バカでマヌケなアメリカの白人

アメリカでブッシュ政権を偽善的、不適格、信頼できないと言葉で攻め立てる本の快進撃が批判不足で当局からの情報の受け売りの今日の主流メディアのまん中にアメリカの指導者について真実を欲求するアメリカ人の盛り上がりをはっきり分けていた。統計学的に政治家や世論調査員が選挙の中枢に結びつけざるをえないほど、うねりは大きい。
マイケル・ムーアの本「stupid White Men 」の印刷部数は8月には50万部を超え、 NY タイムズで6ヶ月のベストセラー記録を達成。ノーム・チョムスキーの「9- 11」は20万5千部(30冊を越える著書の中でその印刷部数はベストセラーも同然)。英国のインディ・プレスから出版されたグレッグ・パラストの独自調査による「The Best Democracy Money Can Buy 」はペイパーバックの版権をアメリカの出版社Penguin Putnam に幾らともわからない額で売却された。

メディアの報道管制をそれぞれの本で表す3人は、「異議を唱える」作家としての人気が自由で偏見のないリベラルな主流逸脱派の枠を超えて広がり、法人アメリカともしかして政府がもはや無視できない草の根運動の成果に相当するとの結論で一致する。
U2 のボノが「飽くなき反抗者」と呼び世界的に評価される革新的な言語学者、マサチューセッツ工科大教授ノーム・チョムスキーは政治に関して積極的な発言をするので有名だ。合衆国の東南アジア政策、ヴェトナム戦争への介入を激しく批判した初期の本はヴェトナム反戦運動のバイブルだった。9- 11後アメリカ国内が愛国主義一色に染まるなか、「超大国であるアメリカの横暴」を主張した今回の本はこれの再現に値する。
本に収まる9月19日のインタヴューでチョムスキーはアメリカを「一流のテロリスト国家」と呼び、同時テロはこれに対するもう一つのテロ集団の挑戦と解く。そして9月11日が「軍国主義化と組織化と、社会民主主義的プログラムを破壊して国の財産を限られた方面に譲渡する計画表をいかに速めるか」を説明した。「9- 11」の売上げを燃え立たせる助けとなったのがこの人の心を動揺させるのと先見の明のある批評集、このなかでチョムスキーは例えばイラクに対する制裁やレーガン政権時代ニカラグアの反体制テロを支援した復讐としてのテロ攻撃など、アメリカの評判に泥を塗ってきた世界のあちこちでの疑わしい政府の行動の目録を作る。「80年代に国務省は中央アジアでの凄惨なテロ犯罪を意図的に無視するという方針を打ち出した。確かに同時テロは残虐行為ではあったが世界にはもっと悲惨な残虐行為が満ちていた。アメリカは自分以外を攻撃することは想定していても自分が攻撃されることまでは考えていなかっただけ」と最近のインタヴューで述べている。「アフガニスタンではタリバンなど全くといっていいほど防御力のない相手を国際的に通用する証拠も提示せず叩きつぶした。驚くべきことに攻撃開始当初、軍事専門家の中には核兵器を使わないとこの戦争は失敗に終わるとの意見すらあった。そんな権利がアメリカにあるのだろうか?」(日本経済新聞8/30、2002 )
3冊の本のなかで多くの点で最も扇動的とはいえ「9- 11」は最も伝統的な販促の道をたどる。小さいが影響力は大きいニューヨークがベースのチョムスキーの出版社 Seven Stories Press はThe Nation や In These Times 、The Progressive といったリベラルな出版物に全面広告を取りつけた。また本屋では目立つ配置で迎えられ、本が店頭に並ぶと主流のメディアが因習打破のチョムスキーを名指しするようになる。チョムスキーの編集者によれば、極端な保守派ビル・ベネットと対決したCNN の番組アメリカンモーニングへの出演がセールスに確かなスパイクを叩きつけた。
テロリズムを焚きつけるアメリカの役割に関する分析で他の選択肢に飢えた大衆がチョムスキー自身もびっくりの予想を上回る売れ行きを叩き出す。これは「9- 11の残虐行為が多くの人にとり考慮すべき開放性と懸念、懐疑論、そして異議へと導く目覚ましコールだった」ことを示すものとチョムスキーは信じる。有名な書店 Barnes & Noble は出版社からせっつかれることなく本を目立つ配置で並べるのを選んでいた。

やはり懐疑的な見方と意見の相違が売れ行きに油を注ぐマイケル・ムーアの本「Stupid White Men 」(アホでマヌケなアメリカ白人)の場合は違った。 アメリカ緑の党を支援する人気ドキュメンタリー映画作家(デトロイトタイガーズ・ファン)、書き手としてもアメリカの虚飾を突く痛快ベストセラーを手がけるマイケル・ムーアによれば、本の当初の発売日に彼の出版社ハーパーコリンズのReganBooks が9- 11直前にブッシュ政権の不適格性を笑いのめした新著の訂正を求めて圧力をかけ、大統領に辞任を要求するブッシュ宛の公開状の中でブッシュを「わが国の安全保障の脅威」と言及する箇所を変えなかったら本をパルプにすると言って脅した。本はまた大統領選をブッシュを「大統領執務室を不法占拠するスコッターにするクーデター」と呼んだ。納得のいかないミーティングでムーアは幹部から「私たちはジョージW. ブッシュ支持で団結しているから、君の異議表示をトーンダウンするよう求めてきた」と明言されたと言う。
しかし内容の一部変更を断固として拒否した後、残されたオプション、自分で検閲をして再販コストを支払うことと対戦させられたムーアはグラブを降ろす。本は潰された。
ルパード・マードック所有の出版部によってどうしても出版拒否されるアメリカの最も人気のあるリベラルな書き手の本というので話は終わっているはずだった。ところが12月1日、ニュージャージ、イングルウッドの図書館員が毎年恒例のニュージャージ市民アクション会議のスピーチでムーアが機を逸した本の結末についてぼやくのを聞いた。数日内に図書館員のチャットルームとリストサーヴィスは検閲のうわさで燃え立つ。そしてハーパーコリンズには彼らのことを検閲官、本の軍旗と呼ぶ図書館員からのE- mail が殺到した。壮観にもハーパーコリンズは12月の終わりには内容を変更することなく2月に本を発売することで同意した。
「Stupid White Men 」はその後ずっと合衆国、カナダ、英国でベストセラーの1位をキープ。これまでのところ2002年ノンフィクション部門のベストセラーも同然だ。
出版社が準備した4都市ブックツアー(本が一度は排除された12都市にまで増える)に従いながらマイケル・ムーアは満場一致のブッシュ支持のよろいかぶとに広がる裂け目を感じ取る。講堂や体育館にはこれまで常連だった環境活動家や自然食ファンの姿ではなくジョージW. ブッシュに投票し、長年積み立ててきた年金・退職金の401K がなくなるせいで6万ドルを棒に振った中流のミスター&ミセス・アメリカがいた。「彼らはブッシュ一族とウォールストリートが下絵を作るアメリカンドリームを信じた、そして目が覚めるとそれがただの夢だったのを悟るんだよ」
その後まもなくふたりの姉妹と組み立てた47都市アメリカンツアーに着手したムーアは4月、ラルフ・ネーダー企画の「民主主義復活」大会で、タンパ・トリビューンが一面で派手に取り上げた同夜のフロリダ民主党員大会に集まるフロリダっ子の3倍の数、7千人に向かって話をした。そして5月、出版社がワーナーブックスにまで跳ね上がると次回作2冊の本の契約で300万ドル蓄える。ヴァラエティ誌は彼が「Stupid White Men 」をベースにしたアニメーション映画を作る交渉をしていると報じている。
"America Loves Bush! America Loves Bush! " 「この7ヶ月、国民が関与するのはこの簡単で励みになるらしいマントラを唱えることだけ。つまり外に出ていってホワイトハウスにいるエンロンを後押しする犯罪者を探り出したり、9月11日前と後に実はなにが起きたかを見破るといった君らがなすべき務めをする必要がないってことだよ」
「もはや大部分のメディアが本物のニュースを無視するといった事態ではないのを、みずから選んで見当違いなことをしているといった事態ではないのを忘れないで欲しい。政治的転換が生じてるのにメディアは完全にこれを見落としている。市民の過半数が争点ではとてもリベラルで進歩的な国家になっている。環境びいきで、選択の自由と勤労に賛成、ビッグビジネスに反対だ。この国の2億の有権者の1億5千4百万人がジョージW. ブッシュに票を投じなかった。これが僕らが暮らすアメリカだ。この国を動かすStupid White Men には嫌気が差している」(Mike's Book Diary 4/15 、2002)

待望のグレッグ・パラストの「The Best Democracy Money Can Buy 」をホットな人気のある本にしてるのもこの種の疑問で、「ブッシュファミリー・カルテル」から2000年大統領選での共和党によるフロリダ有権者名簿のアフリカ系アメリカ人前科者外しまで彼の最も起爆力のある記事録だ。2月にロンドンがベースの小さな出版社Pluto Press から出版された本はぽつりぽつりの合衆国での流通と乏しい主流の書評報道にもかかわらず印刷部数が4万部を超え、6月にはやはりロサンジェルス・タイムズとサンフランシスコ・クロニクルのベストセラーのトップテンを快走した。
BBC の番組Newsnight でホスト役を務める現在ロンドン在住のアメリカ人ジャーナリスト、グレッグ・パラストは記事を書くイギリスの新聞ガーディアンやサンデーオブザーヴァーでジャーナリスト賞を受賞している。調査報道で抜きんでた才能を発揮する彼はヨーロッパでは大いに注目されてるのにアメリカでは無視され続ける。アメリカ政府が必死で隠そうとしていることを次から次へ暴露するのがその理由だ。大統領選でのフロリダ州の票の不正工作、ブッシュの弟の州知事と選管責任者キャサリン・ハリス(後に大出世)が共謀した民主党支持の何千人もの前科者の合法的投票の破棄では、これを全く報道しない主流メディアは二重に罪を犯すことになると非難した。
IMF 国際通貨基金、WB 世界銀行、WTO 世界貿易機構は実は右翼の陰謀家の集まり。情報の規制でデモをする現地の声は聞こえてこないが、秘密の世界政府と彼が呼ぶIMF は自由経済の名の下に例えばボリビアでは住民の飲み水といった世界中の水道施設を含むライフラインを買収しようとしていた。
マイケル・ムーア同様、本来書籍に携わるべきメディアに無視されたパラストは、彼の本の売上げの多くが伝統的でないメディアの発表の場によって駆り立てられたと明言する。例えばワシントンDC の本屋 Politics & Prose みたいなところに出演するのはもちろん、本を繰り返し宣伝するのにパシフィカレディオ・ネットワークを信用する。ムーアのように知名度への期待はないにしろアメリカの20都市をリーディングツアーでつなぎ、3月バークレーでは2晩で1000人以上が、4月NY トライベッカのウォーカースタジオには350人が話を聞きに集まった。
「なにがうれしいって、言うべきことがあるときに、ノーマネー、ノーマーケティング、完璧なアマチュア操業で合衆国で4万部売れることだよ」
本はスペイン語、クロアチア語、トルコ語、イタリア語、韓国語、ブルガリア語に翻訳されている(日本語も翻訳されているらしい)。
アングラでの成功に目を留めた大手出版社から来年2月に発売されるペイパーバック版はブッシュのエンロン・コネクションの新たな情報で更新されてるはずだ。

▲参考資料:The Village Voice 8/21, 2002 michaelmoore.com 4/15, 2002 SHAKE! ベイエリア通信第2号 6/7, 2002 日本経済新聞 8/30, 2002 ●チョムスキーの著書:「9.11」文芸春秋2001「金儲けがすべてでいいのか」(人より利益を優先させる新自由主義の残虐性とグローバリズムの正体を明かす)文芸春秋2002 マイケル・ムーアの著書:「アホでマヌケなアメリカ白人」柏書房2002
●ドキュメンタリー映画「チョムスキー9.11 Power and Terror 」監督ジャン・ユンカーマン(TAMA-32掲載、FALL 2002 )