エイズの話にはまだ
未使用のマイレージがたっぷり
エイズはもう過ぎたこと。すっかりとはいかないまでも。
ニュースの見出しで大きく取り上げられないだけで実は終わったどころか次から次へ新たな局面に移っている。それにストレートであれゲイであれ神の怒りに触れたかのようにクイーンのフレディ・マーキュリーをやせ衰えさせたあの恐ろしい初期の頃のことをもう誰も思いだせない。赤いリボンが姿を消したせいで、こうも多くの人間が興味を失い触れるのを止めたせいでエイズは立ち去らなかった。
最近アメリカCNN が60歳以上の年輩の異性愛者のあいだで感染者が増えてる傾向について報じた。エイズについて話す機会がない世代であると同時にコンドームの使用に不慣れ、使う必要を感じていないのが主な原因だった。
UK 同様、US でもここ10年の下降線が99年上向きに転じている。 昨年は元イギリスBBC のアフリカ特派員、エドワード・フーパーの著書<The
River >が「アメリカの学者が50年代にポリオ(小児麻痺)ワクチンを開発するためコンゴやルワンダで行った動物実験に使われたチンパンジーの野生化がウイルスの原因」と示唆して医療界にひと騒動起こした。また南アフリカの大統領ムベキの「HIV
ウイルスだけがエイズの原因とは限らない。アフリカの貧困からくる人々の栄養不足や不衛生など複数の要素(アフリカを植民地支配し過去の巨額融資の返済でますます貧困に陥れる西欧諸国こそ間接的エイズ犯)が重なり発病を招いている」との主張はHIV
ウイルス説を支持する世界の専門家の大主流から非難を浴びたが高価なエイズ新薬をなんとかアフリカ諸国に買わせようとする西側製薬会社の戦略を狂わせた。
99年は異性愛者間の感染率がゲイの感染率を追い越した年で記録に残る。予告ではエイズは異性愛者の社会を決して襲わず気をもむのはホモとジャンキーばかりのはずだった。病気の歴史に新たな1ページが加わる。この発表と同時にUK
では都会の神話を実現させたブギーマン、スティーヴ・ロブソンのニュースが発生した。女に目がないイングランド北部ドンカスターのおおぼら吹き、町の異性愛者のHIV
感染レヴェルを一人で国内平均値の2倍に押し上げたスティーヴはもう死んでたが、今でも町は彼の噂に脅えている。町の路地や出入口でそれは大勢の女性と寝たと自慢していたのだから。ある地元の女性は言った。「彼は私たちから安全という感覚を取り上げた、ウイルスは今もその辺にある」
わずか3年前には混合の新薬がウイルスの息の根を止めたも同然だったのが突然薬が効かなくなりまた人が死にだした。それに多くの人があの手の薬が提示する生活の質に疑問を持ち出した。副作用はぞっとさせる代物で衰弱させるばかりか患者から尊厳と自尊心を取り上げる。
世界のエイズ人口の約80%が住むサハラ以南のアフリカのエイズ危機は偽りなく壊滅的だ。南アフリカではエイズで亡くなる人の数が産まれてくる子供の数を上回りコミュニティが消滅している。このままでは10年後には1千万〜1千5百万がエイズ関連の病気で死ぬと思われ大統領と西側製薬会社の戦いは食い意地の張った道義心のかけらも見られない時間と命の浪費だった。WHO
の調査「健康で生きられる年数」がボツワナ、ナミビア、ジンバブエで14年も減少する(ジンバブエは32.9歳、因みに日本人は75歳だ)。
Body & Soul はHIV とエイズに対処する家族を助けるため97年設立された。今では約1千家族の面倒を見るロンドンセンターを訪ねてウェールズやスコットランドから家族がやって来る。彼らは病気と共に生きる大勢の女性と十代の若者の面倒を見る。人から畏れられ、嫌がられ、ほとんど理解されない子供たち、自分がウイルスに感染してるのを学校の友達やガールフレンド、ボーイフレンドに話すという問題に直面してる母親のエイズをもらって生まれてきた十代の子供たちを助けようとしていた。こういうことはエイズが最初に町にやって来たとき人が予想した問題ではなかった。彼らが製作した12歳〜18歳の子供8人がウイルスを抱えて生きるとはどういうことか語るヴィデオの学校での上映には問題があった。介護と情報のインフラが備わってないびしっとしてない社会はますます人が死んでいくことがわかっていなかった。
確かに96年〜97年US でのエイズ関連の死者が47%まで減少、95年の死者1千5百人が99年の9ヶ月で162人と申し分なかった。しかし事態は悪化しだす。新薬はウイルスを撃退する一方で根絶してはいなかった。脳、眼球、睾丸と見つけるのが困難な場所に隠れたに過ぎず、敵を負かす新たな方法を探しだしそれは突然変異した。頻繁に飲まなければならない薬の一つを飲み忘れるとかあまりの副作用にトイレに流すとか患者が治療を中断するか患者の身体が弱まるとウイルスが反撃に出た。HIV
ウイルスは頭のいいやつだ。生き残るために自分を変えて順応する。
またUS の感染率の上昇は目下の薬物治療に対する抵抗のせいもあった。副作用のせいで腕は棒のように細くなるのに胃袋は拡張し背中もこぶで膨れ上がる。生命維持に必要な器官に薬の毒性を処理できなくさせ追い打ちをかける。現にUS
にはエイズは「ウイルスで死ぬのではない。根深い恐怖あるいは毎日大量に飲む毒の薬のせいで死ぬ」と訴えてる人々がいた。
それにまた新薬はクソ高かった。1年続ける抗レトロウイルス剤にかかる費用は最低でも1万ドル。西側製薬会社に知的財産権を無視したと訴えられても当時の大統領ネルソン・マンデラが南ア製の安い抗レトロウイルス剤を造らせたのも理解できる。先駆者はブラジル政府だったが今年2月インドの製薬会社が安価な治療薬の提供を申し出た。
エイズがまだあることさえ忘れてしまったように見える全住民を食い物にする方法をいよいよ見つけてるウイルスに私たちは玄関先で出くわすんだろう。
▲参考資料:i-D july 2000 NEWSWEEK 8/28, 2000
3/7, 2001 tanakanews.com 9/26, 2000(TAMA-30、掲載)
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