from one- sided to no- sided
イラクの歴史教科書

アメリカを含め、ほとんどの国がプロパガンダを教えると言ったのは95年の本<Lies My Teacher Told Me >の著者ジェームズ・ローエンだった。極端な例は州によっては教科書から進化論を省くアメリカ。あの国では人は神が創ったことになっている。
15年間バース党に従順なイラクもまたしかり。20世紀の歴史ではアメリカは欲張りの侵略者、イラク人はことごとく正当化される勝利者で、シオニストは世界の苦しみの原因だ。サダムを放逐した合衆国当局は教師がこれからは事実に基づく歴史的出来事の記述を教えることになると申し述べた。では問題の記述とやらは誰のものなのか?
2003年 11月、1万6千校の学童5千500万人に配布する新しい改訂教科書が刷り上がる。合衆国が指名したイラク人教育者チームがきびしく手を入れ改訂したもので、サダムとバース党のイメージはすべて削除されている。でも大部分の近代史を含め、ますますこうなのだ。
政治論争を避けるのが望ましく、事を急ぎたい合衆国主導連合政権内にある教育省は、91年湾岸戦争、イラン・イラク戦争、イスラエル、アメリカ、クルドに言及するすべてを含み「異論あり」とみなされる内容すべてを削除した。3人のアメリカ人顧問はイラク人が歴史を解釈する上で圧制的な影響を及ぼすと見られたくない。同時におそらく反アメリカ、反イスラエル、宗教的に過激となるであろう本文を是認する立場でもいたくない。 結果として、アメリカ国防省に雇われたビル・エヴァーズは「20世紀の歴史の帯がまるまる削除された」と述べる。そして教育省のカリキュラムを任された亡命イラク人フセインが「反アメリカ的なものはどれもプロパガンダとみなして除外した」と述べるように、これまでの一方に偏ったものから記述なしに偏るものに移行した当面の問題に非難が出る。
というわけで、歴史的出来事を無視するか、生徒が彼らの過去のなにをどう学ぶかの判断を生徒自身に任せるか、決めるのは主に個々の教師の責務になる。歴史の教師になるため学んでいるバグダッド女性教育大学の学生は、イラクには合衆国に侵略される長い歴史があると学生に教えるつもりだと言う。「アメリカ人はテロリストと私が判断することを学生には教えるつもり。それが私の知ってることであり、明確に教えたいことなのです」
サダム統治の初期、サダムは中東で最もしっかりした学校制度を築き上げていると信じられた。82年にはイラクは文盲の根絶でユネスコ賞をもらう。女性の読み書き能力の評価はイスラム国家全体で最も高い部類に入った。そしてほとんどの中東の学校制度とは違いイラクの教育は気前よく世俗的だった。しかし91年湾岸戦争後10年間で学校の消費が90%も急降下したとユニセフは判断する。先生のサラリーは月6ドルに下がり校舎は悪化した。サダムが自分の宮殿に金を浪費するせいで学校を窮乏させ苦しめたと合衆国は言うが、異論のある問題の小さな実例に歴史教科書の著者が取り組もうとする学校制度を無能にした責任は国連の制裁にあると多くのイラク人は述べている。
しかし消費が下落するだいぶ前にイラクの制度は傷つき始める。73年サダムがバース党の観点から全部の教科書を書き直すよう命じたことで、授業にはバース党のイデオロギーとバース党びいきの実例が織り込まれるようになったと75年オランダに亡命した大学講師フセインは述べる。カリキュラム改訂は最終的に国防省に雇われたこの男に委ねられる。今年5月、彼はバグダッドのたくさんの学校を訪れて反バース党の考え方の教師67人を選んだ。彼らは週に2度、鉛筆を持ってユネスコとユニセフの事務所で落ち合い、これまでのイラクの歴史教科書の本文からバース党のイデオロギーを全部抹消した。
ついひと月ほど前、イラク暫定占領当局のブレマー行政官は元バース党員に政治的罰を与えるために教師2万8千人を解雇した。元CIA 係官は「本当にバカげたことだ。ネオコンはバース党とナチスを同一視しようとしてこんな失策を行った。イラクを再建して統治できる有能なイラク人となんとかうまくやるより、無能なイラク人に国を丸投げするほうを選んでしまった」と述べた。また別の元係官は第二次大戦後、ドイツの元ナチス党員を解体したときの国民感情を敵に回さないような正確な実施と比べてイラクでは行き当たりばったりの結果がどういうことになるかまじめに考えていないと非難している。

▲参考資料:The Christian Science Monitor Nov.04 2003 by C.Asquith MENAM.COM Nov.21 2003
(TAMA-34 掲載、Jan.2004 )