銃の乱射はボウリングのせい?

今年のカンヌがいつもと違うのは政治問題を避けるのではなくコンペ部門にあえてイスラエルの監督アモス・ギタイとパレスチナの監督エリア・スレイマンの作品を並べて討論の場を作るのはもちろん、アメリカの銃問題に監督自らが突撃インタヴューして、社会に巣くう暴力性と不寛容を率直に憤る異色ドキュメンタリー作品「Bowling for Columbine」をコンペ部門に持ってきたことだ。
映画は、生徒12人と教師1人を殺害した1999年のコロラド州コロンバイン高校で起きた男子生徒2人による銃乱射事件と監督の故郷ミシガン州フリントの小学校で起きた6歳の少年による6歳の少女の銃殺害事件の現場を歩き、その背景に迫る。とはいえ映画を支配してるのは徹底したユーモアのセンス。そう、監督はあのマイケル・ムーアだ。
地元の新聞「フリント・ヴォイス」の創刊者で10年間編集長を務めたジャーナリストが1989年、自動車産業に依存して生きるわが町フリントがGM のリストラ策で大打撃を受けるのを見かねて会長のロジャー・スミスにインタヴューを試み、大企業の横暴を痛烈に諷刺したのが監督としてのデビュー作「ロジャー&ミー」だった。
最新作の題名「Bowling for Columbine」というのも事件を起こしたティーンエイジャー2人組がトレンチコート・マフィアと決めつけられ、連中が好きだったマリリン・マンソンの音楽が悪いとメディアによってリンチにされたせいでマリリン・マンソンのライブが中止になったのを受け、2人が銃の乱射を始める前に地元のボウリング場でボウリングをしていた事実から「彼らはボウリングが好きだった。なぜボウリングを禁止しない?」(まさかボウリングが暴力を誘発しないよな)というムーア流のジョークだ。
いつもの野球帽とTシャツ姿から一転して窮屈なスーツ姿で現れたカンヌの会見場でマイケル・ムーアは、「銃所有の大半は中流以上の白人で、貧困層が犯罪の根源というのは誤り。自己保身を最優先して弱者を切り捨てるアメリカの社会風土が被害拡大の背景にある」と言い、銃問題を「政府ぐるみのテロリズム」と糾弾した。大問題を取り上げないでローカルな殺人事件ばかりをセンセーショナルに取り上げて社会不安をあおるメディアの怠慢と、その不安を政権維持に利用する権力を厳しく非難することも忘れなかった。

▲参考資料:asahi.com KOL NET カンヌ便り2002 
●カンヌで記念賞を受賞した新作の北米プレミア上映は9/6 トロント映画祭、NY 上陸は10月の予定。日本公開は来年。
●マイケル・ムーアの作品:Roger & Me 1989, Pets or Meat 1992, Canadian Bacon 1995, The Big One 1998 (アスペンフィルムフェスティヴァルとデンヴァーフィルムフェスティヴァルでベストドキュメンタリーを受賞。ヴィデオを探せ!)(TAMA-32掲載、FALL 2002 )