐殺」が目的の不愉快で残忍なビジネスだったから。今回も決して"ニンテンドー・ウォー"なんかじゃなかった。

先のアメリカのヴェトナム戦争でアメリカの国民が「どうカモにされていたか」を明らかにする国防省の秘密報告書「ペンタゴン・ペイパーズ」* が暴露されたのは北爆開始から6年後のことだった。今回の湾岸戦争は今世紀のどのアメリカの戦争より厳密な検閲制度のルールにカヴァーされている。決して第二のヴェトナムにならないようにそしてクリーンな戦争を印象づけようとこれに挑戦するような報道は「イラク側のプロパガンダに与する行為」とのキャンペーンを展開してきた。そしてアメリカのメジャーのメディアはペンタゴンの宣伝機構から除外されないように新たなルールをおずおずと受け入れた。
ヴェトナムの特報でピューリッツァ賞をものにしたニューヨークタイムズの記者マルコム・ブラウニーは「記者を押さえ込む見張りや軍のコントロールの度合い」においてこの戦争の報道機関の役割をナチの宣伝省になぞらえる。アメリカ政府は戦時下ではいつも情報の流出を制限し、時には報道機関を敵としてターゲットにした。ところがヴェトナムからリポーターは割合自由に作戦基地や軍隊、役人、他のニュースの出所に接近できた。しかし昨年(90年)12月、国防省は前例のないリポーターの目隠しセット「ニューメディアのガイドライン」なるものを提出する。その要は大使館員によって正式に認可され監視された11人のリポーターの共同管理で戦場の報告が制限されることだった。その共同管理を越えて独自に戦闘部隊との接触に挑むリポーターは誰だろうと後方部隊まで護送されダーランに戻される。 新聞<ヴィレッジ・ヴォイス><ネーション><ハーパーズ><イン・ジーズ・タイムズ>その他出版物とライターは共同管理が"公共の知る権利"を擁護する憲法の修正第一条に違反すると申し立てた。そしてヴェトナム時代の"入手する権利"の復活を求めた。
共同管理の概念はポスト・グレナダ侵攻からの脱皮だ。グレナダでは最初の5日間リポーターとカメラマンを追放した。どっとわいた抗議の後、その期間を最小限に限定したがパナマ侵攻後それを制度化している。それにまた明らかにスクープを重視するペンタゴンはニュースを遮断できるばかりか、軍の校閲係がリポーターの記事の形容詞まで変えることができた。ステルス機のパイロットの「うわついた」という表現を「誇らしげな」に置き換えるなど。また米艦ジョン F. ケネディに乗船したパイロットがAP 電に漏らした「爆撃任務の前にポルノ映画を見ていた」という詳細はパイロットの悪態と一緒に排除された。ある退役海軍将校が海軍学校で行われたセミナーでこんなことを言っている。「作戦上のセキュリティが問題なんじゃない。君らが私たちのことを書くと私たちが悪そうに見えることが問題なんだ」
* ペンタゴン・ペイパーズ:1964年8月、北ヴェトナムのトンキン湾でアメリカの駆逐艦マドックスが北ヴェトナム側に攻撃されたという国防省の発表で始まったヴェトナム戦争。実はこのトンキン湾事件が世論を喚起する目的で数ヶ月前からアメリカ政府によって仕組まれたものだったことを明らかにしたのがこの国防省の秘密報告書だ。 当時の大統領ジョンソンは一般のアメリカ人と同様アメリカの絶対的優位に自信を抱き、「見苦しい四流国」と呼ぶヴェトナムなど簡単に押さえ込めると踏んでいた。

 

ジョージ・ブッシュ・シニアは地球をコケにしろと兵隊に命じた
Piss on earth、 George will to men トイレの聡明な落書きより

ヴィレッジ・ヴォイス紙のダグ・アイアランドはイラクを悪魔で無法者国家だと役づけるキャンペーンをたびたび展開して「やる気の」ブッシュについてこんな風に書いている。「先週(91年1/23)、戦争が始まったというすでに知ってることを国民に発表したときジョージ・ブッシュは紛れもなく幸せそうに見えた。不謹慎で下品なスマイルが大統領のおしゃべりを弄び、そのスマイルは"もう誰も私のことを弱虫とは呼べないだろう"と語っているようだった」 そして彼の湾岸危機でのパフォーマンス(イラクの拷問に関するアムネスティ・インターナショナルの報告にそら涙を流したのも含め)が権限を越える議会の支配と冷戦時代の行政上のパワーを大がかりに強めるものと新聞<ニューズデー>は拡大する大統領の主張を怪訝する洞察力のある含蓄を示す。
ブッシュ&カンパニーは彼らの政治計画表にフィットするように決定的でない情報や矛盾した情報をねじ曲げこれ以上ないと思えるような"上出来の戦争"をでっち上げた。これはレーガン・ブッシュ時代に始まったことではないが、フセインだけがはめられてコケにされたわけではなかった。
議会を黙らせるためのホワイトハウスの国内向け宣伝戦略以外のなにものでもなかった、ベーカー・アジズのジュネーブ会議という空転劇を演じたベーカー国務長官は一ヶ月に及ぶ戦争でアメリカの武器の在庫が一掃できたのに180億ドルもの武器を多国籍軍側のアラブ諸国(サウジアラビア、エジプト、バーレーン、UAE )とトルコに売却する話を持ちかけた。この事実を一面トップで伝えたイギリスの新聞<ファイナンシャル・タイムズ>(3/9付)は、これが湾岸地域の安全を確保するためのものではなくて他の地域に作り上げている軍事管理体制を新たに湾岸地域にも確立したいアメリカの意向のあらわれと警告している。
そしてまた、1月にフランスで刊行されて以来ベストセラーになっているピエール・サリンジャー* の<湾岸戦争、秘密文書>ではイラクがクウェートに侵攻する遙か前(89年11月)からアメリカCIA とクウェートとのあいだに対イラク隠密共同作戦に関する合意文書が存在してたことを明らかにしている。CIA がクウェートと結託して原油価格を下落させイラクの経済を崩壊させようと企んだとするとアメリカの駐イラク大使グラスピーがフセインに「ゴーサイン」を出したとする問題のシナリオが見えてくる。 ダグ・アイアランドじゃないが、ブッシュのスマイルやあまりにも一方的すぎる戦争の流れ(死者"10数万"対"100人"、これは戦争?それとも大量殺人:ニューズデー紙より)に、この戦争は初めからどこかおかしいと疑ってかかる常識感覚と想像力が私たちには備わっている。
アメリカの報道が事実上故意に無視したこの戦争が引き起こした悲劇的な情況を把握する衝撃、ヴィレッジ・ヴォイス紙の恐ろしい大災難のカタログ(90年12/25付)はイギリスのインディペンデント紙がロンドンの科学会議のリポートを紹介したものだ。もしクウェートが1年間燃え続けるとして(油井が燃えるクウェート・サウジの国境では昼も太陽が届かずまるで闇の部屋にいるようだ。気温も10度下がりカフジは人が住める状態ではない。酸性雨も降っている)毎月空中に50万トンの煙が噴出した場合、「深刻に地球の天候が変わる。アジア大陸を覆うオゾンの穴とアジアのモンスーンの減退。その水は10億以上の人々が依存して生きる作物に不可欠な水である。油井が燃えて6ヶ月を待たずに5億人が飢えるのを見ることになる」と予測した。
そのとき科学者たちは「一体なんでこんなことになったんだ?」と頭を抱えて大騒ぎを始める。それはまだ"暗い部屋"のほんの序の口の一部が見えたに過ぎないかもしれないのに。世界はなんて奇妙でなんて残酷なんだ(リンチの映画<ワイルド・アット・ハート>より)。
* ピエール・サリンジャー:かつてキューバ危機のときにホワイトハウスのスポークスマンとしてケネディ大統領に仕えた側近。現在はアメリカABC の特派員としてパリ在住。

ワシントンDC のデモの声:

●見たこともないような大規模のメディア機構に反対して立ち上がろう!  
ミシガン州フリントは大量の兵隊を徴兵している。それは仕事がないからだ。私は貯蓄貸付組合S&L 倒産で疑惑をもたれた大統領の息子ニール・ブッシュに仕事を見つけた。
「ニール・ブッシュを戦場に送ろう!」「ダン・クエールを戦場に送ろう!」 映画<ロジャー&ミー」の監督マイケル・ムーア

●サダム・フセインがナンバーワンの問題だと、私たちが本当にそう信じると思っているんですか、ブッシュさん!  
私たちは黒人の不釣り合いなリスクの高さを支援することはできません。
特にブッシュが公民権運動を差し止めた今は。黒人の殺人率が年間を通じて高く、その所帯の50%以上が年長の男を欠き、黒人の失業者が白人の2倍もあって、大学にいるより監獄にいる黒人のほうが多いときに、少数の立派な黒人を失うような余裕はありません。  
ハンプトン大学自治会長マーク・ジェームズ

●私たちは怒る必要があります。この国がやってることで罵倒されてるとみんな感じています。黒人、ラテン系、貧しい人たち、私たちは踏みつけにされています。この戦争は 新たな虐待です。  
ハンターカレッジの学生パトリシア・モントーヤ

●最後の最後までブッシュには心があり恐ろしい荒廃のことに気づくと思っていました。そこに住んでる人々のことや貯蔵水を爆撃したこと、電気を破壊したことを取り上げているものは見当たりませんが、あらゆる町が爆弾のくぼみでいっぱいだと聞きます。  
バクダットに娘と孫のいる女性シャーリー・フォックス

Uncle George wants you to forget failing banks, education,drugs,aids, poor health care,unemploiment,crime, racism,corruption,
and HAVE A GOOD WAR
アンクル・ジョージは国民に、銀行、教育、ドラッグ、エイズ、お粗末な健康への配慮、 失業、犯罪、人種差別、汚職といった問題のしくじりを忘れてもらって 戦争を楽しんでもらいたい(VILLAGE VOICE January 29 1991)

WANTED
FOR THE EXECUTION OF IRAQI CHILDREN
DEAD OR DEAD
REWARD

ユダヤ教徒の帽子をかぶったブッシュのスマイル顔写真、片目にユダヤの星。 「お尋ね者」イラクの児童処刑の罪により指名手配
賞金はくだらないペルシャ湾のオイル1バレル(ヨルダンのビラより)
▲TAMA- 5 掲載 1991