That's
Our Bush !
慣れっことはいえ、なんて恥知らずな!
ドキュメンタリードラマ『DC 9/11』で大統領再選キャンペーンが始まる
麻薬常用者の逮捕1億人を記念するパーティがホワイトハウスで開かれた。姑バーバラとファーストレディ・ローラの競り合いに頭の痛いブッシュが、パーティの趣向の逮捕劇に連れてこられた1億人目の逮捕者ラモンの所持するエクスタシーを頭痛薬と間違えて飲んでしまう。すっかりハイになってTV
カメラの前でさんざんバカをやり、仮装パーティまで始める大統領のいかれた姿を見てラモンは麻薬はやめて出直すことをカメラの前で宣言する(5/2
2001 放送)。
失策続きだったブッシュは、最後の頼みの中東和平条約文書をなくしてしまいチェイニーと一部議員から強硬に迫られて辞任する。「あなたが負け犬だったとき私は一緒になった。負け犬に戻っても離れない」とローラに言われ、職探しをするブッシュ。やっと八百長プロレスの負け役の仕事を手に入れる。彼は「謎の負け犬マスク」という覆面レスラーとしてデビュー。奇跡的な勝ちを拾う。一方、TV
の施政方針演説の視聴率がプロレスに負けたと聞いて我慢ならない新大統領チェイニーは、これを挽回するのに「謎の負け犬マスク」の試合中継をホワイトハウスからやることを思いつく。自分ではなくブッシュに歓声がわくのにいらだつチェイニーが記念メダルを渡すときマスクを取れと迫る。「取らなければ反逆罪だ!」。そこにブッシュの隣人が中東和平条約の紙切れを持って登場。「これが家の芝生にあった。チェイニー、あんたがシュレッダーにかけて庭に投げ捨てた。ジョージを罠にかけたんだ」。チェイニー「ウソだ、ウソだ」。群衆「負け犬マスク!負け犬マスク!」。チェイニー「やめろ、やめろ、大統領は私だ」。補佐官「戻ってきてもらえますか」。ブッシュ「国民が受け入れてくれるならね」
群衆「負け犬マスク!負け犬マスク!」(5/23 2001 放送、画像も見られるサイトmybush.org )
2001年4月4日から5月にかけて全米 CATV のコメディチャンネル、コメディセントラルで8回分だけ放送されて打ちきられた、他に類を見ないアメリカのひねりを提供するシットコム<
That's My Bush! >は、全作品の脚本が保存されたサイトがあるなど一部ではカルト的人気を得たシリーズだった。そこでブッシュを演じたのが1976年<暁の七人>で主演したティモシー・ボトムズ。脚本を書いたのは<サウスセントラル>の最強コンビ、マット・ストーンとトレイ・パーカーだった。(なんでも2004年ブッシュ再選キャンペーンにぶつけてDVD
が発売されるそうだ)
話変わって昨年9月7日放送のショータイムネットワークの呼び物、進行中の合衆国の歴史を脚色し、先制攻撃の原理を売り、この先18ヶ月のアメリカの外交政策を達観して陳列する、<DC
9/11:Time of Crisis >は同じティモシー・ボトムズが大統領を演じても型違いのスーパースターを演じている。映画は瞬時にしてめざましい選挙遊説先の事前のお膳立てをする。再選キャンペーンの幕を切って落とすと同時に、現役の大統領がフィクションの主人公というアメリカのカルトのパーソナリティに新しい場所を指定する。
全く英雄的な性質のものでないなら、9.11に従事するブッシュの具体的行動を再現しようと企てる映画は魅力的だ。2年以上たった今もあの日実際に起きたことに関して私たちはほとんど知らない。一昨年1月、大統領が最も控えめな表現で9.11は「興味深い日」と語った。確かにその朝の大統領の奇怪な行動は大変興味深いもののひとつだ。
彼は最初の飛行機がWTC に衝突してから30分以上、首席補佐官カードが耳元でそれが計画的攻撃だったのを伝えて15分あまり、教室に留まり「ペットの山羊」という子供のお話を読んで聞かせ、エアフォースワンの離陸直前までゆっくり子供や教師に謝意を表した。後に犠牲者の家族のリーダーが「大統領がそこに座り小学2年生の話に耳を傾けるのを見つめずにはいられなかった。私の夫は建物の中で炎に包まれていたのに」とオブザーバー紙に語り疑問を提起した。後にブッシュはオーランドの聴衆に出来事をTV
の生中継で見たとありえない主張をしてみせる。カードが耳元で囁いたとき大統領はショックとパニックで応えるがボトムズのそれは控えめだった。それに「ペットの山羊」の本を手に取る大統領の次の動きは、あまりにもとんまに見えるせいか映画からは消えている。
当時、シークレットサーヴィスがチェイニーの執務室に飛び込んで副大統領をそっくり地下の安全な場所に運んだのになぜブッシュは安全な地域に急き立てられなかったか?の疑問には、ブッシュが飛び立った後でチェイニーがホワイトハウスの地下に急き立てられたように映画は陰険に手直しする。
<DC 9/11>の脚本家で共同プロデューサーのライオネル・チェトウィンドはブッシュ、フライシャー、カード、ローヴ、ラムズフェルドを含める政府の高官と補佐官に接近できた。脚本は続いて右翼のお偉方に綿密に調べられた。92年実際に起きた戦争主義者で極端な白人史上主義者の「ルビー・リッジ事件」を扱った<殺人容疑>や<キッシンジャー&ニクソン>、<Varian's
War >など政治的に議論を呼びそうな映画とTV 映画が略歴に含まれるチェトウィンドは顕著なハリウッド保守派だ。80年、レーガンキャンペーンの古参だった彼は12年ぶりに右翼のエンターテイメント社会の討論会である水曜モーニングクラブを企画するため雇われた。彼は<Varian's
War >がホワイトハウスで上映された2001年3月、ローヴの提案でDubya ことブッシュと結託した。続いて様々な9.11後のハリウッド・ワシントン秘密会議に掛かり合い、目下大統領のアート&慈善行為委員会の一員だ。<DC
9/11>はあらゆる意味で当局製作の映画だった。
先例はないわけではない。大統領ジョンF. ケネディの戦時の英雄的行為を再現した63年の<PT 109>(彼はPT ボート、快速哨戒魚雷艇の船長)は至上最高のできのキャンペーンポスターになるよう企画された。TV
映画のブッシュの型は<PT 109>や<13デイズ>のケネディを模範にする。だが再選の企ての一環として、キューバ危機のドキュメンタリードラマを奨励する図々しさがJFK
にあったとは思えない。いかに主人公を理想化した伝記であろうと、これらは死んだ大統領を記憶する歴史の一時代の特色を表している作品だ。<DC 9/11>でブッシュは会話も含め、型を変え、ひとまとめにされてメディアスターとして売りに出される政治家だ。現にその大変貌が映画の真のテーマでもあった。
映画は、彼のことを非常に高く評価して新たなオーラを立証する補佐官と状況からなるブッシュのうぬぼれた指揮権についてのお話だ。ますます強靱で、ますます親しみやすく、戦略的にバイブルに頼りがちなブッシュ。ラムズフェルドとアシュクロフトに「型にはまらないやり方」で考えるよう指図するブッシュ。この新しいブッシュはしきりに補佐官を教育している。意味深長な「現代性と人種・宗教が異なる集団が共存する社会的多元主義と自由」についてライスに教える。フォックスのTVシリーズ<24>で大統領の元妻を演じるペニー・ジョンソン・ジェラルドのライスは主人の後につきまとい、うっとりしたあこがれの目で見る超聡明なプードルといったところだ。
結局、<DC 9/11>が重要視するのは歴史的出来事のドキュメンタリードラマではなく寓意物語を正当化することだ。現役の大統領を魅力的にすることで政治的神話作りをするご都合主義の作品だ。そして9.11はTV
映画に打ってつけの偶像「私たちのブッシュ」のための破廉恥なプロパガンダを伝える媒体だということだ。あの朝までブッシュの大統領職を容認する人は50%に停滞していた。ビンラディンとフセインは現に大統領の地位に多大な貢献をしてきている。イラク侵略戦争がアメリカの「帝国」への変身に必要不可欠なものだとすれば、「歴史の事実はオレのもの」と言わんばかりの<DC
9/11>はブッシュのアメリカ初代皇帝へのプロセスの一環と見ることもできる。
CIA 分析官として27年務めたレイ・マクガヴァンは「こうも露骨でこうもたびたび、そしてこうもあからさまにウソをついてきた合衆国大統領はいない」と言った。ブッシュ政権がしていることはアメリカをヴェトナム戦争に引きずり込んだジョンソンの駆逐艦への2度の攻撃の虚偽報告よりはるかに悪いと彼は信じる。「ジョンソンは弾みでそれを講じた。18ヶ月に及び組織化され計算ずくの、戦争は正義だとする途方もなく皮肉なウソのキャンペーンとは大違い。この違いは重大だ。あまりにもあくどすぎる」
ブッシュに宛てた書簡のなかで、マイケル・ムーアがこうも言っている。「でっちあげをやったジョンソンは攻撃されたように見せかけねばならないのをよく理解していた。ともかくも住居侵入者に口止め料を払って大統領執務室のテープから18.5分を消去したニクソンは国民に真実を見破られたら軽蔑されるのを承知してた。せめてまやかしの主張をバックアップする武器の演出でもしてくれてたら、後であんたが大量破壊兵器を埋めたとわかっても国民は気にかけなかっただろう。むしろその必要をあんたが悟ったことで誇りに思っただろうよ。いんちきっぽい証拠を言葉のごまかしでバックアップするあんたの図々しい拒絶は、アメリカ人のつらへの束にした平手打ちだ」
EU の53%の人々がイスラエルに次ぎ世界の平和にとり脅威と感じている国の大統領は、「2002年、モスクワで歴史的な米ロ条約に署名するときにプーチンの目の前で噛んでいたガムを手に吐き出してからサインしてロシアのメディアの怒りを買った」ブッシュその人だ。
▲text by sakae suzuki ▲参考資料:The Village Voice Aug.27- Sep.02 2003 by J.Hoberman
The Philadelphia Inquirer Sep.11 2003 by W.Bunch www.michaelmoore.com
June26 2003
(TAMA-34 掲載、Jan.2004 )
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